爺の進言
エルエ国の王都ルト。
そこで、今回の敗北を受け、軍議が行われていた。
「頭を上げよ、ロヤ」
エルエ王の目の前で、知将ロヤは座り込んで頭を地面につけるほど下げていた。
それをやめさせようと、エルエ王は言葉をかける。
「いえ、この度の失態、私の見立てが甘かったためです。王のお足を舐めても良いほどの失態だと思っています」
ロヤは、頭を上げることなくそんな事を言う。
(それは、あなたが王の足を舐めたいだけでは?)
横で見ていた秀の将ジアヒスは、呑気にそんな事を考えていた。
ジアヒスだけでなく、その場の誰もがエルエ王がロヤを処罰するとは考えていなかった。
そして、実際にエルエ王は処罰をする気などないため、ロヤの態度に、困ったような顔をして椅子に座って天井を見上げるのだった。
「今回は敵が見事と言わざるを得ないでしょう。あれだけの兵が残って籠城すれば、援軍が間に合わないほど早く城を落とせるとは考えませんからね」
守の将ズェガェが、ロヤの事を庇った。
ロヤの失態と言うのは、そのことである。
ロヤが城に残す兵を決めたのだ。籠城すれば、援軍が必ず間に合う兵を残していたはずだったのだ。
「我々は、ゼルバと言う男を甘く見過ぎていたのかもしれませんね」
ジアヒスもズェガェに乗じて、ロヤを庇った。
「そうだな。面を上げよ、此度の事は不問と致す」
それを渡りに船と言わんばかりに、エルエ王はロヤを下がらせる。
「寛大な処置を、ありがとうございます」
そこまで言われてやっと、ロヤは頭を上げたあと立ち上がり、頭を再び下げて王の正面から退いた。
「しかし、これは困った事になりましたね」
宰相デゼイルキが困り顔で言う。
その理由として、今回の敗北はエルエ国にとってかなり痛手であったことがある。
実は、フェズ国とエルエ国に国力の差はほとんどなかった。
しかし、今回の戦で、そこに大きな差が出来てしまったのだ。
確かに、エルエ国は三城攻略を成功させた。
だが、実のところ、そこに払った犠牲は大きかったのだ。
そこに、さらに加えて、今回の敗北である。
しかも、フェズ軍はほとんど兵を減らさずに戦を終わらせたのである。
それによって、フェズ国とエルエ国の兵力に差ができ、エルエ国は圧倒的に不利な状況になってしまったのだ。
「どうすればいいと思う?」
これにはエルエ王も困り切り、家臣たちに意見を求めるしかなかった。
その場にいる武官も政官もざわめくが、その先の答えは決まっているようなものであった。
「しばらく守りに徹し、一度態勢を立て直すしかないかと」
誰もが言いづらいそれを、守の将であるズェガェは言う。
「何を弱気な。城が奪われたというのであれば、俺が奪い返してきてやろう」
それにすぐさま反論したのは、武の将オグルブだった。
(冗談ではないのが困りどころなのですよね。そこが魅力的でもあるのですが)
オグルブの言葉に、ズェガェはそんな事を考えた。
「まあまあ、どうしましょう、王よ」
ジアヒスが王からの言葉を、王へと返してしまう。
しかし、これは答えがあり気の話であるので問題はなかった。
「わかった。しばらく、守りに徹することとする」
「むぅ」
王に言われては、オグルブも黙るしかなかったのである。
そして、エルエ国の軍議は終わったのだった。
♦
フェズ国の王都キエラ。
その王の自室を、今回の戦の指揮官である、将軍マチェバナンが訪れていた。
「お久しぶりでございます、フェズ王様」
フェズ王の自室は相変わらず、多くの女がおり、
「ああああ」
嬌声を上げながらフェズ王への奉仕を行っていた。
「ん?マチェバナンか。まだ生きてたのか」
失礼な言葉ではあるが、フェズ王にはそれが許されるのだ。
そして、マチェバナンはそんな事は気にも留めない。
「覚えていていただき、ありがたく思います」
「ふんっ、お前らが俺を嫌ってここに来ないのは知っているぞ」
お前らというのは、マチェバナンの親族と言う意味ではなく、まともな全ての将軍の事を指している。
「まさか、そのような事は。枯れ果てた爺には、ここは少し刺激がつようございますので」
「それで、そう言うほどまでに来たくない場所に何をしに来たんだ?」
フェズ王が嫌味たらしく言う。
「儂は長い事戦を渡り歩いてきました。爺ですからの、その儂が戦に置いて一番大事だと考えているものは――」
「爺は話が長くてかなわんな、見てわからんのか、俺は忙しいのだ」
フェズ王はそうは言うが、フェズ王自身は今はただ裸で寝転がっているだけである。
その体へ女達が群がり、たまに気が向いた時に、その乳房や秘部などを弄ったりするくらいである。
それでも、フェズ王からすれば、マチェバナンの話よりも大事な事なのだった。
「ほほっ!これは申し訳ありません。儂が戦で一番大事なのは運だと思っています」
「ふむ、強さではないのだな」
意外な事に、フェズ王はその話に食いついた。
「もちろん強さは大事です。ですが、このおいぼれは、見ての通り運良く生き残っているだけですじゃ」
「はははっ!なるほどな!」
何故かフェズ王の機嫌が良くなり、マチェバナンはホッとする。
「今回ゼルバめは水攻めを行い。雨が降ったことによって勝利致しました」
「そうなのか、つまりゼルバは運が良かったと言いたいのだな」
フェズ王は、今回の戦の事は知りもしなかったし、興味もなかった。
「その通りでございます。儂は、これが天命だと思っています」
「天命?」
フェズ王が怪訝そうな顔をして聞く。
「はい。ゼルバに、この国を守れという天命が下ったのです。だから雨が降り、勝利をしたのです」
「そうか。それで、結局何が言いたいのだ」
「ゼルバめは、この国を守るのに必要な傑物でございます。どうか大事にしてくだされ」
それを聞いて、フェズ王は一瞬きょとんとした顔をすると、すぐに大笑いをしだした。
「ハハハッ!そんな事を言う為に、命の危険を冒してまでここに来たのか。馬鹿な奴だ」
「愚か者で申し訳ございません」
マチェバナンは、馬鹿にされた事も意に介せずに頭を下げる。
「ふんっ!そんな事言われんでもわかってるわ。もうよい、俺は忙しいんだ下がれ」
そう言うと、フェズ王は一際大きな胸を持った女の胸に顔をうずめ、舐めだした。
「あんっ!王様!ありがとうございます!」
もう、マチェバナンの話を聞く気はないという感じである。
「これは申し訳ありませんでした。それでは、失礼いたします」
話しを終えたマチェバナンは、すぐさま無事に帰路についたのであった。




