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第20話:現状把握

 ロディアス達に教室まで送ってもらったカンナは、道中で見かけた保健室に立ち寄った。そこで痣の手当てをしてもらいながら、カンナはずっと引っかかっていた。


(痣のこと心配してた割には、保健室連れて行くとかしなかったな……それだけレオンのした事に怒ってたってこと?)


 矛盾めいた王子達の行動に、カンナは先生に礼を言って教室へ戻った。

 そしてまた悪意のある視線を受けながら自分の教室へ戻ると、ローラの席に座った。

 落書きだらけのその席は、カンナからすればいじめ漫画でよく見る風物詩のようなものだった。なんなら前の世界で自分も一度されていたが、授業で目障りなので教師陣に訴え掛けて新しい机を用意させたものだ。


(死にたがり、役立たず、汚い、暗い……うーん、よくあるテンプレの語彙。シンプルイズベスト。でも、貴族が沢山通っててもこういうのやるんだなぁ)


 つまりはまぁ、カンナからすればこんな机の落書き程度はダメージにもならないのだ。初見でここが自分(ローラ)の席か〜という認識だったのもあるし、なんならもう少し酷めの言葉を彼女は期待していた。

 拍子抜けしてしまうほどしょうもない落書きに、カンナは教科書を開いて平気で頬杖をつく。それを周りが可笑しな目で見ているのも無視し、彼女は授業の予習を始めた。

 数日をかけたとは言え、やはり異世界の知識。カンナのいた世界とは異なる世界観と常識は、魂が抜けるような思いをしたくらいに苦戦の連続だった。

 その最中で、ローラは言った。教師陣は恐らくレイファスの指示でローラに嫌がらせをしていたと。例えばローラが授業中に分からない問題を当てられた時、答えられない彼女をクラスメイト達と笑い者にするというものがあったらしい。そして落ち込んだ彼女をレイファスが慰めるということだ。

 相変わらず下衆だなとカンナは思うが、それを踏まえて導き出される答えは、レイファスの指示でしか教師陣はローラに嫌がらせできないということ。それ即ち、現在大怪我から復帰したばかりのローラ(カンナ)に対して、教師陣がなんらかの嫌がらせする事はほぼないということだ。

 勝手な事をすれば、レイファスを筆頭に彼等は教師でも容赦しないだろう。


(そもそも、ローラさんの話を聞くに例え正解でも難癖つけて泣かせてそうだよなぁ……)


 そうだとしても、ローラは勉強を頑張っていた。例え笑い者にされようとも、今のカンナのように教科書を開いて予習や復習をしていた。少しでも自分の評価を良くしたいが為に、彼女は必死だった。まぁ、その努力はいつも握り潰されていたのだが。


(現時点で分かったのは、ローラさんへの周りの評価は『誰でもいじめてオッケーな女ってくらいにカースト底辺』ってところかな。そして問題の王子達は……)


 心の準備をしていても、やはりあの王子達はカンナからすれば異質過ぎた。

 自分達とローラの立場を気にする素振りも無い声の掛け方や、友人を越えた距離の詰め方に、取って付けたような慰め方と許可もなく身体に触れる時の触り方……全てが歪に映った。

 普通はローラのいじめの一因になってるかもしれない状況であんな堂々と声を掛けないし、恋人でもないのに手の甲にキスする必要性はない。ローラを心配してる割には上辺だけの慰めばかりだし、痣を確認させる為とはいえ、許可も無しに触れて袖を捲るとは思わなかった。というか、ザイラスはローラに触れすぎだとカンナは思った。

 そう振り返りながら、カンナはあの場で彼等はローラが全てを知ったことを知らないと判断したが、あれは早計だったかもしれないと思い始めていた。従順に彼等の望むローラを演じ、それをお決まりのように慰めてきたから、カンナはバレていないのだと考えた。

 だが、今この場で考え直すと、もしローラが全て知っていても彼等は同じ対応をしていた可能性も浮かんできた。

 相手は他人を手玉に取り、己の手を汚さない連中だ。隠し事は得意だろうし、恐らくカンナよりも何枚も上手。


(警戒は続行。一番危険なのはロディアスだな……あの3人の中で一番気持ち悪い感じがしたし……レイファスは頭が良いからボロ出したら終わるかも。ザイラスはセクハラしてきそうだから、2人きりにはならない方がいいかもな……)

 

 悶々と一人でそう考えていると、ふと、カンナは視線だけを廊下の方へ向ける。行き交う生徒達に混じって、異質な視線をこちらへ向ける生徒が現時点で2人。どうやら、ここではローラの一挙手一投足が監視されているらしい。恐らく、ロディアス達が派遣した従者が生徒に変装し紛れているのだろう。

 ローラが何か変な行動をしていないか、指示を出した人間がちゃんとローラを傷付けているか、監視の必要性を考えると大体この辺だろうとカンナは視線を教科書へ戻した。

 悪意のある視線の中で、それ以外の意味を持つ視線とはあまりにも分かりやすく目立つ。周りを気にしてばかりいたローラでは、違いなど分かるはずもない。だが、第三者のカンナから見れば、素人でも分かるような監視っぷりだった。恐らく、ローラのあまりの気付かなさに彼等は油断しきっているのだろう。


(舐められてるよなぁ……全体的に。まぁ、それならそれで好都合だけども)


 そう思っていると、急にローラの席に影が差した。


「ご機嫌よう、シュバリエ嬢。久しぶりに登校したと思ったら、また懲りもせずに勉強をしてるの?」


 カンナが顔を上げて見ると、そこに立っていたのはラヴェナ・レイブン伯爵令嬢だった。その後ろには取り巻きの令嬢が数人いる。

 ローラから教えてもらった、ローラをいじめて来る側の人間──要するに、敵だ。


「ご、ご機嫌よう、レイブン嬢。長いこと療養していましたから……置いていかれないようにと、思いまして……」


 辿々しくそう答えてみると、ラヴェナは馬鹿にしたように鼻で笑う。


「貴方みたいな出来損ないが、この学園の授業についてこれるわけ?いつも先生方からちゃんと勉強するようにって言われているのに」


 そう嘲笑してくるラヴェナにカンナは、なるほど……と冷静に相手を分析する。

 ローラの話では、ラヴェナは根っこからのいじめっ子。弱小貴族や平民を馬鹿にしていじめては、ローラのように大人しくなんの抵抗もしない人間を蔑む。典型的ないじめっ子気質だ。


「だから、こうして勉強しているんですが……」

「でも無駄じゃない?貴方頭の出来が悪いんだから、ここにいても無意味でしょ」

「そんなことは……」

「あっ、だからいつも自傷行為なんて気持ち悪いことできるのね?頭が悪いから!ねぇ、貴方達もそう思うわよね?」


 ラヴェナがそう取り巻きに言うと、彼女達も一緒になってローラ(カンナ)を馬鹿にし始めた。それに萎縮するフリをしながら、カンナはなるほどね〜と理解する。


(こうやっていじめて来るわけだ。こんなの良くあるテンプレだし、私は別に平気だけど……ローラさんにはキツいだろうなぁ)


 そう思いながらも、カンナの目はラヴェナという最初の()()を観察していた。

 ロディアス達に協力している駒の一つで、とてもとても最初の敵に相応しいレベルの最低な人間。



(そうだ。試してみよう。コイツを生け贄にして)



 嘲笑うラヴェナ達に見えないように、カンナは静かに笑みを浮かべるのだった。

 


 

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