第12話:順番にやりましょう
そう言ったカンナの目は鋭く冷たい。そして、この場にいる全員が震えるほどにカンナはローラの顔で狂気的な笑みを浮かべていた。
「なぜ、なぜだ……」
「ん?」
「なぜお前は、そうやってローラを殺すことを躊躇わない!?」
「はぁ……ラグナさん、またそれですか?さっきも言いましたよね。私はローラさんの意思に従うと」
「だとしても!お前は完全に死ぬ前のローラと話したのだろう!?その時にどうして止めなかった!?」
「止める権利は私には無いからですね。だってこの身体の持ち主はローラさんで、私は偶然にも彼女の身体に入った第三者ですから」
ラグナの言葉にカンナは呆れたようにそう返す。
「というか、わざわざ言わないと分かりませんか?これでも私はちゃんと確認しましたよ?ローラさんに『今でも死にたいと思ってますか?』って、それに頷いたのは他でも無いローラさんです。だったら死んだ彼女の代わりに私が生きていくのは違うでしょう」
「なっ……」
「そもそも、いい加減なんで彼女が死んだのかを自覚してもらえませんか?あなた方があの下衆王子達に加担したせいで、彼女は文字通り1人で死ぬ道を選んだんですから」
家族達が本気でローラを守っていれば起こり得なかった自殺。この家族達は、それをただの流れ作業のように処理してしまった。
最初から王家に刃向かう覚悟でもあれば、ローラはきっとここまで追い詰められなかった。
「はぁ……ホントに疲れるご家族ですね。長くなりましたが、私からあなた方へのお話は以上です。王子達にこの事を伝えるのならご自由にどうぞ。私はその前に、この首を落として身体に火がつくように準備しておきますから」
悪戯っ子のように笑って脅迫するカンナ。
だがもう誰も、今の彼女に反論できる者はいなかった。
「……では、これから私はローラさんを理不尽に虐めたメイド達への躾がありますから」
そう言って立ち上がったカンナは、割ったティーカップの破片を踏みながら部屋の出口へ向かって行く。黙ったままの家族達に背を向け、扉の前に立った彼女は「あっ、そうそう」と思い出したように振り返った。
「一つ、言い忘れていました」
先程よりも静かな声音に、ラグナ達の視線が集まった。
「『私に対しての謝罪はいりません』……との事です。これは正真正銘、あなた方の言う家族だったローラさんからの伝言です」
ローラの顔で、まるで彼女がそう言っているかのようにワザとらしくカンナはそう言った。先程ラグナ達を翻弄していたような、怒りと呆れの目はそこにはない。
ただただ純粋に、何も期待していないような冷めた顔。家族達が何度も見てきた、ローラが大人しく従順になる時と同じようなその表情に彼等は固まった。
「では、私はこれで失礼致します」
そうして出て行ったカンナの後を追う者は、ここには誰もいなかった。
「順調……かな」
サロンを出たカンナは、軽く伸びをしながら、そのまま使用人達が集まっているであろう大部屋へと向かっていた。クロークに頼んでサロンの人払いついでに一箇所に全員集めてもらったのだ。どうせラグナ達は暫くサロンから出ることすらできないので、すぐに使用人が必要になる状態にはならない。
そう考えたカンナは、目的の部屋にたどり着くと、そのまま何も言わずに入った。
「ローラお嬢様、ご命令通りこの屋敷にいる使用人を全て集めました」
「ありがとう。クローク」
ローラに気付いて頭を下げるクロークと、同じようにメイド長のレジーナと他の使用人達が頭を下げる。それと同時に、カンナはローラの仮面を被る。
「皆さん、急な召集だったのにこうして集まってくれてありがとう。お父様達のことが心配な人をいるかもしれないから、手短に済ませるわね」
そう話しながら、カンナはこちらをチラチラと見てくる使用人の顔を数人確認していた。アウラを解雇した一件は、瞬く間に使用人達に共有されたらしい。ならば急な召集をかけたローラに対して警戒するのも無理はなかった。今から何をされるのか……という視線と、そこまで警戒しなくてもローラなら平気だろうという舐められた視線が突き刺さる。
「最近の皆さんはどうも弛んでいるようなので、今ここで全員平等に躾を行います」
そう宣言したカンナに、使用人達のどよめきが広がる。
「クローク。ここに鞭を持って来なさい」
「え?」
「早く」
「は、はい!」
鞭という単語に、クロークだけでなく、レジーナを含めた使用人全員が困惑する。だが、公爵令嬢であるローラには逆らえないと、クロークはすぐに鞭を取りに走った。
「レジーナ。使用人達を全員綺麗に整列させて」
「ろ、ローラお嬢様?」
「何を突っ立っているの?さっさとしなさい」
まだ混乱している様子のレジーナを、カンナは鋭く睨んだ。その圧にただならぬものを感じたレジーナは「承知致しました」と素早く頭を下げると、メイドや執事達を整列させていった。
「ローラお嬢様、こちらを」
「ありがとう。クローク」
ライディングクロップとも呼ばれる短い鞭を受け取ったカンナは、試しにと軽く振ってみる。ヒュンッと短く風を切る音と、パシッとカンナ手を軽く叩く音が部屋に響いた。
「では、順番にいきましょう。全員両手を出しなさい」
そう命令されれば、使用人達は黙って従うしかない。恐る恐る両手を差し出す姿勢となった彼等に、カンナはニコリと笑った。
「加減できなかったらごめんなさいね」
そうして彼女は、震えている彼等の目の前で鞭を振り上げた。




