シアレン城の戦い③
「緊急ってどういうことだよ?」
「そう言われても、そういう張り紙がされていたとしか……」
ギヨウに聞かれても、シンザは困るばかりである。
「エルエ国の侵攻が早すぎて、軍議をする間もなかったのだろう。いますぐに向かわないと戦に間に合わないぞ」
シルルに言われ、ギヨウはすぐに立ち上がる。
「じゃあ、すぐに行かないと!」
誰もそのことに異論はなく、町長の元へ向かい、参戦を報せたのだ。
「俺達は馬車で行くから、また後でな」
しかし、戦場へと向かおうとしたときに、シンザとダククガにそう言われてしまう。
「どういうことだ?」
なぜ一緒に行かないのか不思議に思い、ギヨウは問いかける。
今までは、一緒に馬車に乗って戦場へと向かっていたのだ。
「いや、どういうって……お前は五百兵隊長になったんだから、自分の馬で戦場に行くだろ?」
「ミュエネとシルルもそれについて行くんだろうから。俺達とは後で合流になるだろーが」
シンザとダククガは、交互に説明をする。
それにしたって、隊長に向かって、お前という兵もなかなかいないだろう。
「あー、まあそうか」
ギヨウもまた、隊長らしさが薄いのであった。
「じゃあ、またな」
「そっちの方が先につくだろうけどよ。俺ら抜きで五百人集めるんじゃねーぞ!」
シンザとダククガはそう言い残して、馬車に乗っていった。
「準備は出来たか?」
家へと戻ると、シルルがいち早く自分の馬へと乗りこむ。
「ああ、準備なんてないからな」
ギヨウの持ち物は、ゼルバからもらった剣と甲冑、それに戦の為の路銀と飯くらいのものである。
だから、ギヨウの準備もすぐ終わり、馬へと乗り込んだ。
すると、ミュエネがその後ろへと乗って来る。
「お、おい!あっちでいいだろ」
ギヨウは後ろから感じる感触に戸惑い、シルルの方を指さした。
「別にいいでしょう」
だが、ミュエネは何も気にした様子もなく、そんな事を言うのだ。
「何をいちゃついている。早く行くぞ!」
「わかってるよ!」
更にシルルが急かすので、ギヨウは仕方なくそのまま馬を走らせ出したのだった。
♦
ギヨウ達は途中でジェスと合流し、長い時間をかけて馬を走らせた。
そして、募兵が始まってから数日が経った後に、戦場であるシアレンの街の城壁の前へと辿り着いたのだ。
「おい、シルル。みんな出て行ってるぞ、もしかして間に合わなかったのか?」
ユガルア大陸の大きな街、特に城がある城下町などは、その多くが、街全体が高い城壁に囲まれていた。
シアレンの街も例外ではなく、ギヨウ達が来たのは城壁に囲まれた裏門である。
その裏門から、大量の人々が絶え間なく出ていっていた。
「いや、戦わない者、戦えない者が別の街へ逃げて行っているのだろう」
「あそこから入れそうね」
ミュエネがギヨウの後ろから指さした。結局ミュエネは、長い移動の間、ずっとギヨウの後ろに乗っていた。
その指の先では、小さい門と、その前に兵士が立っていた。
「恐らく入る所と、出る所が分けてあるのだろうな」
大きい門の方からは大量の難民が、小さい門からは外からくる味方をという事だ。
「え?あんなに小さい門で大丈夫なのか?」
馬だって下りないと通れないほどの大きさである。
「お前……」
シルルが呆れたような目で見る。
「僕らが来るのが遅すぎたって事だろうね」
「さっき自分で言っただろう」
最初から小さい門だけで、兵を入れていたというわけではないという事である。
「そ、そうだな。早く行こうぜ」
ギヨウは誤魔化すように門へと向かった。
シルルとジェスも、呆れたように付いて行くのだ。
「名前は?」
門へ着くと、兵士に聞かれる。
「ギヨウだ」
「名前は全部言え」
高圧的に兵士が言ってくる。
「アカツキ隊の、ドヴィ・ロシス・ギヨウだ」
「え……」
隊の名前を言われ、兵が驚いて帳簿を確認する。
隊の名前を知っているわけではなく、隊を持っている人間だということに驚いているのだ。
「五百兵隊長殿でしたか、これは失礼しました。どうぞ。後ろの方はお連れですか?」
兵士は帳簿を確認すると、一転して態度を変えた。
「そうだ」
「そうですか。では、それぞれ、お名前を教えていただいてよろしいですか?」
後ろからシルル達が名前を言っていく。
(なんだかな)
その様子を見て、ギヨウはどうにも釈然としない気持ちになったのだった。
とはいえ、戦の前にギヨウは城の中に入れたのである。




