第29話 娘に『リル』と名付けたら、空から魔王城が落ちてきたので掃除する
ぽかぽかと暖かいビニールハウス(絶対結界)の中。
タロウは、自分の手のひらにちょこんと座る小さな妖精を見つめて微笑んだ。
「お前、小さくて光みたいだな……よし!」
「?」
「お前の名前は『リル』だ!」
その瞬間、妖精はパッと目をキラキラと輝かせた。
「リル! わたし、リル!」
「おお、気に入ったか?」
リルは弾丸のように飛ぶと、タロウの鼻にすりすりと頬を擦り付けた。
「パパだいすきー!」
「……災厄の妖精に名前つけてるわこの人」
クロエが遠い目をしているが、タロウは愛娘の可愛さにすっかりデレデレだ。
「よーし、リルの家も作らないとな。小さいけど、ちゃんとした家作ろう」
タロウがそう決意し、立ち上がろうとした、その瞬間。
急激に空が暗くなった。
雲を真っ二つに割り、巨大な『飛行城塞』が島の上空に姿を現したのだ。
それは、世界を恐怖で支配する魔王軍の第七偵察基地。
「……魔王軍の飛行要塞!? なぜこんな絶海の孤島に!」
アレンが顔を青ざめさせ、聖剣を抜く。
降下してくる巨大な要塞。
しかし、その真下にはリルがさきほど張ったばかりの結界があった。
ドゴォォォォン!!
凄まじい轟音と共に、魔王軍の要塞が結界に激突した。
世界最高硬度を誇る要塞の魔鋼装甲が、まるでティッシュ箱のようにひしゃげ、畑のすぐ横の空き地に無惨に墜落する。
一方で、リルの張ったビニールハウスは傷ひとつなく、中のトマトの葉っぱすら一切揺れていなかった。
「いてて……おい、ここはどこだ!」
墜落した要塞の歪んだ扉を蹴破り、ゴブリンや下級悪魔などの雑魚兵たちが這い出してくる。
「なんだこの人間ども! ヒャッハー! 殺して手柄にしてやるぜ!」
魔族たちが武器を構えた。
しかし、タロウは目を輝かせながら要塞を指さした。
「おおおお!!」
「ちょうど家作ろうと思ってたら、空から『でっかいプレハブ』が落ちてきた!!」
「「「プレハブ!?」」」
アレン、セシリア、クロエのツッコミがハモる。
「でも、長年放置されてたプレハブみたいだな。中に害虫がいっぱい湧いてる!」
「パパ、あぶないー!」
「大丈夫だリル! アレン、中を掃除するぞ!」
タロウが愛用のクワを構える。
「はい師匠!! 聖剣技・大掃除!!」
アレンが(魔族だと分かっているのに)完全に清掃員の目つきで聖剣を振るう。
「き、貴様らふざけるな! 我ら魔王軍第七偵察隊だぞ!」
魔族の隊長が名乗りを上げた、その時。
「うわあああ!?」
タロウが本気でドン引きした顔で叫んだ。
「喋るタイプのデカいゴキブリだ! 気持ち悪い!! そぉい!!」
「ギャアアアア!?」
タロウの放ったフルスイングのクワの風圧が、魔族の隊長ごと雑魚兵たちをまとめて空の彼方へ「掃き出し(ホームラン)」てしまった。
「魔王様ァァァ!!」
吹き飛んで星になっていく雑魚兵たちは、泣きながら宇宙の彼方で叫んだ。
「謎の島に落ちたら、農家に掃除されましたァァ!!」
……数分後。
「よし、害虫もいなくなった!」
タロウがホウキ(クワ)を肩に担いで汗を拭う。
「これで今日からここが家だ!」
完全に魔王軍の要塞が、タロウのマイホームとして制圧された瞬間だった。
「わーい! パパのおうちー!」
リルが嬉しそうに要塞の周りを飛び回る。
「ちょっとトゲトゲしてて黒いから、明日ピンク色にペンキ塗って、トゲに洗濯物干せるようにしよう!」
タロウが楽しそうに明日のDIYの予定を語る。
「……魔王軍の要塞が、ただの『農家の家』になったわね」
クロエの呆然としたつぶやきだけが、平和になったSランクの島に虚しく響いていた。
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