カラザイ城の戦い⑨
囮であったはずのゼルバ軍が勝利したことを、ジンゼ将軍はマチェバナン将軍へと伝えた。
「やはり、そうなったか」
だが、その驚くべき事実に、マチェバナン将軍は驚くこともなくそう返した。
「やはり……ですか?予想なされてたのでしょうか?」
ジンゼは不思議に思い、マチェバナン将軍へと聞く。
「いや、お前にわからないのも無理はない。ゼルバが取った戦略は極秘事項じゃったからな」
「戦略ですか?それは?」
「別に特別な戦略ではない、しかし、儂は何度も城攻めを経験してきたが、その戦略を使ったことはない。難しいし、めんどくさいからのう。それは……」
マチェバナンは一呼吸おくが、ジンゼはその戦略に心当たりがある。
「水攻めじゃ」
そして言った。
それは、ジンゼの予想通りの戦略であった。
「水攻めですか……しかし、何故ゼルバ様は水攻めを選択したのでしょう」
ジンゼのその言葉に、マチェバナンはとても楽しそうに笑った。
「ほっほっほっ、儂もそれは聞いたよ。そしたら、出来そうだから、と答えられてしもうたわ」
「はぁ……」
それは、ジンゼからしても呆れるしかない理由であった。
「本当に、天才と言うのは困ったものじゃよ……じゃが、これほど早く水攻めで落城できたのは何故じゃと思う?」
その質問を受けて、ジンゼは少しだけ考えて、すぐにそれに気が付く。
「雨ですか?」
「そうじゃ。もちろん、ゼルバが妖術で天候を操ったわけではない。偶然じゃ。じゃが――」
マチェバナンはそこで一息つき、更に言葉を続ける。
「今この時に、その偶然が起きたのは、それは天命じゃ」
マチェバナンは立ち上がり、嬉しそうに笑みを浮かべながら空を眺めた。
(父上のここまで嬉しそうな顔は始めて見たな……)
その笑みを見て、ジンゼはそう思う。
「ところでジンゼよ。もっと大事な報告があるのではないのか?」
マチェバナンは見透かしたように言う。
マチェバナンは、雨が降った時点でゼルバの勝利を確信していた。
したがって、今欲しい情報は、その先の情報である。
「はっ!フェズ軍の援軍は、もうあと少しと言うところまで接近していたようですが、ゼルバがほぼ無傷で城を取ったと知り、戦力差を考えて引き返したようです」
それは、敵の情報である。
「ふむ、ではこちらにも敵の援軍は来ないし、ゼルバの方にも援軍を送らなくても良いという事じゃな」
マチェバナン将軍は、立派な髭を触りながら言う。
「では、此度の戦はこれで終わりじゃ。全部隊に解散を言い渡せい」
「はっ!」
ジンゼが返事をして、城に残る兵にその命令が伝わる。
♦
当然、ギヨウの元にもそれは伝えられ、ジェスが報告に来ていた。
「ふわぁ~、もう帰っていいのか、そうか」
ギヨウは大きな欠伸をしながら答えた。
戦が終わったあとは、城や街の修繕をしていたが、それはギヨウには退屈であった。
「それで、ゼルバはちゃんと逃げたんだろうな?」
「ああ、なんか勝ったみたいだよ」
「なにぃ!」
ジェスが何気なく言い、ギヨウは一気に頭がさえて、目を見開き大きな声を出した。
「囮じゃなかったのかよ!」
「いや、そう言われても、僕にはよくわからないよ。ただ勝ったとしか聞いてないからね」
「まぁ、その辺は後でゼルバに聞けばいいか」
ギヨウはそう言うと、大きな声で仲間に伝える。
「おい、解散だってよ!一旦帰っていいぞ!このところ戦続きだったからな。少し休みだ!」
「おお!」
ギヨウの言葉に、アカツキ隊は嬉しそうに返事をする。
「休みなんて初めてだな」
「ずっと戦してたからな」
「どこ行こうかな」
そして、各々そんな事を言いながら、早い者はもう帰りだしていた。
「よし、方向が同じ奴を集めて、俺らも帰るとするか」
ギヨウがシルルとミュエネの方を向いて言う。
「ええ、早く帰りましょう。やっぱり家でゆっくりと寝たいわ」
「早く家でまともなものを食べたいものだ」
そして、しばらくして、ギヨウ達もカラザイ城を後にした。
今回の戦は、フェズ国の大勝利で終わったのであった。




