カラザイ城の戦い⑧
カラザイ城が落城し、この戦の総大将であるマチェバナン将軍は城へと入っていた。
そして、各部隊長を集めて、今回の戦の戦功を讃えた。
その中には、当然ギヨウもいる。
「皆の者、難しい城攻めを、よくぞたったの五日でやってくれた。私としてはこの三倍、いや……四倍はかかるつもりであった。素晴らしい働きであった」
マチェバナンは、まずは部隊長全員を褒め称えた。
「その中で、今回特に大きい功を上げた者がいる。今から呼ぶので、前にでてくるように」
そして、そう言った後、マチェバナンはもったいぶって少し間を置いた。
その間に、功績を与えた部隊長達は緊張をする。
それはギヨウも同じである。だが、そのほとんどの者が、それは自分ではないという事をわかっていた。
なぜならば――
「セロガ隊のセロガ!」
敵本丸を崩したのは誰か、皆知っているからである。
(やっぱりか……)
それは、ギヨウからしてもわかっていた事である。
だが、城門を開けたギヨウとて、並々ならぬ功であるのは間違いないため、緊張してしまっていたのだ。
「はい!」
セロガが静かに答えて、ゆっくりと歩いて行く。
そして、マチェバナン将軍の前で立ち止まった。
「セロガ隊よ。汝らは今回の戦に置いて、本丸を落としたという最も大きい功を立ててくれた。その功績をこの場でたたえよう」
「はっ!ありがとうございます」
マチェバナン将軍の言葉に、セロガは頭を下げた。
ここでは言葉だけだが、当然戦が終わった後には多くの褒章が出るという事である。
そして、功績を称えられたセロガは後はこの場から離れるはずであった。
しかし、セロガは頭を下げたまま一向に長時間動かなかったのである。
それには理由があった。
セロガは考えていたのである。戦が終わり、この場に来るまでずっとである。
「どうかしたかの?」
「はい、一つだけいいでしょうか?」
そしてセロガは、考えた末に決断した。
「うむ、よいぞ」
「それでは。確かに、この城の本丸を落としたのは我々セロガ隊ですが、それは城門が開いたからこそです。城門を開けたのは、そこにいる男が率いるアカツキ隊という部隊です」
セロガがギヨウの方を指さした。
そして、当のギヨウはと言うと、素直に驚いていた。
(お高く留まった貴族様でいけ好かねえ奴だと思ってたが……なんのつもりだ?)
今この場で、こんなことをわざわざ進言する理由など、セロガにはないのである。
「ほっほっほっ、律儀な男じゃ、もちろん知っておるわ。特別取り立てるつもりはなかったが、そう言われてしまっては仕方がない。アカツキ隊のギヨウも前へ」
「は、はい!」
とはいえ、まさか呼ばれるとも思ってはおらず、急に呼ばれて、ギヨウはぎこちなく返事をしてしまう。
「城壁が開いたからこそ城を落とせたとも言える。つまり、汝の働きでカラザイ城は落城したも同然である。ここにいるセロガと共に、汝を褒め称えよう」
「はっ!ありがとうございます!」
ギヨウがセロガと同じように頭を下げる。
そして、少ししてから頭を上げた。
「確かに城は落とした。だが、敵の援軍がどう動くかわからぬ。皆、しばらくこの城の防衛のために滞在するのだ。皆の者気を抜くではないぞ」
「「「はっ!」」」
最後にマチェバナンがそう言うと、部隊長全員が頭を下げる。
「それでは解散とする」
そして、解散となった。
ギヨウが横を見ると、セロガはもうギヨウに背を向けて去ろうとしていた。
「おい、待てよ!」
ギヨウはその背中に声をかけるが、セロガは振り向かなかった。
しかたがなく、ギヨウは小走りをしてセロガの横へと並ぶ。
「慣れ合うつもりはない」
そこまでして、セロガはやっと口を開く。
「じゃあ、なんで俺の事を進言したんだよ」
セロガは矛盾をしている。
「借りを作りたくなかっただけだ」
「借りって……」
そんなものはない。
(俺が開けた城壁を通ったのが借りか?)
しかし、強いて言うのであれば、そう言う事なのだろう。
「ついてくるな。邪魔だ」
改めてセロガにそう言われ、ギヨウはそこで止まった。
もう理由を聞くという目的を果たしたからでもあった。
「素直じゃない奴だな」
そんなギヨウに、横から声をかけるものがいた。
オルファ隊の隊長、セニオガネスである。
「おう」
そのにこやかな笑顔に、ギヨウは軽く手をあげて挨拶をすると、セニオガネスも同じように手をあげて返した。
「俺達も頑張ったんだけどさ。セロガ隊に先をこされてしまったよ。まあ、こっちはこっちで偉そうなやつ何人かやったから、報奨はそれなりにもらそうだけどね」
「お前らが荒らした後を追ったから、こっちは全然だったけどな」
ギヨウが少し嫌味っぽく言う。
実際にアカツキ隊が倒した将は、最初の城壁の上で倒した部隊長くらいのものであった。
「まあ、でも良かったじゃないか。報奨ももらえるし、名前も売れただろ」
「ていうかそれよ、借りは作りたくないとか言われたけど、借り作ったのは俺の方になるんじゃないか?」
セロガに助けられたような形である。
「うーん……」
それに、セニオガネスは深く考え込んだ。
「ギヨウから見ると借りを作られたのかもしれないけど、セロガから見ると借りを返したってことでいいじゃないか」
そう言って、セニオガネスは笑った。
「まっ、いっか」
そして、ギヨウは考え込るのがめんどくさくなって、そう結論付けたのだった。
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落城から四日の時間が経つ。
マチェバナンの息子、ジンゼの元にその報せは届いた。
「なんだと!誤報ではないのか!」
その報せを聞いて、ジンゼは驚いて声を荒げる。
「はっ!間違いはありません」
ジンゼの部下は、改めてその報告をする。
「ゼルバ様の軍が、ケウエハ城を攻略に成功致しました。勝利にございます!」




