賊狩り①
アカツキ隊は、ゼルバ領内のとある村に来ていた。
村を前にして、ギヨウはゼルバとのやり取りを思い出す。
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「エルエ国は、取った城が安定したので、もうフェズ国へ攻めてきています」
「なにっ!どこにだ!早く行かねーと!」
ゼルバの言葉に、ギヨウは驚き、息巻いた。
「場所は決まっていない。フェズ国は我々の防衛網に穴を空けたのだ。取った城を起点にして、領土を少しずつ広げるために、少しずつ侵攻を始めている」
ローゼオロメメアが、したり顔で説明する。
「大きな街や城を取る時には、大軍団を組んで攻撃をしてきますが、小さい村や何もない場所を自分達の領土にしてしまうには、小さい部隊をいくつも広げていく必要があります」
更にゼルバがそれを補足した。
「でも、攻撃はされてるんだろ」
「はい、だから私は、もう新しい防衛網を敷いて、その侵攻を止めているのです。もちろんギヨウにも、その防衛網には加わってもらいます。次の戦までに、出来るだけエルエ国の領地を拡大させないようにしないといけません」
「なるほど、で、結局どこに行けばいいんだ」
ギヨウは、理解しているのか理解していないのかわからないような態度である。
「ですが、あなたの部隊はまだ出来たばかりの部隊です。いきなり戦地に出すには、少し不安があります」
「ん?」
なんだか、話の流れが変わり、ギヨウは疑問に思う。
「なので、訓練がてら賊狩りをしてきてもらいましょう」
「えっ?」
それは、ギヨウからすれば意外な言葉である。
「何事も始めから上手く行くことはない。寄せ集めの部隊ならなおさらだ」
寄せ集めの一人である、ローゼオロメメアが言う。
「賊狩りも、立派な任務ですよ。民を守るのは、あなたも嫌ではないでしょう」
「まあ、そうだな」
ギヨウからすれば、少し肩透かしではあるが、ゼルバにそう言われては断る理由もないのだ。
「では、この書簡をどうぞ」
ギヨウは、それを受け取った。
このような経緯で、アカツキ隊は賊狩りをすることとなったのだ。
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村へと着くと、ギヨウ達は驚くほどの歓迎を受けた。
「ようこそいらっしゃいました!戦争の最中、こんな辺境の村までお越しいただきありがとうございます」
ギヨウ達を迎えたの村長らしき人物は、とても嬉しそうな顔である。
(それだけ、賊からの被害がひどいって事なんだろうな)
ギヨウはそんな事を考える。
「そんな挨拶はどうでもいい。賊はどこに潜んでいるのだ?」
ギヨウの馬の後ろに乗っていたローゼオロメメアが勝手に降りて、ギヨウより先に村長へと失礼な事を言う。
ちなみに、ローゼオロメメアがギヨウの馬の後ろに乗るかは凄く揉めた。
歩くことは出来ないというのだが、ギヨウの後ろはいつもミュエネが乗っているからである。
シルルはローゼオロメメアを乗せたくないと言い、仕方がなくミュエネは歩くことにしたのだ。
そして村長は、いきなり前に出て来た幼女の扱いに困っておろおろしていた。
「おい、勝手に話を進めようとするな。」
ギヨウは、ローゼオロメメアの服を掴むと、無理矢理自分の後ろに乗せ直す。
「馬鹿者、真面目な話だ。五百の兵が村に入ったとなると、賊はどういう行動を取る?」
ギヨウはそう言われて、自信なさげに答える。
「えっと……逃げるか?」
「その通りだ。陣を作る暇もないぞ。いますぐに賊を討伐しに行かねばいけない」
至極当然の話である。
「そういうことでしたら、賊はあちらの森から村に襲いに来ます。ですが、詳しい場所まではわからないのです」
村長が、少し離れた場所にある森を指さす。
「ああ、ありがとうよ。おい!行くぞ!」
ギヨウが軽く号令をかけて、すぐさまアカツキ隊は森へと向かう。
「なあ、リーグカル。お前は、賊狩りの経験は豊富なんだよな?」
道中で、ギヨウは百兵隊長のリーグカルへと問いかける。
「はい。こう言ってはなんですが……この国は治安が悪いですからね」
「どんな感じだ?」
「そうですね……正直に申しますと、我々は正規の騎馬隊でしたし、一方的に賊を倒して、終わりでした」
「それでは困る。今回は訓練も兼ねているのだから」
二人の会話に、ローゼオロメメアが割って入って来る。
「そうは言いましても、ただでさえ数に差がありますし、ギヨウ隊長達もいます」
「だから、あなた達は戦うのは禁止」
「え?」
ローゼオロメメアの突然の言葉に、ギヨウは困惑する。
「戦いは新兵だけで行う。それでも三倍の兵差になるのだから、問題はないはず」
「それは、まあ、いいか」
ギヨウはたどたどしく答える。それがいい事なのか判断しかねるからである。
「それで、軍師様はどのような作戦を取られるのかな?」
シルルが嫌味ったらしい言い方で、ローゼオロメメアに絡む。
「私は特別な戦略は使わない。戦略というのは知識。私にはその知識がある」
やや回りくどい言い方に、シルルは明らかにいらついていた。
「じゃあ、今回の場合はどうするんだ?」
言い合いになる前に、ギヨウはローゼオロメメアに尋ねる。
「兵が圧倒的に多い有利な時は、包囲をすればいいだけ。兵を広く敷いて森に入って行って、敵の居場所がわかったら、そこを包囲する」
「なるほど、わかった。そう指示を出しておこう」
そんな話をしている間に、アカツキ隊は森へとつく。
「よし!各自、森の中へと入っていけ、敵を見つけても焦らずに包囲するんだ!」
「おう!」
ギヨウの命令を百兵隊長達がそれぞれの部隊に伝え、兵達が森の中へと入って行く。
そしてギヨウはと言うと、森の外で簡素な陣を築いて待っているだけである。
「なんか変な気分だな」
だが、大人しく本陣で待つだけというのは、ギヨウの性には合わなかった。
「まあ、大将は本来どっしりと構えているのが普通だからね」
ジェスが言うが、ジェスが大将ならそうなると容易に想像が出来てしまう。
「でもよ」
「いいから黙って座ってろ」
なおも何かを言おうとするギヨウを、シルルは無理矢理座らせる。
そして、時間は経っていく。
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「隊長!敵の拠点を発見しました!森にある廃墟を住処にしているようです」
しばらくして、部下の一人がギヨウに報告しに来た。
「おう、そうか」
ギヨウは返事をしながら、ローゼオロメメアの方を見る。
「では、予定通りに包囲をしてから戦いを始めろ」
ローゼオロメメアが言う。
「包囲してから、戦いを始めるんだ」
それを、ギヨウがそのまま伝え直した。
そこには理由がある。
子供のローゼオロメメアの命令を、ならず者たちが素直に聞くとは思っていない。
信頼関係が築けるまでは、ギヨウが命令を出すという形にするように、ローゼオロメメアから提案されたのだ。
「わかりました」
そう言って、伝令は森の中へと帰って行く。
「俺も行っていいか?」
「これは、あなたの訓練でもある。部下を信じる訓練だ」
ローゼオロメメアはそう言ったが、もちろんそれはただ適当な事を言っているだけである。
「なるほど……」
だが、ギヨウは納得してしまう。
それから更に時間は経つ。
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「おーい!隊長!」
巨大な女が、生首を掲げながらギヨウの元に走って来る。
ギラグの戦士レシヘストだ。
「相手の頭領の首を取って来たよ」
「お、おう……」
(こいつが行ったら意味なかったんじゃ?)
ギヨウはそんな事を考えてしまう。
「一応聞くけど、何人やったんだ?」
「嫌だね、一人だけだよ。訓練でもあるって聞いてたからね。あたしだけ全滅させれるけど……それじゃ意味ないだろ?」
思いの外空気の読めるレシヘストである。
「そうか。それで、こっちの被害は?」
「後ろから見てた分には、多分いないんじゃないかな?みんな良く戦ってたよ」
「それは良かった」
ジェスが嬉しそうにはしゃぐ。
「それじゃあ……どうするんだ?」
再びギヨウは、ローゼオロメメアの方を見る。
「村の人に報告したら終わりですね」
リーグカルが答える。
「あ、ああ。そうだよな」
ギヨウからすれば、自分が戦ってないので、どうにも終わったという感覚が薄いのである。
なので、調子が出ないのである。
「では、森の中の兵の引き上げが終わり次第報告に行きましょう」
こうして、アカツキ隊の賊狩りはあっけなく終わったのである。




