戦後の日常③
朝になり、ギヨウ達は目を覚ますと、先にシルルとミュエネが川へと向かう。
何故二人が先かと言えば、一度ギヨウが朝に二人の水浴びを間違えて見てしまってから、二人が戻るまでギヨウは家から出てはいけないという決まりが出来てしまったからだ。これに関していえば、ギヨウが悪いので、ギヨウは何も言えなかった。
仕方がないので、ギヨウは今日の準備をする。
前日まではあまり乗り気ではなかったが、いざ買い物に行くと考えると、不思議とギヨウの気持ちも乗って来たのだった。
しかし、準備と言っても、金の準備くらいである。
それはすぐに終わり、今度は朝食の準備を始める。
それからしばらくして、二人が戻って来ると、
「ちょっと火の加減、見といてくれ」
入れ替わりに、ギヨウが川へ顔を洗いにいくのだ。
そして、戻ってきた頃には、ミュエネが朝食を完成させていた。
「そういえば、ジェスの所に行くって言ってもよ、俺達あいつがどこに住んでるのかわからないよな」
食卓を囲みながら、ギヨウが重大な事実に気づく。
「今更気づいたの?」
「私達は昨日から気付いてたぞ」
二人が口々に言う。
「なんだ。じゃあ、ジェスに聞いたのか」
「いや、聞いてないぞ」
シルルが涼しい顔で言う。
「なんでだよ!聞いてる流れだったろ!」
それを聞いて、ギヨウは思わず立ち上がってしまった。
「まあ、そのうち来るでしょう?」
ミュエネがそう言った瞬間、見計らったように扉が開き、ジェスが姿を現した。
「やあ!朝食かい?」
ジェスはそれだけ言うと、当然のように食卓についてくる。
「昨日は楽しみで眠れなくて、早く来てしまったよ」
「だからと言って、早すぎだろう」
まだ早朝である。
「近いからね。馬を飛ばせば、すぐさ」
そう言う話ではない。
「まあいいや、早く食べろよ。食い終わったら行くぞ」
そう言った頃には、ギヨウは既に食べ終わっていた。
「ああ見えて、実は楽しみにしてるのよ」
ミュエネがこっそりとジェスに教える。
「それは良かった」
ジェスは嬉しそうに答えるのだった。
♦
途中でシンザとダククガを連れて、六人でジェスの家へと向かう。
ジェスの言った通り、馬を走らせれば目的地にはすぐに着いた。
馬を外に繋いで、六人は街の中へと入る。
「随分人が多い街だな」
来た場所は、大きい街であった。
「知らないのかよギヨウ」
「この辺じゃ一番大きい街だぜ」
シンザとダククガが呆れたように言った。
「戦以外で遠出しないものね」
ギヨウの代わりにミュエネが答えた。
「大きくて人が多い街じゃないと、店がやっていけないからね。ちょうどいいところに条件の合う街があって良かったよ」
ジェスが得意気に語る。
「それで、お前の家はどこにあるんだよ」
「それはこっちだよ」
ジェスが先導して、六人を案内していく。
「なんか人が増えてきてないか?」
ジェスの後ろについていたギヨウだが、明らかに人が多い方へと向かって行ってるのに気が付く。
「ああ、この辺にいる人は、うちの客だね」
「これ全員か!」
シンザが驚いて、ジェスの顔を見る。
「多分ね」
やはりジェスは得意気である。
「そういえば、何を売ってるんだ?農具とか、調理器具とかあるか?」
ギヨウの目的はそれくらいである。
「あるわけないだろう?」
「えっ!?」
しかし、はっきりと無いと言われて、ギヨウは固まってしまう。
「ほら、見えて来たよ」
そして、ジェスは指を指す。
「うちは服屋だよ」
その先に会ったのは、服屋であった。
♦
六人は店内へと入らずに、ジェスに連れられて店の裏手から中へと入って行く。
「あら、あなたがギヨウさんですか」
「息子がいつも、お世話になっております。他の方々も、よくぞいらしてくれました」
すると、いかにも金持ちと言う感じのジェスの両親から歓迎を受けた。
「ああ、いや……息子さんには助けられたこともあり……」
ギヨウが珍しく畏まって話すと、全員が笑った。
「はははっ!いつも通りでいいよ、ギヨウ」
「そ、そうか?」
そんな会話をしていると、どこからか人が ジェスの両親を呼びに来た。
「旦那様!お話のところ申し訳ありません」
「む……申し訳ありませんな。見ての通り店が大繁盛でして。少し行ってまいります」
そう言うと、ジェスの両親は表の店へと行ってしまう。
「引っ越して来たばっかだって言うのに、よくこんだけ客が入るな」
「むしろ今までで一番繁盛してるくらいだね。ゼルバの領の人は他の所に比べたら裕福なんだろう。服なんて嗜好品だからね」
食べていくのに精一杯な家族も多く、服は自分達で簡素なものを縫ったり、繕ったりするのが普通であり、新しい服を買うという事は少なかったのだ。
実際にギヨウも、ボロボロの布切れのような服を何着も着まわしている状態であった。
「さて、じゃあ僕達も前に行こうか」
まだ来たばかりだというのに、ジェスがギヨウ達を店へと連れて行こうとする。
「もういいのか?」
家に来てくれと言っていた割に、あっさりとしているのを不自然に感じて、ギヨウは聞く。
「父様と母様に仲間を見せたかっただけなんだ。それに、店も見てほしいからね」
「じゃあ行くか」
そう言ってギヨウは、ジェスに続いて店へと行ったものの、服屋では欲しい物などなく悩んでしまう。
ミュエネとシルルは店に入るなりどこかに行ってしまったし、ギヨウはシンザとダククガの後ろについて回っていた。
「で、なんで女物の所に来たんだ?」
二人が来たのは女物の服が置いてある場所であった。
「な、なんでだっていいだろ!」
ダククガが恥ずかしそうに言う。
その様子から、ギヨウは推測する。
「わかった。お袋さんに何か買って帰る気だな?」
「え?」
ギヨウの言葉に、シンザとダククガは今気づいたという感じの顔をする。
「い、いや、俺は村のレリシャちゃんに服を買って行こうかと思って……」
「お、俺はワウメちゃんに……」
それが誰かはわからないが、どういう理由で贈り物を買う気なのかは、ギヨウにだってわかる。
「まあ、いいんじゃないか」
「お前はどうなんだよ、ギヨウ」
「俺?」
いきなり振られて、ギヨウは困惑する。
「そうだぞ、ミュエネとシルルに何か買ってやれよ」
「いや、なんでだよ。あいつらだって今来てるじゃねえか」
至極真っ当な意見ではあるのだが、
「ギヨウよ。それは違うぞ。それでも何かを買って欲しい。そんな女心があるんだ」
シンザも至極真っ当な意見で返してきた。
「何で知った顔なんだよ。あいつらに女心なんてねえよ。特にシルルにはな」
「まあ、そう言わずにさ」
何故かダククガも、知った顔でシンザの肩を持ってくる。
「そう言われてもよ。シルルはともかく、ミュエネに合う服なんてないんじゃないか?」
「そう言うと思ってね!」
突然、後ろからジェスが現れた。
どこかに行っていたと思っていたが、その手には服が二つ握られている。
「僕が用意しておいたよ。本当はギヨウに選んでほしかったんだけど、ミュエネの服はそういうわけにはいかないからね」
(ミュエネは、ボンキュッボンって感じだからな……)
ギヨウは頭の中で死語を思い浮かべる。
「てか、買うとは言ってないぞ」
「でも、お金は持ってきたんだろう?」
服を買う為に持ってきたお金ではないが、何も買わずに帰っても余り使わない金でもある。
「わかったよ買うよ。てか、よくミュエネの服の寸法がわかったな」
聞かれて、ジェスは胸を張った。
「僕は服屋の息子だよ。外からでも見ればわかるさ」
それは、胸を張るだけの事がある技術ではある。
「お前、服屋継いだ方がいいだろ……」
だが、ギヨウは呆れるしかないのだった。
「おい、ジェス。こっち選ぶのも手伝ってくれよ」
「もちろんさ。贈る相手はどんな女性かな?」
そして、時間は過ぎていく――
♦
買い物が終わると、ジェスが帰るように促してくる。
「それじゃあ、僕は家を手伝うからさ」
「もういいのか?」
「これからは、いつでも気軽に会えるからね。それに、早く買ったものを渡して上げるといいよ」
ジェスは、シンザとダククガの方を向いて言ったが、もちろんギヨウの事も入っているのだ。
「何を買ったの?」
ミュエネがギヨウの買ったものを見ようとするが、ギヨウは慌てて隠す。
「ほら、俺の服ボロボロになってきたからさ、安い服を買ったんだよ」
実際にそう言ったものも買っており、ミュエネに見せる。
「私達もそんな感じだ。詮索するなよ」
何故かそれに対して、シルルが先に釘を刺してきた。
「お、おう」
何を隠しているのかわからないが、結構な大荷物である。
女の買い物というやつなのだろう。
もちろん、ギヨウは口を出す気はなかった。
「さて、じゃあ帰るか」
そして、五人はジェスを残して帰って行くのだった。
♦
家へと帰ると、ギヨウはいつ言い出せばいいかと、ソワソワとし続けていた。
「おい、ギヨウ」
「お、おう!」
そんな中で、逆に話しかけられ、ギヨウは無駄に大きい声で返事をしてしまう。
「これ、あげるわ」
ミュエネが素っ気なく何かを渡してくる。
「なんだこれ?」
「飾りだそうだ。甲冑につけるといい」
シルルとミュエネが互いに話してきているという事で、二人からの贈り物と言うことだとギヨウは理解する。
「俺も、これ」
ギヨウもジェスから買った服を、二人へと差し出した。
「私達に?」
「お前にしては気が利くな」
二人は、それぞれ素っ気ない感じの態度だったが、服を受け取る顔はとても嬉しそうであったし、
「ありがとうね」
「その、ありがとう」
二人とも、それぞれ恥ずかしそうに感謝の言葉を口にしたのだ。




