戦後の日常①
戦が終わり、ギヨウは自分の家へと帰って来ていた。
「おい、飯はまだか」
家に戻ってから一週間以上が経っているというのに、シルルがギヨウの家に来ていて、帰る様子はなかった。
「今出来るよ!てか、なんでお前は俺んちにいるんだよ」
「仕方がないだろ、ゼルバ様が城にいないのだから」
シルルの言葉に、ギヨウは戦が終わった後の事を思い出す。
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戦が終わった後、ギヨウはシルルとミュエネを連れて、ゼルバに話しかける。
「よう、ゼルバ。終わったって事は帰るんだよな?」
ギヨウの言葉に、ゼルバは小首をかしげた。
「私は帰りませんよ」
ゼルバが当然の事のように言い、ギヨウは驚く。
「え?なんでだよ?」
「ここが、私の領地になったからです」
そう言われて、少しギヨウは考え込む。
その言葉の意味を理解して、やはり驚いた。
「そ、そういうもんなのか?」
「まあ、私が攻め落としたのですし、普通はそうですよ。正直言うと、こんな遠い場所をもらっても困るだけですが」
普通と言われても、ギヨウにはピンとこない。
その顔を見て、隣でシルルが、「当然だ」と小さい声で囁いた。
「だからゼルバは帰れないのか?」
「それはそうです。まずは、この地を把握しなければなりません。そして兵を配置して、民を呼びこまなければいけません。ほとんどニトの親族だったので、人が残っていないので大変ですがね」
「大変そうね」
横からミュエネが同情する。
「領土を持つ将軍の役割と言うやつですね。と言っても、私には優秀な部下達がいるので、比較的早く終わるでしょう」
「わ、私も!残って、手伝いますゼルバ様!」
ここぞとばかりに、シルルが前に出る。
「いえ、シルルは今回の戦では大変な役割だったので、先に戻って英気を養っておいてください」
「え……」
まさか断られるとは思わず、シルルは少し茫然としてしまう。
「ギヨウとミュエネも大変だったでしょう。先に戻っていてください。戻ったら話があるので、使者を送ります」
その隙に、ゼルバはどんどんと話を進めてしまう。
「ええ、そうするわ」
「おう、待ってるぜ」
ギヨウとミュエネが答え、シルルが口を挟む間もなく、話は終わってしまったのだ。
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だから、というわけではないが、何故かシルルはギヨウとミュエネについて、そのままギヨウの家へと来てしまった。
それにしたって、シルルにだってゼルバの城の近い所に家があるはずである。
ゼルバがいないからと言って、仕方がない事などないのだ。
「シルル、あなた自分の家はどうしたの?」
単純に興味があって、ミュエネが聞く。
少しつっけんどんな言い方だが、二人の仲が悪いわけではない。
「家に帰らないのはいつもの事だから問題ない。両親も心配はしてないだろう」
それに対して、シルルはどこかズレた事を言う。
「ほら、飯出来たぞ……って、お前、親いるんだな」
「あ……すまない」
ギヨウの何気ない一言に、シルルは謝る。
ギヨウにも、ミュエネにも親はいないのだ。
「いや、そういう意味じゃねえよ」
そもそも、ギヨウは親を地球に置いてきたようなものなのだから、気にするも何もない。
「ミュエネだって気にしてない、よな?」
「そうね」
ミュエネの方は、母親の事が吹っ切れているわけではないが、日常会話で気を遣われる方が嫌だった。
「そうか。うちは元々ゼルバ様に仕える普通の貴族だ。だから私は、ゼルバ様に子供の頃から仕えているのだ」
「へぇ~、じゃあ、いつか行っていいか?」
何がじゃあなのかわからないが、ギヨウが聞く。
「駄目だ」
しかしそれを、シルルは断った。
「俺んちには居座ってるくせに……」
ギヨウが、恨みがましくシルルを見る。
「お前みたいのでも、連れていったら勘違いされるかもしれないだろ」
「勘違い?」
ギヨウが小首を傾げ、その様子にミュエネは笑った。
「とにかく駄目だ。来ても面白いものではないぞ。普通の家だからな」
「ケチな奴だな。本当に駄目なのか?」
特に理由はないようなので、一応、ギヨウは改めて聞いてみる。
すると、少しの間の後で、
「考えて置いてやる……」
そうシルルは答えたのだった。
「お、おう」
思ったよりもしおらしいシルルの態度に、ギヨウは戸惑い、互い黙ってしまう。
ちょうどいいことに、その沈黙を破るものが家へと入って来た。
「やあ、ギヨウ。いるかい?」
アカツキ隊の副官、ジェスルリイドである。
前にも同じことがあったが、ジェスがギヨウの家を訪ねたのは、その時と今日で、まだ二回目で
あった
「久しぶりだな。ジェス」
ジェスとは戦から帰る途中で別れている。
なので、会うのは久方ぶりとなる。
「今日は報告にと思ってさ。ちょうどよくご飯があるね。いただくよ」
ジェスは相変わらず返事も聞かずに、図々しく家の中へと入って来ると、勝手に食卓についた。
「報告ってなんだ?」
「僕もゼルバ領に住むことにしたよ。もちろん両親もさ」
「そんなに簡単に移住できるもんなのか?」
ギヨウは、この国の事など何も知らない。だから、こんな質問をするのも当たり前であった。
「そんなに簡単な事ではないぞ。勝手に領の移動をするのは違法だし、手続きをするにしても、ゼルバ様の領は人気があるから、そう簡単には移住は出来ない」
ジェスが答える前に、シルルが横から答えた。
「でも、勝手に移動してもバレないんじゃないか?」
「そんな事はない。街ごとに住民の帳簿があるからな。だからお前がここに住む事になっ時、ゼルバ様からの書状が必要だっただろう?」
「へぇ~……え?」
ギヨウはそれを聞いて、あることに気が付き、ミュエネの方を見た。
「なんだ?」
「つまり、ミュエネは不法滞在者だな。賊だ」
シルルがきっぱりと言う。
「そうなのね」
ミュエネは自分の事だというのに、他人事のように言う。
「だ、だけど、前回の戦の報酬はミュエネの分もあったぞ」
「村長が気を利かせて、住民帳簿に登録してくれたんじゃないかな?優しい村長で良かったじゃないか」
ジェスの話だったはずなのに、中々話に加われなかったジェスが、無理矢理話に割って入って来る。
ギヨウは、話を戻してやることにする。
「それで、移住は難しいって話だったけど、ジェスはどうやってこっちに移住したんだ?」
「そこはほら、これでね」
ジェスが手で丸を作る。
金という事である。
「ゼルバ領は安全な方だし、僕はアカツキ隊の副官だしね。元々、父様と母様と、こっちに移住しようかって話してたんだ。この街ではないけど、近くの街だよ」
だから移動が早かったという事である。
「だから、いつでもご飯を食べに来れるよ!」
ジェスは一方的にまくしたて、最後にそう言って締めた。
「いや、来なくていいぞ。最近じゃシンザ達だって、シルルがいると家が狭いから、飯を食いには来ないんだ」
「まるで私のせいみたいな言い方はやめろ。ミュエネの方が圧倒的に幅を取ってるぞ」
言ってから、シルルは自分の小柄な体と、ミュエネの豊満な肉体を見比べて、自らの言葉が原因で落ち込んだ。
そして、そう言われたミュエネは、勝手に落ち込んでいるシルルを見て、特に何も言い返さなかった。
そもそも、ギヨウの家の広さでは、五人もいたら狭いというだけの話であるのはわかっているからだ。
「僕は狭くても気にしないよ。新鮮でいいじゃないか。でも……そうだ!なら僕の家に来るといいよ。君達なら安くしとくよ!」
偶然にも、先程と似たような話となる。
シルルは来るなと言い、逆にジェスは来いと言う。
「ん?そうだな……今度行くよ」
ギヨウはそれほど乗り気ではない。
何故なら、ジェスの家というのは商家なのだ。
家に行くというより、商家に買い物に行くという感じになりそうだからである。
「今度と言わずに明日おいでよ!こうしちゃいられない!準備の為に帰るね!」
だが、ジェスは何故だか興奮して、勝手にまくしたてて、飯を急いで掻っ込むと、返事を待たずに帰って行ってしまった。
「まじかよ……」
ギヨウはその勢いに、それを茫然と見送る事しか出来なかった。
「暇だしいいんじゃない?」
ミュエネが冷静に言う。
「まあ……ぶっちゃけ金の使い道もないしな。農具とか買いに行くか」
「ああ、行ってこい」
シルルが他人事のように言う。
「いや、お前も来いよ、シルル」
「なんで、私が」
「でも、暇でしょう?」
痛い所を突かれて、シルルは黙る。
「わかった。行くよ」
そして、諦めたのだ。




