カラザイ城の戦い⑤
四日目の火攻めは、雨により中止となった。
その日は戦を続けるのをやめ、フェズ軍は陣で休まる事となる。
その本陣で、マチェバナン将軍は雨の降る空を見上げながら立ち尽くしていた。
「なんと……これは天命か……」
茫然と立ち尽くすマチェバナン将軍に、息子であるジンゼが歩み寄る。
「雨が降って来たのは仕方のない事でしょう。お体に障ります。中に入ってください」
ジンゼは老いた父を思って、マチェバナン将軍を天幕へと連れて行く。
「違うぞ、ジンゼ。そうではないのだ」
「どういうことでしょう?」
マチェバナン将軍はそれに答えることはなく、黙ったままであった。
しかし、少しの後に口を開く。
「今日の戦はもうよい。雨がやまなければ、明日からはまた力攻めじゃ」
「はっ!そのように命令を出しておきます」
ジンゼには、マチェバナン将軍の様子が妙である理由はわからなかった。
しかし、戦中にそんな事を探る気もなかった。
♦
全ての兵は陣に戻っており、当然アカツキ隊も自分達の天幕へと戻って来ていた。
しかし、五百もの兵を入れるほど天幕は大きくはなく、大半の兵は外で雨に打たれ続ける事となってしまう。
そう言った兵達は、水を弾きやすい布を用いて、何人かで寄り添ってお互い暖を取っていた。
「今日の攻撃は、全部無駄になっちまったな」
その兵達の近くで、ギヨウは一人立ちながらそう話しかけた。
「ああ、ってギヨウ!お前は隊長なんだから、中に入ってろよ」
シンザが驚いて声を上げる。
「いや、ボズルにちょっと用があってよ」
「ボズルに?」
「あいつなら、さっきしょんべんしに行ったぞ」
「どっちだ?」
「あっちだよ」
「ありがとよ」
ギヨウは示された方へと歩きだしたが、
「ああ、そうそう、ミュエネが雨は多分しばらく止まないって言ってたぞ!」
その途中で立ち止まり、そんな事を言い残していく。
「ええ!」
「まじかよ!」
歩兵からすれば、それは厳しい事であった。
ギヨウが少し歩くと、ボズルの巨体が見えてくる。
ギヨウは、そのままボズルの隣に立って、連れションを始めた。
「ん?うわ!隊長か、驚いた」
おもむろにボズルが横を見て、驚いて体を震わせた。
見た目によらず小心者である。
「よう」
「隊長もしょんべんか、でもこんなとこまで来なくてもいいんじゃ?」
「いや、ちょっとお前に頼みがあってよ」
「俺に?」
「ああ、お前にしか出来ない事だ」
「まあ、隊長の言う事なら、なんでも聞くよ」
そこで、ボズルの水分が切れ、少し経ってからギヨウの水分も切れる。
「ああ、実は――」
ギヨウは、それをボズルへと話す。
それを聞いたボズルは、感心したように頷いた。
「なるほど、頭の悪い作戦だけど試してみるか」
「おい、頭が悪いは余計だ!」
「ハハハッ!すまねえ」
ボズルは笑いながら謝る。ギヨウも本気で怒っているわけではなかった。
「じゃあ、頼んだぜ。シルルとミュエネにも話しとくよ」
「ああ、任せとけ!」
♦
そして夜が明け、五日目の戦が始まる。
その前の本陣での話である。
「よし、じゃあシルル脱げ」
ギヨウは、少しだけ広い天幕の自分の場所で、シルルとミュエネと対峙していた。
近くでは、ローゼオロメメアもくつろいでいるが、ギヨウ達には興味がなさそうである。
「妙な言い方をするな!」
シルルが怒る。
「私は?」
言われて、ギヨウはミュエネを見る。
「ミュエネは……いいや」
そして、そう結論付けた。
「そうよね」
「じゃあ、俺も脱ぐぞ」
そう言って、ギヨウは甲冑を脱ぐ。
シルルも同じように甲冑を脱いだ。
「大事な甲冑なんだ。頼んだぞローゼオロメメア」
ローゼオロメメアは戦場に出ることはない。
後ろで指示を出すだけである。
今回は天幕から動きすらしていなかった。
「見るのはいいが、盗まれても私にはどうする事も出来ないぞ」
「いや、少しは抵抗してくれよ……」
「私ではなく、残っている奴等が抵抗するから大丈夫だ」
当然、ローゼオロメメアだけが天幕に残るわけではない。
三十人程を、陣の防衛として残しているのだ。
「よし、じゃあ行くか」
甲冑を置くと、ギヨウは戦場へと向かったのだった。




