第21話:絶好のスポット
午前中の授業は無事に終わった。予想通り教師陣から絡まれる事はなかったが、授業の合間にラヴェナ達が絡んで来るのがカンナには少し鬱陶しかった。同じクラスだと余計に逃げ場がない。
だが、これだけ絡んで来るのならとお昼休みになって教室を出たカンナは丁度良い場所を探し始めた。
ローラからだいたいの場所は教えられているが、実物を見たほうが早いだろうと、一人歩く。相変わらずヒソヒソされるが、ビクビクしているように見せながら歩けば誰も声を掛けて来る事はなかった。カンナの脳内地図と照らし合わせるのも兼ねて歩き続けると、フワリと暖かな風が頬を撫でた。
(おっ、ここから渡り廊下か外廊下みたいになってる……?)
風の方へ向かうと、そこは校舎同士を繋ぐ渡り廊下を兼ねた回廊が広がっていた。
(なるほど……こういう作りになってるのか。さすがお貴族様の学園)
初めて見るものばかりだが、カンナは初見ですというのが顔に出ないように気を付ける。本来のローラは知っていて当然の場所なのだから、ここで「え、すごーい!」なんて言ってたら、監視が奇妙に思うかも知れないし、すぐにロディアス達にバレてしまうだろう。
そのまま回廊の手すりへ近づいて見下ろしてみると、そこには見事な中央庭園があった。どうやらこの回廊は、庭を囲むように作られているらしい。カンナのいる場所は3階だが、そこから見ても美しい庭園だとよく分かった。
そして庭園には、ベンチやテーブルが複数設置されており、ランチを楽しむ生徒達で溢れていた。
(……生徒達の憩いの場でもあると)
談笑している生徒達を静かに眺める。
こうして見ている分には、この学園にはいじめなど一つもないように見える。
しかし、現実は非情だ。カンナから見える景色がいくら綺麗であろうと、その背中には嘲笑と悪意のある言葉がいくつも突き刺さっていた。この学園の醜い裏の部分を、カンナは嫌でも知っている。
だが、それ以上にこれからする事への期待に胸が膨らむ。
(ここにしよう。折角こんなに生徒がいるんだから)
心の中でニヤリと笑ったカンナは、そのまま食堂へと足を向ける。
「こんなところで何をしているの?シュバリエ嬢」
しかし急に呼び止められたことで、その足が止まった。
「……ご機嫌よう。スカーレット嬢」
ローラを呼び止めたのは、ロザリア・スカーレット公爵令嬢だった。
学園内でも屈指の美貌と実力を兼ね備えた人物で、古来より炎系魔法を使える一族の人間である。
「あら、ちゃんと挨拶できたのね。私と同じ公爵令嬢なのに、いつもビクビクしていた貴方が」
「そ、それは……申し訳ございません」
「いいのよ。誰も貴方に期待していないもの」
真紅の髪を靡かせながら棘のある言葉を吐くロザリアに、カンナは演技をしながら折角の美貌も性格が悪ければお粗末なモノだよな……と思っていた。
ローラから聞いていたのは、ロザリアもローラをいじめる側の人間だということと、魔法使いの少ないカーディナル王国でも相当な実力者であるということ。
神官のように回復特化の魔法を使える者は修行が必須だが、そもそもこの世界では魔法は才能のある者しか使えない。王族ですら、使える者は極小数。幸いにも、ロディアス達にはその才能はなかったらしいが、あの腹黒達が実力を隠している可能性がある為、警戒するに越した事はない。
それを踏まえて、今カンナの目の前にいるロザリアは、魔法の才能がズバ抜けている天才で厄介な敵だという事だ。
「ところで、貴方ここでロディアス様にお会いした?」
「え?」
「会ったの?会ってないの?」
「あ……いえ、会っていません」
「……そう。だったら、もしロディアス様にお会いしたら私が探していたと伝えなさい。良いわね?」
「は、はい」
そう言い残したロザリアは、カンナの返事も待たずに横を通り過ぎて行ってしまった。
(感じ悪〜……わざわざロディアスを探してるってことは、ロザリアってもしかしてロディアスのことを慕ってるとか……?確かに同じ公爵令嬢だし、ロディアスの婚約者候補に選ばれててもおかしくはないか……でもやっぱ、あの感じ苦手。ラヴェナと違うタイプの嫌な女だわ)
ローラを見下しているのを隠しもしなかったロザリアに、カンナはため息を吐く。
(ま、切り替えていこう。どうせあの女はロディアスに見向きもされないんだろうし)
だって彼等が愛しているのはローラだ。ロザリアのような令嬢がいくらいても、彼等が選ぶのはローラ一択。ローラをいくらいじめようが貶そうが、選ばれる事はない。ここはあの王子達の作った、そういう世界だ。
改めて食堂へ向かい、ランチを済ませたカンナはまた一人で廊下を歩く。
(食事中に絡まれなくてラッキ〜。ローラさんが言うには、いつも虫とか入れられてたらしいから警戒してたけど……やっぱり早く食べるのが良いかも)
食事をもらって早々、周りを無視して席についたカンナはすぐに食べ始めた。公爵令嬢らしからぬ速さであったが、彼女の前の世界では給食の時間がこの学園よりも短かった。下品な食べ方ではなかったはずと思いながらも、周りが何かするよりも先に食べ終えたので異物を入れられる心配はなかった。
そうして目的地の回廊へ戻って来たカンナは、徐に手すりへ身を預ける。お昼休みは残り20分程度。生徒達はまだ庭園や回廊にいる。日差しが差し込み、明るくなった回廊。
こんな目立つ場所にいれば──
「あらぁ?死にたがり令嬢がなんでこんな所にいるの?飛び降りる練習?」
──ラヴェナはこうやって絡んで来る。




