カラザイ城の戦い②
フェズ国は、準備した大軍を持って戦線を押し返し、まずは囮となるゼルバの軍が一つ目の城を包囲した。
さらに数日後、遅れてマチェバナン将軍がもう一つの城を包囲し、二つの城を包囲して、陣を築く事に成功した。
そして、アカツキ隊はゼルバに割り振られた通りに、マチェバナン将軍率いる、カラザイ城の攻城戦へと参加していた。
「攻城戦か……マチェバナン将軍はどうやって攻めるつもりなんだろうな?」
戦が始まる前、ギヨウは軍師ローゼオロメメアへと問いかけた。
「命令は力攻めだ、兵数は五万。城の大きさを考えれば十分な兵数ではある」
「力攻めって……あれを使うってことだよな」
ギヨウが配られた巨大な梯子を指さす。
(正直気は進まねえな)
その理由は単純である。
ギヨウ自身が城の防衛戦を経験しているからである。
(あんな梯子をかけたところで、壊されたり上から射ぬかれたり、とてもまともに戦えるとは思えねえ)
そうとしか思えないからである。
「そうなるな。上からはなんでも降って来るから気を付けろ」
ギヨウ達が防衛している時は、岩などの重いものを落としていた。
梯子を登っている時では、いかにギヨウでもそれらを防ぐのは困難である。
「お前ならどう攻めるんだ?」
ギヨウは、ローゼオロメメアの戦略を聞く。
「私ならそもそも城攻めは行わない。古来より、城攻めは難しく、避けるべきと言われている」
「でも、今回は城を攻めてるわけだろ」
「……そもそも城の攻め方に奇策はない。力攻め、火攻め、兵糧攻め、水攻め、あとは調略で裏から城門を開くくらいだ」
「お前なら、そのどれをやるんだ?」
「私なら火攻めか、兵糧攻めをする。調略は事前に間者を入れないといけないし、水攻めにも準備が必要だし、カラザイ城は川から遠い」
ギヨウはそれを聞いて考え込む。
それを見て、ローゼオロメメアは言葉を続ける。
「力攻めをしてから、火攻めにも出来るし、兵糧攻めにもできる。攻城戦の基本はマチェバナン将軍にもわかっているだろう」
「そうそう、城の攻め方は俺達の考える事じゃないよ」
その声は、ギヨウの後ろから聞こえて来た。
「でもよ……って、誰だ!」
その聞き慣れない声に驚き、ギヨウが後ろを向くと、ギヨウと同じくらいの歳の若い男が立っていた。
「すまないね。盗み聞きをするつもりはなかったんだ。ただ、聞こえてきちゃってさ。俺はテヌマフ・オルファ・セニオガネス
。君と同じ五百兵隊長さ」
突如として現れた男はそう名乗る。
軽そうな甲冑を着た、飄々とした若い男である。
「何の用だ?」
感触は悪くない男ではあるが、ギヨウは少し警戒しながら聞く。
「そう警戒しないでよ、俺はただ君たちの事が気になってさ」
「俺達の何が?」
「平民の五百兵隊長が活躍してるって聞いてさ」
「平民だと悪いのか?」
ギヨウは、少しムッとして言い返す。
「まさか。俺は貴族だけど田舎貴族でね。君とそう変わらないんだ。領主の息子だけど、狭い土地で城もない。畑仕事をして育ったよ。だから、俺は自分を平民みたいなものだと思っているよ」
「へぇ~」
「まあ、今日は挨拶に来たんだ。同じ五百兵隊同士、仲良くしたいからね。俺の部隊はオルファ隊って言うんだ。よろしく頼むよ」
「ああ、アカツキ隊だ。よろしく」
悪い人間ではなさそうなので、ギヨウも挨拶を返す。
「って、ん?オルファって……」
そして、そこに気が付く。
「ああ、俺の住んでいる土地の名前さ。田舎だけど俺は好きでね。自分の故郷の名前が入ったオルファ隊で名前をあげたいんだ。俺の部隊は全員オルファの平民ばかりなんだ。だから、余計君達には親近感が湧いてさ」
平民が戦に出ることは珍しくはない。
ただ、平民で固定の部隊を作っているのは珍しかった。
「なるほど」
ギヨウは短く答えるが、少し嬉しかった。
「まあ、お互い頑張ろう」
「ああ」
セニオガネスは爽やかに去っていった。
そして、それから少ししてギヨウの部隊へと命令が下る。
アカツキ隊は、東側の城門への配置となった。
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「よし、お前ら!配置についたか!」
「「「おお!」」」
ギヨウが大声で号令をかけると、アカツキ隊は返事を返す。
「あとは号令を待つだけだ」
軍団は城壁から離れた位置に整列し、今か今かと戦が始まるのを待ちわびている。
そして、当然敵も城壁の上で、フェズ軍が攻めてくるのを待っているのだった。
「ギヨウ、あそこ見てよ」
号令がかかる前に、副長のジェスが指をさす。
ギヨウは、それにつられてそちらを見た。
「あ!セロガ隊じゃねえか」
セロガ隊は、アカツキ隊と同じ東側の城壁の攻略に参加していたのだ。
そして、その更に先にはオルファ隊も見える。
「攻撃開始!突撃だ!」
その時、どこからか号令がかかり、攻撃が始まった。
「え?あ、アカツキ隊も突撃だ!」
余計な事に気を取られていたギヨウのせいで、アカツキ隊は少し遅れてしまう。
当然、敵も味方の攻撃に呼応するようにい矢を射り始める。
矢は降り注ぐが、それほど遠い距離でもなく、ギヨウ達の遅れも関係なく、すぐに城壁の下までにはたどり着いたのだった。
「うっ……」
そして、城壁の下でギヨウは呻いてしまう。
頭ではわかっていたはずである。
「た、たけえな」
だが、実際に下まで来ると、城壁のその高さ、存在感に、ギヨウは圧倒されてしまったのである。




