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第11話:理解したか?


「黙って見届ける、だと……?」


 困惑気味のラグナに対して、カンナは静かに答えた。

 

「はい。私がこれからこの身体で何をしようと黙って見届けて欲しいんです。要するに『邪魔するな』ってことです。あ、あとこれから私はローラ・シュバリエとして生きますから、いつも通りラグナさん達は私を『ローラ』と呼ぶようにしてください。もしかしたら協力してもらう場面もあるかもしれませんし、娘の名前を呼べない家族になるのも可笑しな話ですから」


 そう笑う彼女の顔には、相変わらず鋭い刃が見えている。ラグナは、彼女の放つ圧に息を呑むしかなかった。


「……お前はロディアス様達の前でも、同じことが言えるのか?」


 だが、そこで今まで黙っていたレオンがカンナにそう言い出した。

 レオンは、ローラの身体を乗っ取ったカンナが、今のような態度で出ることをよく思っていなかった。

 ロディアス達はローラに異常に執着している。彼女の周りを扇動しローラを傷付けさせ、自殺未遂させるくらい追い込み、家族すら利用してこの世界から孤立させてしまう。全てはローラがロディアス達だけに縋るしかないように、助けて欲しい、愛して欲しいとロディアス達だけにそう願うようにする為だ。自分達だけしか見ないように、それはそれは狂気的に愛しているのだ。

 彼等はローラの事ならなんでも分かるし、知りたがる。そんな彼等を相手に、ポッと出のカンナがローラの真似をして無事でいられるわけがない。ボロを出して怪しまれれば、彼等はカンナに牙を剥く。

 そしてローラが死んだと分かれば、ロディアス達は何が何でもローラを甦らせようと画策するだろう。あの王子達は、ローラ以外の人間に対していくらでも冷酷かつ残虐になれる。

 それを、カンナは知らないのだろうとレオンはそう考えた。だから今、ここで教えてやろうと彼はそのまま言葉を続けようとしたが、それは他でもないカンナの返答によって遮られた。


「言いますよ。だって、あの王子達の唯一の弱点はローラさんですから」

「……は?」


 呆気に取られたレオンを笑いながら、カンナはほくそ笑む。


「順に説明しましょうか?私は死んだローラさんと話して、色々分かったんですよ。まず、どうしてあの下衆王子達がローラさんの自傷行為や自殺未遂を本気で止めないのか。その理由について考察しましょうか」


 優雅に座りながら、カンナはレオンだけでなくラグナ達にも目を向ける。

 

「これは先程言った通り神官の魔法で回復ができるからですね。今までずっとそうしてローラさんは助かってきており、それと同時に助けてくれるのは王子達だけだという認識を彼女に擦り込ませる為のお決まりの流れ……そうですね?ラグナさん」

「ああ、その通りだ……」

「正直にどうも。私からすれば、ローラさんをなんだと思ってるんだってくらいには腹立たしい事です。が、その目的は裏を返せば、気弱で大人しいローラさんがする自傷行為や自殺未遂は、全て神官クラスの魔法で治療可能であるくらいにはたかが知れているから、放置しても問題なかった……という事だと私は考え、これが本気で止めなかった理由だと考えつきました」


 そこまで言ったところで、カンナはニコリと不気味に笑う。


「死にたいと思いながらも、無意識下で死の恐怖に怯えていたローラさんは、手首を切っても大量出血するほどではなかった。毒も本人が思う致死量には程遠いくらいにしか飲めずに終わり、飛び降りも全身の骨が砕けるようなことはなかった。無意識にローラさんは踏み止まってしまっていたんでしょう。誰でも死ぬのは怖いですからね。だから神官が簡単に治せる怪我で今までは済んでいた」

「……ッ」

「だが彼女が全てを知って飛び降りた時、いつもなら回復後すぐに目覚めるのに、数日経っても目覚めなかったことに王子達もあなた方も焦っていましたよね?」


 カンナがそう聞くと、ラグナとレオンがゆっくりではあるが首を縦に振った。


「そりゃそうでしょう()()で死ぬつもりだったんですから、ローラさんは」


「ッ!!!!」


 2人だけではなく、今度はエリーラに寄り添っていたルイも息を呑んだ。


「王子達とあなた方は、ローラさんを下に見ている。いや、見すぎている。だから誰も気付かなかった。彼女が本気で死ぬつもりだったということに」


 またいつも通りに対応すれば良いという驕り。それが確かにラグナ達にはあった。どうやったって、公爵家のお嬢様であるローラの自傷行為や自殺未遂はお粗末なもの。気弱で大人しい彼女は、ただただ己を傷つけるだけで、そのどれもが致命傷には足り得なかった。


「だって、今までがそうだったからですよね?何をしたって、ローラさんは助かる段取りだった。魔法で助かっても、それを本当の意味で助けてくれる役目は家族ではなくあの下衆共だった。ワザと治せる傷痕をそのままにして、後から治してあげたり、寄り添ってあげたりすれば、ローラさんに自分の傷を癒してくれるのはあの王子達しかいないと思わせられる。それが一連の流れになっていた。違いますか?」

 

 ラグナ達はもう何も言い返せなかった。

 カンナの言う通り、どうあがいてもローラの傷は治るようになっていた。例え傷痕が残ったとしても、それは深い傷を負ったわけではない。彼女の言うように、ロディアス達によるローラへの間違った認識の植え付けだ。治る傷痕をわざと残し「今回は重傷だったんだ」という、間違った認識をローラにをさせる。そこをロディアス達が「こんなに傷付いて可哀想に」と寄り添い、神官を呼んで綺麗に治す。それを見たローラはこう思っていただろう。やっぱり自分にはロディアス達しかいない、ロディアス達だけが自分の事を見てくれる……と。

 カンナは、ローラと共にその可能性に辿り着いた時、その工程があまりにも気持ち悪くてローラに同情した。当のローラも、それに心当たりしかなかったことに恐怖を抱いていた。

 

「でも今回はそうならなかった。なぜならローラさんは本当に死んでしまったから」


 エリーラの喉から引き攣ったような声が洩れた。

 

「だけど、どういうわけか私がこの身体に入ったことで、ローラさんの身体だけがまだ生きている状態になってしまった。それが今の状態ですね」


 そこまで話したカンナは不気味な笑みをそのまま、改めてレオンに目を向ける。

 

「そして先程も言いましたが、ローラさんはこの身体が生きている事を望んでいない。だけど、あなた方や王子達はローラさんに生きて貰わないと困る。でも、私はローラさんの意思を尊重する」

「つまり、何が言いたいんだ……?」

「要するにですね。ローラさんではない()が考える自傷行為や自殺行為は、あなた方や王子達の認識を遥かに凌駕できるのではないかと言うことです」

「ッ!」


 レオンの顔色が変わる。他の3人も、同じように表情が変わった。


「自慢ではありませんが、自傷や自殺方法の知識は嫌でもあるんです。それこそ、公爵家のお嬢様が考えつかないようなもの、焼身とか……ね?」

「貴様ッ……!」

「言っておきますが、あなた方にそれを止める権利はありません。今まで幾度もその機会はあったのにそうしなかったんですから」

「くっ……だが、それがロディアス様達の弱点がローラだという事にどうして繋がる!?」

「分かりませんか?私は今、ローラ・シュバリエを人質に取っているんですよ」

「なッ……」

「それはつまり、ロディアス様達にとって最愛であり弱点であるローラさんを私はいつでも殺せるということです」


 ローラは死んだ。だがその身体はこうして生きている。しかし、ロディアス達がローラの死を知って、カンナが身体に入っていると知れば、ローラの魂を甦らせようと画策する。先程までレオンはそう考えていた。

 だが、それも器である身体が必要不可欠だ。器がなくては魂は蘇らない。美しく可憐なローラを全くの別人の器に入れるなど、ロディアス達が考えるわけない。カンナの入っている身体を取り戻そうとしてくるはずだ。なぜなら彼等は、ローラ・シュバリエの容姿も中身も愛している。全てがローラ・シュバリエのままでないといけないのだ。なぜなら彼等はローラを異常なまでに愛しているから。

 カンナは今、それを分かった上でローラをロディアス達の弱点だと言ったのだ。

 

 

「私は今、この世界の誰よりもローラ・シュバリエ(この身体)を殺す権利を持っているんです」


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