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カラザイ城の戦い①

 アカツキ隊が前線で戦い続けて、それなりの時が経ったころ、ギヨウはゼルバへと呼び出される。

 普段であれば、シルルやミュエネを連れて行くのだが、アカツキ隊が前線から離れるのは難しく、そんな中で隊長と副長が三人も抜けるわけにはいかなかったため、ギヨウだけで向かう事となった。


「おや、一人とは珍しいですね。いつもは美しい女性を二人も侍らせているのに」


 一人で来たギヨウを見るなり、ゼルバは芝居かかった感じでそんな事を言った。


「まるで俺が女好きみたいな言い方をするのはやめてくれ」


 もちろんギヨウにも、ゼルバはからかっているだけだと分かっている。

 だが、敢えて乗っかって見せる。


「ていうか美しいって……ゼルバにもそういう感覚はあるんだな」


 そして、そこがギヨウからすれば不思議でならなかった。

 ゼルバは若い。だが結婚をしていてもおかしくはない歳であるのだ。

 領主であり、城主であり、将軍であるゼルバであるなら、跡継ぎの事を考えるのはなおさらである。

 だが、ゼルバには女気がまるでないのである。

 明らかにゼルバの事を好きなシルルにさえ、女性として見ていない様に感じる程であった。


「だって、二人とも美しいでしょう?違いますかね?」


 ゼルバはあっけらかんと言うが、ギヨウは戸惑ってしまう。


「ごほん」


 しかし、咳ばらいをすると、


「ま、まあ、シルルもミュエネも確かにかなりの美人だな……」


 照れながら言ったのだ。


「私は、その二人だとは言ってないのですがね」

「あ、お前!」


 ゼルバはクスクスと笑った。


「まあ、そう言う言葉は直接言ってあげてください。喜びますよ。特にあなたから言われればね」


 その言葉に、ギヨウは首をかしげる。


「誰から褒められたって変わらないだろ」


 ギヨウの様子に、ゼルバはため息を吐いた後、


「はあ……まあいいです。さて、本題に入るとしましょう」


 真面目な顔になる。


「エルエ国に奪われた城を取り戻す準備が整いました」

「おう」


 呼び出された理由がそれだと、ギヨウは知っていたわけではない。

 だが、ギヨウからしても予想通りの話であった。


「いやあ、大変でしたよ。相手の大規模侵攻が始まる前に準備を終わらせなければなりませんでしたからね」


 ゼルバはそんな軽口を叩く。

 だが、軽口で済ませる程の楽な仕事ではなかったはずである。


「少し伝えていましたが、片方のケウエハ城は囮、もう片方のカラザイ城が本命ということになります」

「ああ、ゼルバは当然本命の方だよな?」


 ギヨウは疑う事もなく言った。


「いえ、私は囮の方です」

「えっ!?」


 だが、ゼルバはすぐさまそう切り返す。

 

「なんでだよ!」

「私が出れば、相手もまさか囮だとは思わないからです」

「それはそうかもしれないけどよ」


 その作戦の欠点には、ギヨウでも簡単に気が付ける。


(本命の方を落とせなかったらどうするんだ?)


 そこが問題である。


「戦力の配分に心配があるようですね」


 そのギヨウの考えを、見透かしたようにゼルバは言った。


「そうだな」

「フェズ国には――四人の傑物がいると、私は思っています」

「ん?」


 急に話が変わり、ギヨウは困惑する。

 しかし、関係のない話ではないのだろうから、黙って聞くことにする。


「一人目は、ガエロオ将軍です。彼の武力は、間違いなくフェズ国一と言えるでしょう……あ!ギヨウもいるのでしたね」

「いや、別にいいよ」


 フェズ国一の武力をもった将軍。それは、昔から言われている事なのだろう。

 実際に、一番強いのかはわからないが、そこに張り合おうなどとはギヨウも考えない。


「二人目は、マチェバナン将軍です。もう老人ですが、いくつもの戦場を経験して来た歴戦の戦士です」


 ゼルバが、何を言おうとしているのか、流石にギヨウにもわかってくる。


「三人目は、ヨギ将軍です。彼は私よりも若いですが、才能に溢れている」


 この中に、今回の戦を任されている将軍がいるということである。


「そして、今回の戦には、マチェバナン将軍が――」

「いや、ちょっと待てよ!」


 ゼルバの言葉を思わずギヨウは遮った。


「なんです?」


 ゼルバは心底不思議そうな顔をする。


「四人目は誰なんだよ?」


 明らかに、四人目まで話す流れであったのに、ゼルバが最後に話した内容は四人目が関係のなさそうな話であった。


「四人目はもちろん私ですよ」


 当たり前のようにゼルバは言う。

 それに、なんだかギヨウは呆れてしまうのだ。


「自分で言ったら恥ずかしいんじゃないのか?」

「私は、私を過小評価したりはしません」


 自己愛が強いというよりは、冷静に分析できていると言うべきか――。


「まあいいや。続けてくれ」


 なんにせよ話が進まないので、ギヨウはゼルバに話の続きを促した。


「そうですね。今回の戦は、マチェバナン将軍に託しました。城攻めと言うのは難しい。ですが、彼は幾度も城攻めを経験しているので、こと城攻めに関しては、私より上と言えるでしょう」

「そんなにか?」

「そんなにです」


 つまり、ゼルバは適材適所の配置をしたということである。


「なるほどな。まあ、俺達のやる事は変わらねえからな。敵をぶっ倒すだけだ」


 ギヨウは拳を握る。

 その様子を見て、ゼルバは微笑む。


「ええ、城を落とすのは任せましたよ、ギヨウ」

「ああ!任せ……とけ?」


 妙な事を言われて、ギヨウは困惑した顔でゼルバの方を見る。


「あなたには、マチェバナン将軍の元で戦ってもらいます」


 にこにこと笑いながら、ゼルバはそう言ったのだ。

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