第四十三戦
「全員ね………… 私にとっては、いつもの事なんどけどね」
姫は、そう呟くと手に持っていた紙切れを両手に持ち。
"ビリィ…… ビリィ……"
細かく、更に小さく破くと、捏ねるように手のひらでこねくり回す。やがて、天井を見上げると、その塊を静かに胃に流し込む。
「ルカ? なんで、開けないの? 表の鍵なら貴方が持っていたはずでしょ? 早く開けたら? 皆んな、そこで待ってるんでしょ? 失礼じゃなくて?」
「…………すみません。リアナ皇女」
"ガチャッ"
扉の鍵が開く音。それと同時に鳴り響くは、姫に容赦なく向けられる、無数の銃火器の装填音。海軍中将の紋章が姫に向けられる。
「リアナ皇女よ。すまないが、一度部屋を出て……ッ!」
複数人の海軍兵を引き連れ姫の寝室へと足を踏み入れようとするガルマン中将の足が咄嗟に止まる。銃を構える海軍兵達も、思わず銃口を下げる。
「誰の許可を得て部屋に入って来てるのかしら? 出ていきない」
「リアナ皇女…………」
ルカの表情が凍りつく。その視界には、窓際に背をつけたまま、こちらを見つめる姫の姿。そして、拳銃の銃口を自身の喉元に向け、こちらを見つめる姫の姿があった。
「何をしているんだリアナ皇女! 軍用拳銃…… なぜ、そんな物を!」
「聞こえなかった? 早く出てってよ。足が入ってるんだけど? 心配しなくてもレナード中将なら、ここには居ないわよ。ルカ、代わりに探して良いわよ、何処にもいないから」
「えっ、でも……」
「早くしなさい。私も暇じゃないのよ」
姫が、そう言うとルカは一礼とともに部屋の中を探索するように調べ始める。その間、姫と海軍は一定の距離感を保ちながら互いに睨みを効かせる。しかし、姫の手元は僅かに震えていた。
「何が狙いだ」
ガルマン中将が問いかける。良かった…… まだ、レナードは捕まってないみたいね。もし、捕まっていたなら、私の生死なんて関係無いでしょうからね。私を殺したところで、全ての罪をレナードに押し付けてしまえば、それでお終い。でも、レナードが生きている以上、私の死が外の陸軍に伝わるリスクが伴う。この引き金は、私じゃなくて貴方達に向いてるのよ? ガルマン。
「で? レナードは見つかったかしら?」
「……いえ。他に隠れられる所もありませんし、ここにはいませんね……」
「良かった。聞こえたかしら? ここには、いないみたいよ。用が済んだんなら早く持ち場に戻ったら? 私、今から着替えるから扉閉めてくれない? それとも…… 用があるのは、レナード中将じゃなくて私だったかしら?」
凄まじい形相でコチラを見つめるガルマン中将に、姫は一歩も引かない態度を貫く。
「ルカ。リアナ皇女を見張っておけ。万が一があってはならないからな。全員、武器を下せ。ここに罪人はいない。次をあたる」
「私の、メイドに命令しないで。見つかると良いわね。レナード中将」
「心配には及ばない。必ず見つけ出す………… その拳銃、レナード中将が持っていた物か?」
「それが、どうかしたかしら?」
姫の言葉に、ガルマン中将は、背を向けた。
「そうか。奴は今、銃を所持していないというわけか…… いい事を聞いた」
扉が閉まる。それを合図に姫の、手元の震えが僅かに収まる。そっか…… 今、私が死ねば、レナードがこの死を海軍によるもの、そしてそれを指示したお父様の計画として処理する。そうなれば、国は混乱渋滞に陥って崩壊する。お父様に勝てる…… いや、引き分けか…… それも、悪くないのかな?
「リアナ皇女。もう、それを下ろしてください。ハラハラして見ていられませんよ。私が、預かりますから……」
「あら、貴方まだいたの? 聞こえなかったの。出ていって。一人で着替えられるから。外で見張ってなさい」
「えっ……? 私も? どうして……」
『全て、敵です』
「早く。私の部屋を汚すつもりなの?」
姫は、自身に向けていた銃口を静かに床に向ける。




