アカツキ隊正式結成④
ギヨウは、ゼルバの元へと来ていた。
アカツキ隊の隊員が集まったことを報告するためだ。
「よう、ゼルバ。ちゃんと五百人集まったぜ」
「それは良かった。実は少し心配していたのです」
いかに、フェズ国全土で募兵したと言えど、無名のアカツキ隊に人が集まるかはゼルバからしても不安ではあった。
「ゼルバ様。これを」
集まった者達の名簿の写しを、シルルはゼルバへと渡した。
「で、俺達はどこへ向かえばいいんだ?」
ギヨウは、興奮しながらゼルバへと聞いた。
実のところ、これほど戦いへと行きたいと思ったことは、ギヨウからしても初めてであった。
五百の自分の部隊が作り上がれば、戦いへと向かいたいと思うのは自然な事だろう。
「ちょっと待ってください、ギヨウ。何か忘れていませんか?」
しかし、そのギヨウを止める。
「ん?」
ギヨウには止められた理由がわからなかった。
「軍師を紹介すると言われただろう?」
「ああ!そうだったな」
ギヨウはシルルに言われて、やっと思い出す。
「では、こちらへ来てください」
ゼルバは、ギヨウ達を案内するために歩き出した。
「こちらへ……って、城の中にいる奴なのか?」
「そうですね」
ゼルバが答えて、ギヨウはシルルの方を見る。
しかし、見られてもシルルにもわからないのだ。
「タズベ殿ですか?キゴッセ殿とか?」
なので、シルルはゼルバへと聞くが、ゼルバは首を振った。
「いえ、シルルは知らない者ですね」
(私が知らない城の者?そんな者はいないはずだが……)
シルルは、ゼルバの言葉に深く考え込む。
その様子を見て、ゼルバは言葉を付け足した。
「隠しているわけではないのですが……何分部屋から滅多に出てきませんからね。それに、シルルがあまり寄り付かない場所に住んでいますので」
それを聞いて、シルルはゼルバがどこに向かっているのか気が付く。
そして、間もなくしてそこについたのだ。
「ここは、書庫か?」
扉を開けて入った先は、書物が納められた棚が沢山ある部屋であった。
「なるほど、シルルが寄り付かない場所ね」
ミュエネが、納得したようにうなずく。
「べ、別に本を読まないわけではないぞ、私は」
「さっ、行きますよ。この奥です」
言い訳するシルルを置いて、ゼルバはどんどんと進んでいってしまう。
(書庫にいる軍師か、コテコテだな)
ギヨウは黙ってついて行くが、心の中ではそんな事を考えていた。
そして、ゼルバは書庫の奥にある扉を開き、更に奥へと進んでいく。
「ここです」
そこには更にいくつかの部屋があり、その中の一つの扉の前でゼルバは立ち止まる。
「こんなところがあったなんて……」
シルルとて、書庫に来たことはあるのだが、奥の扉があることすら初めて知った。
「ここの部屋は全部彼女の部屋ですし、彼女と世話役しか入りませんからね。入りますよ」
話しながらに、ゼルバはあっさりと扉を開けてしまう。
「子供?」
そこには、本に囲まれた少女がいた。
扉が開け放たれたというのに、こちら側には一瞥すらしない。
「もしかして、ゼルバの隠し子?」
ミュエネがなんとなく言う。少女は、あまりにも良すぎる待遇に加えて、ゼルバと雰囲気が似ているから、冗談として言ってみただけである。
「そんなわけな――」
「バレてしまいましたか」
シルルが過剰に反応するが、それを遮ってゼルバが真剣な顔をして言った。
「ええ!本当ですか!?」
「もちろん、嘘です」
ゼルバは楽しそうに笑った。
すると、少女がやっと本を閉じてギヨウ達の方を見た。
「何を馬鹿な事をしている。それとギヨウ。私はお前よりは年上だ」
(俺の名前……)
だが、元々ゼルバが教えていたとしたら変な事ではない。
「いや、どう見ても子供だろ、お前」
しかし、そこよりも府に落ちないのはそこであった。
座り込んでいるからわからないが、少女の身長は140センチにも満たないように見えるし、顔立ちは幼く、体の起伏も少年と言われても納得できるほどなかった。それでも、少女だと分かるのは長い髪に、可愛らしい顔つきをしているからである。
「見た目で人を判断するのは愚かだ。私は40歳だ」
「え!?」
少女は顔付きを一切変えずに言ったため、ギヨウはつい本当の事かと思い驚いてしまう。
「嘘ですよ。彼女は18歳です」
ゼルバが冷静に訂正する。
(でも年上ではあるんだな)
納得は出来ないが、それは本当のようなのでギヨウは何も言えなかった。
「ゼルバ様!この子供はなんなのですか!」
痺れを切らしたシルルがそう言うが、この部屋にはこの少女しかいないのだ。
「何って、アカツキ隊の軍師ですよ」
つまり、そう言う事である。
「まだ入ると決まったわけではない」
少女は、静かにそう抗議した。
「私は反対です。ギヨウもそうだろう?」
「えっ!いや、俺は別にいいと思うけど……」
「なにっ!」
シルルは当然ギヨウの賛同は得られないと思っていたのだが、意外にもギヨウは賛同したのだった。
(うちは変な奴ばっかだし、今更変な奴が増えても構わないんだよな)
ギヨウが賛同した理由はこれである。
「おいギヨウ、お前――」
シルルがギヨウに食って掛かるが、それを無視してゼルバは話を進めてしまう。
「なら良かった。彼女は見ての通り普通の部隊に入れる事は出来ませんので、アカツキ隊に入れるしかないと思っていたのですよ。大丈夫、見た目は子供ですが、軍師としての実力は私が保証しますよ」
シルルは尚も後ろでギヨウに文句を言っているが、ゼルバがそう言うのであれば、シルルは認めるしかないのである。
「ゼルバ。決まったことのように言わないで欲しい」
少女は何度でも抗議する。
「さっきから、嫌がってるみたいだけど?」
ミュエネがそれを汲むが、ゼルバは笑って流した。
「ハハハッ、嫌がっている振りをしているだけですよ。どうせ、アカツキ隊にしか入れないのですから」
「私はこの部屋から出たくない」
「追い出しますよ?」
「うっ……」
ゼルバに言われて、少女は観念したように言葉を発した。
「ギヨウ。アカツキ隊に入る前に、あなたに聞きたいことがある」
「なんだ?」
「あなたは、天下無双と呼ばれるほどの戦士を目指していると聞かされている。馬鹿げた話だと思う。本当にそんなものになれると思うのか?」
「当たり前だろ」
ギヨウは迷うことなく即答する。
「そうか……仕方がない。貴様らの手助けをしてやろう」
実のところ、少女からすればギヨウの答えはなんでもよかった。
(ただ、迷いさえしなければ)
それでよかったのだ。
「ところで、そろそろ名前を教えてくれないか?」
「ああ、私は……シシーータ・ヘルーンド・ローゼオロメメアだ」
「え?」
ゼルバ以外の人間が目を丸くした。
「すまん、もう一回いいか?」
ギヨウがすぐさま頼み込む。
「駄目だ。一度で覚えろ」
だが、ローゼオロメメアはそれを許さなかった。
「メメアでいい?」
辛うじてそこだけを覚えていたミュエネが聞く。
「駄目だ。私の事はローゼオロメメアと呼ぶんだ」
だが、ローゼオロメメアはそれを許さなかった。
「ガキでいいだろ」
シルルは未だに不服そうである。
「体型はあなたも大して変わらない。むしろ私の方が少し大きい」
どこがとは言わないが、間違いなく身長の話ではない。
シルルとて小柄ではあるが、流石にローゼオロメメアと比べては身長は大きい。
「貴様……」
シルルは拳を握りしめ、ギヨウはそれを急いで止める。
「落ち着けシルル!仲間だからな!」
ゼルバは、その様子を楽しそうに横から見ていた。
こうして、軍師ローゼオロメメアが入り、アカツキ隊は結成したのである。




