シアレン城の戦い⑦
戦に変化はなく、二日目も、三日目も、同じようにエルエ軍はシアレン城の城壁を破る事が出来ず、フェズ軍は勝利をし続けることになる。
大変喜ばしい事ではあるのだが、ギヨウは変化のない戦に辟易していた。
「もう随分減ったんじゃないのか?」
ギヨウは、攻めてきているエルエ軍を見ながらそう言う。
四日目も、エルエ軍は三日目までと同じように攻城戦を仕掛けて来ていた。
籠城側が圧倒的に有利な都合上、エルエ側の兵だけが一方的に減り続けている状態である。
「そうだな。だが、命令は現状維持だ」
当然の事である。
現状何も問題は起きていなく、食糧にも問題がなく、一方的な勝利が続いている以上、籠城をやめる理由はなかった。
「わかってるけどよ……」
ギヨウは戦いが好きである。天下無双を目指すほどに。
しかし、人を殺すのが好きなわけではないのだ。
ただ一方的に、城壁の上から敵を殺す事は、あまり気分の良いものではなかった。
「ん?」
そんな中で、戦場に変化が起きる。
「な、なんだあの部隊は!援軍か?」
それは、城外での異変であった。
味方と思われる騎兵隊が、敵から離れた外側を大回りに走っていったのだ。
「あれは……あの野郎じゃねえか!」
ギヨウは、その騎兵隊の先頭を走る男に見覚えがあった。
ギヨウ達がシアレンに来た時に、ギヨウ達に難癖をつけてきたセロガ五百兵隊長である。
そして、セロガ達は明らかに敵本陣へと向かっていた。
「おい!なんで、あいつらがあそこにいるんだよ!」
ギヨウはジェスにくってかかる。
「く、苦しいー。そんな事、僕に言われても」
ジェスも知らないようなので、ギヨウはすぐに手を離した。
そして、三日前に自分の言った言葉を思い出す。
(遊びかどうかは、戦場に出ればわかることだ)
そう言ったのだ。
対抗意識があるわけではないが、啖呵を切ってしまった以上、こちらが何もせず戦が終わっては恰好がつかなかった。
「俺達も行くぞ!」
ギヨウはそう叫んだが、全員が困ってしまう。
「どうやって行く気だ」
シルルがそう言う。
城門を中から開けるわけにもいかないし、この高い城壁から飛び降りるのは不可能である。
「こうやってだよ!」
ただし、その代わりに相手が城壁にかけた梯子があるのだ。
ギヨウは、その梯子を使って、走るように一気に降り出したのだ。
当然、登ろうとしている敵兵もいる。その敵兵もふんずけて、ギヨウは梯子を滑るように降りて行った。
「馬鹿な奴だ。相手に梯子を倒されるぞ……おい!梯子が倒れないように掴んでやれ!」
シルルが指示を出して、急いで味方が梯子にしがみついた。
本来であれば、上から梯子を外そうとするのであるが、ギヨウが敵の梯子に乗ってしまったため、その逆で倒れないように掴むような形になってしまう。
本来とは逆であり、おかしな光景となる。
「それから、ジェス。矢を射るのをやめさせろ。味方に当たる」
「味方って……ギヨウしかいないけど?」
シルルに言われて、ジェスはギヨウを指さした。
「あいつ一人にはさせていられないだろ。私も行く」
言うが否や、シルルもギヨウの後を追って、同じように降りて行ってしまったのだ。
「ええ……」
ジェスはその思い切りの良さに、茫然と横で見る事しか出来ない。
「私も行くわ」
更に、ミュエネもその後を追って行く。
「面白くなってきたな。何やってんだお前ら!隊長命令だぞ、下に降りるんだ!足を踏み外したら死ぬから気を付けろよ」
「「「オオオオ!」」」
最後に、百兵隊長のゼオヤムギアが号令をかけた。
それでやっと、尻込みしていた兵達も後に続きだす。
「ど、どうしましょう、ジェスルリイドさん。命令違反ですよね?」
武闘派の隊長達と違い、老人であるルイグメ百兵隊長はおろおろとしてしまう。
「どうしようもないね。これがアカツキ隊ってことさ」
ジェスは諦めたように溜息をつくと、
「味方に当たるから、弓はしまって。降りる味方の手伝いをするんだ!」
そう指示を出したのだった。




