メナ国の美姫①
ベザ国は、フェズ国の東側に面している国である。
そのベザ国にも、フェズ国の勝利の報が届いた。
「フェズ国にもまともな人材がいるようだな」
その戦報を聞いて、ベザ王が感想を口にする。
ベザ王は、若く整った顔立ちをした王だ。
20歳という若さが、子供の頃から才覚を発揮し、前王が玉座を譲った。
美男というだけでなく、政治の手腕も良く、武勇もあると言われている、完璧な王であった。
「ですが、これは我々にとっては余りよろしくはないですな」
ベザ国の宰相、デソウズがそう言う。
「そうだな。メナ王がどう思うやら……」
ベザ王がそう呟くと、玉座で頬杖をついて、ある方向を見る。
その方向の先、ベザ国内に、元メナ王がいるのだ。
♦
メナ国は、大陸をまとめていたメオ国の分家によって成り立っていた国である。
エルエ国の攻撃により、メオ国が滅んだときに、メナ国の王家はいち早く自分達だけで逃げだした。
その際に、無事に逃げ延びたのは王家の人間は三人だけである。
今はもう滅んだメナ国の王、そしてその妻の王妃、そしてその娘の姫のみである。
少ない側近と共に、彼らが頼って逃げる先は、三っつしかなかった。
一つは、フェズ国であるが、王の評判が悪いため避けた。
次は、ギラグ国だが、野蛮な国に逃げて命の保証がなかった。
そして、ベザ国である。小国ではあるが、王の評判がすこぶるよかった。
考えるまでもなく、メナ国の王家三人は、ベザ国へと亡命したのである。
そして、ベザ国は彼等を快く受け入れ、相応の暮らしを与えていた。
当然そこへも、フェズ国の勝利の報は届く。
「フェズ国がエルエ国の四傑将、知の将ニトを破ったか……」
元メナ王は、ぶくぶくと太った王である。
はっきりと言えば、立場上、部下に全てを任せ、何もすることがなかったのだから当然ではある。
「それに対して、ベザ国はメナ国を取り戻しにも行かない……もしかして、つく国を間違えたのかしら?」
そして、メナ王妃は妙齢ではあるが、歳を感じさせない程、美しい女性であった。
「そんな事を言わないでください、お母様。ベザ国にも事情があるのですから」
その娘であり、メナ国の姫、リフォンもまた、美しい女性であった。
儚げで、物静かな雰囲気を纏った彼女は、メナ国一美しい女性と言われるほどであり、メナ国の美姫と呼ばれていたのだ。
偶然にも彼女は、ベザ王と同じ歳の、20歳であった。
「そうは言っても、フェズ国がエルエ国を滅ぼしてしまったら、我々がメナ国に帰れるかどうか……」
「今からでも、遅くはないのかもしれません。例え愚王と呼ばれている王でも、メナの名を担げるのであれば、話を聞くかもしれません」
メナ王夫婦は、自分達がメナに帰ることしか考えていない。
それは当然のことかもしれないが、リフォンにはそれが不満であった。
「私、少し外に出てきます」
そんな話を聞くのが嫌で、リフォンはその場を離れる。
そして、そう言うときに、リフォンが向かう先はいつも同じである。
王城の庭の、花が咲く庭園である。
リフォンがそこに行く理由は二つあった。
一つは単純に花が好きだから、もう一つは――
「御機嫌いかがですか?リフォン様」
ベザ王に会う為である。
「リガズム様」
少し険しい顔をしていたリフォンだが、ベザ王、リガズムの顔を見ると、一瞬にしてその顔を明るくしたのだ。
そして、その顔はまた、少し赤みも帯びていた。
「少し座って話しましょうか」
「はい!」
二人は庭園にある四阿で、机を挟んで椅子に座る。
そして少し経つと、従者が茶を持ってくる。
リフォンがこの国に来てから、それほど長い期間が経ったわけではないが、二人はもう何度かこのように優雅な時間を過ごしていた。
その様子を見た臣下達は、皆口を揃えて言うのだ。「美男美女同士でお似合いだ」と。
「困ったことになってしまいましたね」
優雅に茶を飲みながら、リガズムが本当に困ったような顔をする。
「ええ……お父様と、お母様は、フェズ国に亡命すれば良かったなどと……」
そして、リフォンも同じように、困ったような顔で話す。
その整った二人の顔は、明るい顔でないにしろ、それでも美しいと思えるほどであった。
「我が国は小国ですからね。それに、ギラグ国が攻撃してきている。とてもエルエ国と戦う戦力はありません」
さらに言うならば、ベザ国とエルエ国が面しているのは、元メナ国の領地のみである。
エルエ国と戦うのは難しい、というのが現状である。
「ですが、私は――この国を離れたくありません」
リフォンは一瞬言い淀んで、言葉を言い換えた。
国がなくなったとはいえ、メナ国の姫である以上、軽々しく口に出せない事もあるのだ。
「はは……随分と、この国を気に入って頂けたようで。よかったです」
リガムズは鈍いというわけではない。
リフォンの好意を感じながら、やはり立場を考えて発言をしているのだ。
「リフォン様がこの国にいられるよう。努力は惜しまないつもりです」
「リガムズ様……」
二人は触れあったりはしない。
ただ机を挟んで、赤みを帯びた頬で、見つめ合い続けたのだった。




