第22話:生け贄
「れ、レイブン嬢……どうして」
「どうしてって、ここに私が来てはいけないの?」
「そんなことは……」
そう答えながらも、カンナはラヴェナの様子を観察する。教室にいた時と変わらない振る舞いと、引き連れた取り巻き達。ローラに対してなに一つとして変わらないラヴェナの姿に、カンナはほくそ笑んだ。
(本当に本当に来てくれてありがとう。ラヴェナ)
と、そう思いながら。
「というか、貴方がいたらここが辛気臭くなるじゃない。貴方ただでさえ暗くて血生臭いのに」
アハハッと取り巻きと一緒になってローラを笑うラヴェナ。
だが次の瞬間、カンナはラヴェナの手を掴んだ。そのローラの行動にラヴェナを含めた全員が驚く。カンナは今にも泣き出しそうな顔をしながらラヴェナに訴えた。
「レイブン嬢……どうか、どうかもう、やめて頂けませんかッ」
「はぁ?急になに?ってか離しなさいよ」
「どうしていつもいつも、そんなことばかり言うのですか……?私は、レイブン嬢に何もしていませんよね?」
ラヴェナはすぐにいつもの意地の悪い表情に戻るが、カンナは構わずそう言い続けた。すると、ラヴェナはハッとカンナを鼻で笑った。
「どうして?そんなの貴方が目障りだからに決まってるじゃない」
「目障りって……」
「あのねぇ、普通気付かない?貴方、自傷行為なんて汚らわしいことして、自殺未遂起こして周りに迷惑をかけてる自覚ないの?死にたがり令嬢なんて呼ばれてるのに」
「それは……だって……」
「ほら、そうやってハッキリしないのも鬱陶しいのよ。公爵令嬢のくせにみっともない」
「きゃッ」
そう嘲笑ったラヴェナが、カンナの身体をワザと押すように振り払った。小さな悲鳴をあげて、カンナは手すりのすぐ傍に転んでしまう。
「あら、みっともない!無様過ぎて笑えるわ」
ラヴェナがカンナを指差して笑うと、周りも彼女を見て嘲笑った。
「ほんとに無様だわ」
「ねぇ、アレのどこが公爵令嬢なの?」
「もう学園に来なければいいのに」
そんな声がカンナを囲む。カンナは唇を噛んだ。それを聞いて悔しがっているように見せる為に。
「ねぇ、これで分かったでしょう?なんで貴方がこんなにも嫌われているのか」
「……ッ」
そう言って追い討ちをかけてくるラヴェナが、ニコニコしながらカンナの顔を覗き込んで来た。
「貴方みたいな人間、さっさと死ねばいいのよ」
と、周りには聞こえないように、だけどローラには確実に聞こえるように残酷な言葉を口にしたラヴェナ。
ずっとずっとそうやってローラを追い詰めて、笑い者にした人間の吐いた言葉に、カンナは静かにその瞳に冷たい憎悪を宿した。
「……レイブン伯爵家は、そうやって他人を虐めるのを生業にしているから貧乏貴族と言われるのですね。勉強になります」
「…………はぁ?」
ならばこちらもと、カンナは周りに聞こえない声量でラヴェナにそう言い返した。
ラヴェナの表情が、不快そうに歪んだ。
「貴方……誰に向かってそんな口効いてるのよ!」
そう怒鳴ったラヴェナが、カンナの胸ぐらを掴んだ。
「レイブン家を侮辱しているの!?」
黒髪を振り乱しながら突然怒り出したラヴェナに、取り巻きや周囲にいた野次馬は動揺する。
「私はっ……本当のことを言っただけで……」
「なんですって!?この……死にたがりの出来損ないがッ!」
ラヴェナがカンナの胸ぐらを掴んだまま立ち上がらせると、ガッ!と彼女を手すりに押し付けた。
「いっ……痛いです……ッ!」
「うるさい!この私に刃向かうなんて……許さないわよ!」
「れ、レイブン嬢……っ」
「レイブン家を侮辱したことを謝りなさい!今すぐに!」
怒りに震えるラヴェナと、怯えて痛がるカンナの間を風が吹き抜ける。
「わ、分かりましたから……離し……!」
「早く土下座なさい!ほら!」
そう言ってラヴェナがカンナを突き飛ばす勢いで手を離したその時だった。
カンナはその勢いを利用して、身体が手すりにぶつかるのと同時に、両足を宙に浮かせた。ラヴェナが突き飛ばした勢いを殺さずに、カンナの身体は手すりの外へと倒れていく。
そこでラヴェナは、ハッと怒りから我に返り、一瞬でその顔を真っ青に染めた。
(ラヴェナ・レイブン。私達の為に生け贄になってくれて……ありがとう)
ラヴェナの顔を見たカンナは彼女に礼を言いながら、静かに目を閉じた。
そして次の瞬間、カンナは中央庭園へと落ちて行った。




