アカツキ隊正式結成③
ギヨウと女戦士レシヘストの手合わせが始まると、その場にいる全員がその手合わせを注視しだした。
互いに盾をも持たぬ真剣での勝負なので、ギヨウの剣が振るわれれば全員がどよめき、レシヘストの手斧が振るわれれば全員がどよめくのだった。
そして、当のギヨウはと言うと、
(こいつ、強いな)
レシヘストはギヨウの剣を右手か左手のどちらかの手斧で防ぎ、もう片方でしっかりと攻撃してくるのだ。
だが、ギヨウももちろん、それをかわしては剣を振るうのだが、やはり防がれてしまうのである。
もちろん、ギヨウは寸止めをするつもりで加減をしている。
だが、加減などしなくても問題ないと思えるほどの強さであった。
そして、レシヘストの戦い方は、見た目の体の大きさから予想出来た通りに、とても力強かった。
同じ女であるシルルやミュエネは、どちらかといえば華麗な戦い方であるのに対して、レシヘストはギヨウと同じような力の戦い方なのだ。
二人の力は何度もぶつかり合い、しかし、中々決着はつかなかった。
「アアアア!」
そんな状態に痺れを切らしたのか、レシヘストが一気に決着をつけにくる。
地面を蹴って飛び上がり、更に両手は体の後ろまで振りかぶっているのだ。
当然正面はがら空きの、まさに捨て身の攻撃である。
しかし、その動きは早かった。
だから、ギヨウは守りに回るしかないと判断した。
迎い撃とうとするギヨウに、レシヘストは驚きながらも、その両手に持った手斧をそれぞれ同じ所に振り下ろす。
そして、ギヨウは剣の刃に手を添えて、それを正面からしっかりと受け止めたのだ。
「うおおおおお!」
更に、そのまま空中にいるレシヘストを吹き飛ばしたため、レシヘストは転がりこそしなかったものの態勢を崩した状態で着地してしまう。
そこに、ギヨウは潜り込むと剣を突き付けた。
「参った。降参だよ」
レシヘストは負けを悟り、武器を納めた。
ギヨウも、それを聞いて剣を納める。
「うおお!隊長の勝ちだ!」
「すげぇ戦いだったな!」
「こんなすげえ人について行けるかな?」
手合わせが終わり、勝手に観戦していた者達が沸き上がる。
そんな中で、レシヘストはギヨウへと握手を求め、ギヨウはそれに応じた。
「まさか受け止められるとはね。しかも押し返されるなて思ってもいなかったよ。避けたところに蹴りを入れてやろうと思ってたんだ」
「いや、すげえ強くてびっくりしたよ。こんな強い奴がうちに入ってくれるなんて歓迎だ」
そして、お互いを褒め称える。
「それで、話は変わるんだけどさ。あたしの夫になってくれないか?」
「は?」
レシヘストが突然に、あっけらかんと、とんでもない事を言い、ギヨウは空いた口がふさがらなくなってしまう。
「ええ!」
少し遅れて、周りにいたジェスやシルルが驚く。
「あたしは、負けたのは初めてなんだ。負けた者は勝った者に従う。これはあたしの国では普通なのさ。それともなんだい?あっちの女のどちらかと出来てるのかい?それとも両方と?あたしは三番目でも構わないよ。あたしの国では、何人も妻を娶るのなんて普通さ」
レシヘストが決まったことのようにまくしたてる。
その言葉の波に、その場にいる全員が飲まれて、何も言えなくなってしまう。
「いや、ちょっと待ってくれ。悪いんだが、俺はまだ結婚する気はないぞ」
だが、ギヨウははっきりと断った。
「そうなのかい?じゃあ子を作るだけってのはどうだい?そういうのも、うちの国じゃよくあるのさ」
レシヘストが真剣な顔でギヨウに迫る。とても冗談を言っているようには見えない。
「いや、それもちょっと……」
ギヨウがあまりの剣幕に負けながら、歯切れ悪く断る。
「と、ところでさ!」
なおも話が続きそうなところに、ジェスが大きな声を上げて話を変えようとする。
ギヨウを助ける気持ちもあったし、ジェスからすれば、近くから不機嫌そうな雰囲気を出している女が二人もいて、居心地もわるかった。
「あたしの国って言うのは、どこなのかな?あ!うちの部隊はどこの国でも構わないんだけどね!」
「あ、ああ……」
レシヘストが急に、しまったという感じのばつの悪い顔をする。
「ギラグ国だよ」
だが、正直に答えた。
「ギラグ国!」
その場にいた者の多くが、その名を聞いて驚いた。
「ってどこだ?」
だが、ギヨウだけは理解していなかった。
シルルが呆れたように首を振って教える。
「フェズ国から東の東にある国だ」
「そこに何か問題でもあるのか?」
「噂では言葉も通じないほど野蛮な民族で、人間を食べたりすることもあるって言われ……てるけど……」
「そうなのか?普通に喋ってたじゃねえか。人は……まあ食いそうな風貌してるかもしれねえけど」
ギヨウが酷い事を言う。
だが、レシヘストはそれを笑い飛ばした。
「ハハハッ!まあ、その噂は間違っちゃいないよ。あたしが国を出た理由も、そんな野蛮な国が嫌になったからさ。見ての通り、あたしは平和主義者でね」
(え?)
その場にいた者は、全員頭に疑問符を浮かべた。
「まあ、うちの部隊は、性別や国で差別したりはしないから、別にどこの国の人間だっていいさ」
「強いし、懐も深い。最高の隊長だね」
レシヘストがギヨウを褒めちぎる。
それを見て、ジェスは再び焦って大きな声をあげた。
「さ、さあ!手が止まってるよ!入隊希望者は、どんどん必要な事を申告してくれたまえ!ほら、君も、まだだろう?」
「え?あ、ああ。そうだね」
ジェスはレシヘストの腕をとって、無理矢理連れて行ってしまう。
そして、手合わせの観戦で一旦止まっていた入隊手続きが再び開始されたのだった。
♦
しばらくして、それは終わり、イイルダが書類をまとめてギヨウに持ってくる。
「何人だった?」
「400人くらいだね」
「少し多いな」
しかし、シルルの言った通りちょうどくらいである。
ギヨウはシルルの方を見る。
「500ちょうどである必要はないぞ。だいたい、どの部隊も多いくらいだ」
その理由を、シルルは語らない。
「じゃあ、全員入隊ってことでいいか?」
「そうだな」
ギヨウは、改めてアカツキ隊となる面々を見た。
(レシヘストばかりが目立ったけど、他にもやりそうなやつはいるな)
パッと見ただけでも、強そうな雰囲気を持った奴は多い。
「ギヨウ。最後に隊長としての言葉を頼むよ」
「おう」
ギヨウは戸惑うことなく答える。
もうすっかり五百兵隊長なのである。
そして、整列したアカツキ隊の前へと、ギヨウは仁王立ちをした。
「お前ら!よく、俺の隊に入ってくれた!」
ギヨウの声は大きく、誰にもしっかりと聞こえるほどである。
「アカツキ隊は、特に激しい戦いへと身を投じる部隊になる!それでも勝利をつかみ取れば、相応の見返りももらえるだろう!」
実は、ギヨウはない頭を捻って、あらかじめ言葉を用意しておいたのである。
「この部隊に入る理由は、それぞれ違うと思う。それでも、フェズ国の勝利という目的は、皆同じはずだ」
ギヨウは拳を握りしめると、
「俺達の手で、フェズ国を勝利へと導こう!」
その拳を空へと掲げた。
「「「オオオオオ!」」」
400人の雄たけびが、荒野へと響き渡る。
今、ここにアカツキ隊に五百の兵が集ったのであった。




