シアレン城の戦い⑨
戦が終わった後、アカツキ隊は勝利の宴を催していた。
そんな中で、ギヨウは城主から呼び出されてしまい、案内されて城の中を歩いていた。
「やばい……よな?」
呼び出された理由が、言うまでもなく命令違反の件なのは、ギヨウにも容易に想像はつく。
「大丈夫だ。最悪お前の命を差し出せば我々は助かる」
シルルがそんな事を言う。
付き添いとして、百兵隊長は全員付いてきていた。
「それは名案だね」
「短い付き合いだったわね」
「悪いな隊長」
みんなしてシルルの冗談に乗っかる。
「お前らなぁ~」
「まあまあ、皆さん。ここの城主の方は温厚な方なので、多分どうにかなるでしょう」
怒るギヨウを、ルイグメが宥める。
「会ったことあるのか?」
「いいえ。昔見かけたことがあるだけです。その時は戦の最中ではありませんでしたが、民同士が揉めていると所にやってきて、双方を見事に宥めていましたよ」
「なるほど。じゃあ平気だな」
ルイグメの話を聞いて、ギヨウは調子に乗る。
「だからと言って気を抜くなよ」
「わかってるよ」
そんな話をしているうちに、案内人が立ち止まる。
「こちらです」
目的地に着いたようで、ギヨウは緊張しながら大きめの扉を開けて中へと入った。
中は、それなりに広い間であり、中央の椅子に城主が、中央を開けて横に家臣達が並んでいた。
更に先客がいた。
セロガ達である。
(まあ、そうだよな)
セロガ隊は本陣を落としたという功績があろうとも、お互いに命令違反である。
「ブンラツ様。お連れしました」
案内人がそう言い、ギヨウ達はギヨウを先頭にして、セロガ達の隣に立った。
「うむ」
ギヨウもセロガも、この場の空気では何も口には出せない。
「お主らが命令違反をした五百兵隊長共か。若いのう……」
城主ブンラツは、老人であった。
長く白い髭を手で触りながら、二人を見下ろす。
短い時間ではあったが、その沈黙は、まさに生殺しである。
「まずはセロガよ。命令違反とはいえ、少ない兵損で敵本陣を落としたのは評価に値する。よって此度の命令違反不問とする」
「はっ!」
セロガが威勢よく返事をする。最初から、こうなると思っていたという感じである。
(やっぱりやばいか?こっちは功を立ててないぞ)
セロガの方は命令違反を不問にする理由はあっても、ギヨウの方にはないのだ。
「そしてギヨウよ」
「は、はい!」
言葉を待てばいいのに、ついギヨウは返事をしてしまう。
その様子に、ブンラツは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そう畏まるな。そなたの部隊も、城壁前の敵を多く屠ってくれた。よって此度の命令違反不問とする」
「はっ!」
ギヨウはホッとして、セロガと同じように返事をした。
(ルイグメの爺さんの言った通りだったな……)
城主ブンラツは、形式上命令違反を咎めただけで、最初から何か罪を与える気はなかったのだ。
「それでは、もう帰ってよいぞ」
なので、早々に糾弾は終わると、ブンラツはそう言い放った。
「寛大なご処置をありがとうございます」
それに対して、セロガの副官ゴウグがそう言うと、セロガ達は戻っていく。
「寛大なご処置をありがとうございます」
同じように、ルイグメが一歩前に出て礼をしたので、ギヨウも頭を下げると、その場を去ろうとした。
その時だった。
入り口の扉が開き、勢いよく一人の兵士が入ってきたのだ。
「ブンラツ様!急報でございます!」
兵士は焦っており、何か尋常ではない事が起こった事を示していた。
「どうした騒がしい」
「味方の兵が場外に姿を現しました!」
その言葉に、周囲はざわつく。
「援軍が到着したという事か?」
元々、援軍が来る手筈ではあったはずである。
(今更来ても、戦は終わったけどな)
そして、ギヨウはそう考える。
いや、ギヨウだけでなく、その場の誰もが同じことを考えたのである。
「いえ、それが……全員満身創痍であり、敗戦して逃げて来たとのことです!」
「なにっ!なんでだよ!」
誰よりも早く、ギヨウが大きな声で叫んでしまう。
だが、その場の誰もが同じ事を思い、実際にざわめきだす。
「落ち着けぃ!」
騒がしくなったその場を収めるべく、ブンラツが老人とは思えないほどの大きな声をだす。
それにより、一気にその場は静まり返る。
「まずは現状確認じゃ。敗走したと言ったが、追手はいるのか?」
「いえ、追手はいないようです」
「ならば、その兵をまとめている者を連れて来るといい、そやつから話を聞こう」
それを聞いて、報告に来た兵は急いで戻っていった。
「セロガ五百兵隊長。ギヨウ五百兵隊長よ。そちらは、元の持ち場に戻ってよい。後で連絡をする」
「「はっ!」」
そう言われてしまったら、二人とも何も言えることはない。
セロガも、ギヨウも、自分の持ち場へ戻っていったのだった。
♦
「ギヨウ!」
「良かった!生きて会えた……」
自分の部隊へと戻ったギヨウを迎えたのは、今回の戦には参加していなかったシンザとダククガであった。
「お、お前ら!どうしたんだよ!ボロボロじゃねえか……」
二人は傷だらけであり、他の兵士から手当てを受けている状態であった。
「俺達もエルエ国と戦って来たんだよ」
「そして、負けたんだ……」
「ど、どういうことだよ!」
戦場はここ、シアレン城だったはずである。
「それは、私から話そう」
ギヨウの元に、再び一人の男が現れる。
その傷だらけの男に、ギヨウは見覚えがあった。
「あ、あんたは!……すまん。名前忘れた……」
「おい」
緊迫する場面で、ギヨウが間抜けな事を言ったので、周囲から笑いが起きた。
「いや、いいんだ。二度しか会ってないのだし、忘れるのも仕方がない。リーグカルだ。シタダイルで一緒だっただろう」
「ああ、それは覚えている。でも、なんであんたが」
「俺達はその人に助けてもらったんだ!」
「命の恩人だよ」
シンザとダククガが割り込んでくる。
「そうか。ありがとう。大事な仲間なんだ」
事情はわからないが、助けられて事はまちがいないようで、ギヨウは深く頭を下げた。
「そんな。偶然、撤退してる時に見つけてね」
「そう、それだよ。いったいどうしたって言うんだ」
撤退をするような状況があったということである。
「ああ、それは――」




