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戦後の日常①

 戦が終わり、ギヨウは自分の家へと帰って来ていた。


「おい、飯はまだか」


 家に戻ってから一週間以上が経っているというのに、シルルがギヨウの家に来ていて、帰る様子はなかった。


「今出来るよ!てか、なんでお前は俺んちにいるんだよ」

「仕方がないだろ、ゼルバ様が城にいないのだから」


 シルルの言葉に、ギヨウは戦が終わった後の事を思い出す。

 


     ♦



 戦が終わった後、ギヨウはシルルとミュエネを連れて、ゼルバに話しかける。


「よう、ゼルバ。終わったって事は帰るんだよな?」


 ギヨウの言葉に、ゼルバは小首をかしげた。


「私は帰りませんよ」


 ゼルバが当然の事のように言い、ギヨウは驚く。


「え?なんでだよ?」

「ここが、私の領地になったからです」


 そう言われて、少しギヨウは考え込む。

 その言葉の意味を理解して、やはり驚いた。


「そ、そういうもんなのか?」

「まあ、私が攻め落としたのですし、普通はそうですよ。正直言うと、こんな遠い場所をもらっても困るだけですが」


 普通と言われても、ギヨウにはピンとこない。

 その顔を見て、隣でシルルが、「当然だ」と小さい声で囁いた。


「だからゼルバは帰れないのか?」

「それはそうです。まずは、この地を把握しなければなりません。そして兵を配置して、民を呼びこまなければいけません。ほとんどニトの親族だったので、人が残っていないので大変ですがね」

「大変そうね」


 横からミュエネが同情する。


「領土を持つ将軍の役割と言うやつですね。と言っても、私には優秀な部下達がいるので、比較的早く終わるでしょう」

「わ、私も!残って、手伝いますゼルバ様!」


 ここぞとばかりに、シルルが前に出る。


「いえ、シルルは今回の戦では大変な役割だったので、先に戻って英気を養っておいてください」

「え……」


 まさか断られるとは思わず、シルルは少し茫然としてしまう。


「ギヨウとミュエネも大変だったでしょう。先に戻っていてください。戻ったら話があるので、使者を送ります」


 その隙に、ゼルバはどんどんと話を進めてしまう。


「ええ、そうするわ」

「おう、待ってるぜ」


 ギヨウとミュエネが答え、シルルが口を挟む間もなく、話は終わってしまったのだ。

 


     ♦



 だから、というわけではないが、何故かシルルはギヨウとミュエネについて、そのままギヨウの家へと来てしまった。

 それにしたって、シルルにだってゼルバの城の近い所に家があるはずである。

 ゼルバがいないからと言って、仕方がない事などないのだ。


「シルル、あなた自分の家はどうしたの?」


 単純に興味があって、ミュエネが聞く。

 少しつっけんどんな言い方だが、二人の仲が悪いわけではない。


「家に帰らないのはいつもの事だから問題ない。両親も心配はしてないだろう」


 それに対して、シルルはどこかズレた事を言う。


「ほら、飯出来たぞ……って、お前、親いるんだな」

「あ……すまない」


 ギヨウの何気ない一言に、シルルは謝る。

 ギヨウにも、ミュエネにも親はいないのだ。


「いや、そういう意味じゃねえよ」


 そもそも、ギヨウは親を地球に置いてきたようなものなのだから、気にするも何もない。


「ミュエネだって気にしてない、よな?」

「そうね」


 ミュエネの方は、母親の事が吹っ切れているわけではないが、日常会話で気を遣われる方が嫌だった。


「そうか。うちは元々ゼルバ様に仕える普通の貴族だ。だから私は、ゼルバ様に子供の頃から仕えているのだ」

「へぇ~、じゃあ、いつか行っていいか?」


 何がじゃあなのかわからないが、ギヨウが聞く。


「駄目だ」


 しかしそれを、シルルは断った。


「俺んちには居座ってるくせに……」


 ギヨウが、恨みがましくシルルを見る。


「お前みたいのでも、連れていったら勘違いされるかもしれないだろ」

「勘違い?」


 ギヨウが小首を傾げ、その様子にミュエネは笑った。


「とにかく駄目だ。来ても面白いものではないぞ。普通の家だからな」

「ケチな奴だな。本当に駄目なのか?」


 特に理由はないようなので、一応、ギヨウは改めて聞いてみる。

 すると、少しの間の後で、

 

「考えて置いてやる……」


 そうシルルは答えたのだった。


「お、おう」


 思ったよりもしおらしいシルルの態度に、ギヨウは戸惑い、互い黙ってしまう。

 ちょうどいいことに、その沈黙を破るものが家へと入って来た。


「やあ、ギヨウ。いるかい?」


 アカツキ隊の副官、ジェスルリイドである。

 前にも同じことがあったが、ジェスがギヨウの家を訪ねたのは、その時と今日で、まだ二回目で

あった


「久しぶりだな。ジェス」


 ジェスとは戦から帰る途中で別れている。

 なので、会うのは久方ぶりとなる。


「今日は報告にと思ってさ。ちょうどよくご飯があるね。いただくよ」


 ジェスは相変わらず返事も聞かずに、図々しく家の中へと入って来ると、勝手に食卓についた。


「報告ってなんだ?」

「僕もゼルバ領に住むことにしたよ。もちろん両親もさ」

「そんなに簡単に移住できるもんなのか?」


 ギヨウは、この国の事など何も知らない。だから、こんな質問をするのも当たり前であった。


「そんなに簡単な事ではないぞ。勝手に領の移動をするのは違法だし、手続きをするにしても、ゼルバ様の領は人気があるから、そう簡単には移住は出来ない」


 ジェスが答える前に、シルルが横から答えた。


「でも、勝手に移動してもバレないんじゃないか?」

「そんな事はない。街ごとに住民の帳簿があるからな。だからお前がここに住む事になっ時、ゼルバ様からの書状が必要だっただろう?」

「へぇ~……え?」


 ギヨウはそれを聞いて、あることに気が付き、ミュエネの方を見た。

 

「なんだ?」

「つまり、ミュエネは不法滞在者だな。賊だ」


 シルルがきっぱりと言う。


「そうなのね」


 ミュエネは自分の事だというのに、他人事のように言う。


「だ、だけど、前回の戦の報酬はミュエネの分もあったぞ」

「村長が気を利かせて、住民帳簿に登録してくれたんじゃないかな?優しい村長で良かったじゃないか」


 ジェスの話だったはずなのに、中々話に加われなかったジェスが、無理矢理話に割って入って来る。

 ギヨウは、話を戻してやることにする。


「それで、移住は難しいって話だったけど、ジェスはどうやってこっちに移住したんだ?」

「そこはほら、これでね」


 ジェスが手で丸を作る。

 金という事である。


「ゼルバ領は安全な方だし、僕はアカツキ隊の副官だしね。元々、父様と母様と、こっちに移住しようかって話してたんだ。この街ではないけど、近くの街だよ」


 だから移動が早かったという事である。


「だから、いつでもご飯を食べに来れるよ!」


 ジェスは一方的にまくしたて、最後にそう言って締めた。


「いや、来なくていいぞ。最近じゃシンザ達だって、シルルがいると家が狭いから、飯を食いには来ないんだ」

「まるで私のせいみたいな言い方はやめろ。ミュエネの方が圧倒的に幅を取ってるぞ」


 言ってから、シルルは自分の小柄な体と、ミュエネの豊満な肉体を見比べて、自らの言葉が原因で落ち込んだ。

 そして、そう言われたミュエネは、勝手に落ち込んでいるシルルを見て、特に何も言い返さなかった。

 そもそも、ギヨウの家の広さでは、五人もいたら狭いというだけの話であるのはわかっているからだ。


「僕は狭くても気にしないよ。新鮮でいいじゃないか。でも……そうだ!なら僕の家に来るといいよ。君達なら安くしとくよ!」


 偶然にも、先程と似たような話となる。

 シルルは来るなと言い、逆にジェスは来いと言う。


「ん?そうだな……今度行くよ」


 ギヨウはそれほど乗り気ではない。

 何故なら、ジェスの家というのは商家なのだ。

 家に行くというより、商家に買い物に行くという感じになりそうだからである。


「今度と言わずに明日おいでよ!こうしちゃいられない!準備の為に帰るね!」


 だが、ジェスは何故だか興奮して、勝手にまくしたてて、飯を急いで掻っ込むと、返事を待たずに帰って行ってしまった。


「まじかよ……」


 ギヨウはその勢いに、それを茫然と見送る事しか出来なかった。


「暇だしいいんじゃない?」


 ミュエネが冷静に言う。


「まあ……ぶっちゃけ金の使い道もないしな。農具とか買いに行くか」

「ああ、行ってこい」


 シルルが他人事のように言う。


「いや、お前も来いよ、シルル」

「なんで、私が」

「でも、暇でしょう?」


 痛い所を突かれて、シルルは黙る。


「わかった。行くよ」


 そして、諦めたのだ。

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