シアレン城の戦い①
前回の戦から日にちも経ち、ゼルバも城に戻って来たという事で、ギヨウ達は城を訪れていた。
「なんだか、随分と良い服を着ていますね」
ゼルバは、三人を見るとそう言った。
シルルとミュエネはともかく、ギヨウも買ったばかりの綺麗な服を着ていたからである。
「ギヨウからもらったのよ」
「こいつは、こういうのが趣味らしい」
「変な言い方するなよ」
そんな事を言うシルルとミュエネだが、その顔は嬉しそうであり、ゼルバはその気持ちを読み取り微笑んだ。
「まずはギヨウ。五百兵隊長への昇進、おめでとうございます」
「おう」
ギヨウは敵将デイリゥを討ち取っており、戦に貢献したとして、五百兵隊長への昇任が決まっていた。
「それにミュエネも、百兵隊長、おめでとうございます」
「昇進には、興味はないんだけどね」
同じように功を上げたとして、ミュエネも昇任していた。
「まあ、二人とも私が進言して位を上げたのですが」
そもそも、戦の総大将はゼルバであり、その作戦の要であったアカツキ隊には、特別な褒章を出すようにゼルバが取り仕切っていた。
「実のところ、ギヨウは千兵隊長にしようか悩んだのです」
更にゼルバは、そんな重要な事を言う。
「そうなのか?」
「ええ、ですが、やめました」
やめたという事は、できるのにやめたということである。
「なんでだ?」
だが、そこに理由はあるのは明白である。
「それは、ギヨウ。あなたには経験を積んで欲しいからです」
「経験?」
「ギヨウあなたは強い。天下無双を目指すという、大言を言うだけの事はあります。ですが、はっきりと言わせていただきましょう。あなたでは、武の将オグルブや、守の将ズェガェには、一対一で戦ったとしても勝てないでしょう」
「何!」
ギヨウは衝撃を受けるとともに、
(やっぱりか)
心の中では納得する部分もあった。
実際に、守の将ズェガェと対峙した時に、彼がとても大きく見えたからである。
「そして、それは腕前の差ではありません」
「経験の差ってことか……?」
経験を積んで欲しいというからには、そう言う事なのだと思いギヨウは口にする。
「違います」
しかし、ゼルバはそれを否定した。
「じゃあ、なんなんだ?」
「背負うものの違いです。彼らは数多の戦場を駆けて、多くの色々なものを背負ってきました。将としての責務、国への想い、死んだ仲間から託された気持ち、まだ生きている者達との絆」
精神論ではある。
しかし、ギヨウはその精神論に反論する気はなかった。
「だから、あなたには色々な戦場へ行って欲しい、私の後に付いてくるだけではなく」
「ああ、任せとけ」
理由を聞かなくとも、ギヨウは五百兵隊長になったのだから文句を言う気はなかった。
それでも、ゼルバは説明をし、その考えをギヨウは理解したのだ。
「というわけだ。頑張って来いよ」
シルルが横から他人事のように口を出す。
「何を言っているのです、シルル。あなたもギヨウに付いて行くのですよ」
しかし、ゼルバが当然のように言い放つ。
「え?」
それにシルルは困惑してしまう。
「な、何故ですかゼルバ様!私はゼルバ様の側近ですよ!」
その言葉に、困ったようにゼルバは頭を押さえた。
「正直に言いますと、ギヨウとミュエネだけでは、とても五百の兵を纏めれるとは思いません」
ゼルバの表情は、まさに切羽つまった状態、というのを感じ取れる表情である。
失礼な事ではあるが、事実なので、ギヨウとミュエネも何も言い返せない。
「それはそうですが、私でなくてもいいではありませんか」
「いえ、貴方が適任だと、私は思いますよ」
(本当は、シルルでも不安なのですが……)
ゼルバはその言葉は胸にしまっておく。
「他に一人だけ。アカツキ隊の軍師に相応しい人物がいたのですが……まだ早いと断られてしまいました」
シルルが迷っているのを見て、更にゼルバは駄目押しする。
「そうですか。ま、まあ、私がいないと心配ですからね。仕方ないですね」
意外にも、シルルはあっさりと折れる。
それは、ゼルバの考え通りである。
(本当は付いて行きたかったのでしょう)
ゼルバはそう考えていたのである。
「あと、シルルは一度は家に帰るようにしてください。親が心配していましたよ。ギヨウと言う男の家にいると言ったら、少しは安心していましたが」
ゼルバが余計な言葉を付け加え、ギヨウとミュエネはシルルの方を見た。
心配はしていないという本人の言葉と食い違っているからだ。
「はい……」
シルルは何かを言い返すこともなく、力なく返事をしたのだった。




