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二人の知将⑯

 流れるように夜戦が始まったのだが、ニトの軍はゼルバの軍をまともに相手をしなかった。

 それどころか、街に火を放ったのである。


「やはりこうなりましたか」


 しかし、それすらもゼルバの予想の範囲内であった。


「なんで火なんて放ったんだ?良くあることなのか?」


 ギヨウの部隊は、ゼルバに言われた通りに一時的にゼルバの部隊へと取り込まれ、ギヨウとミュエネ、シルルのみがゼルバの近くで戦を見ていた。


「いえ、守る側が自国を焼き払って逃げるのは、そうあることではありません。奪われた土地を取り返すために、再び同じ場所が戦場になることも珍しくありませんからね」

「何も残っていなかったらこまるもんな」


 ギヨウは納得する。


「ですから、ニトはこの地に戻って来ない気なのでしょう。というよりは、おそらく――」


 ゼルバは、意味深なところで話しを止めた。


「なんだよ?」


 ギヨウは気になり聞いたが、ゼルバは答えなかった。


「いえ、すぐにわかることです。それよりも行きますよ。火を放ったのは、我々をかく乱するためでもあります。逃げられたら困ります」


 ゼルバはそう言って、軍を動かす。

 ギヨウは、横でその姿を眺めているだけで、ゼルバはニトを追いつめてしまったのである。

 


     ♦



 ゼルバ自身が兵を率いて行き、ニト本人を追いつめる形となる。

 つまり、二人は相対したのである。


「まさかこんな若造にね……」


 まだ兵は残っていたが、ニトは諦めたようで兵を引かせて、地面に座り込んで一人でゼルバと対峙していた。

 またゼルバも、そのニトの態度に応じ、一旦兵を制止させ、ギヨウを含む少ない側近と共にニトと対峙した。


「知将と名高いあなたと戦が出来たことを光栄に思います」

「ふん!よく言うよ。完璧に勝利しておきながらさ」


 ニトは悔し気に言う。


「そうですね……ですが、それは過去の情報によるものが大きい。あなたの戦の資料をいくつも読んで研究させていただきました」


 その量はかなり多かった。

 ニトと言う老婆は、それだけの戦の数を重ね、生き残ってきたのだ。

 しかし、その老婆の命も、今まさに尽きかけていた。


「それで、あたしの弱点を見つけたわけだ……見事だったよ」

「あっ!」


 場違いにも、ギヨウが大きな声を上げてしまう。

 それにより、その場の視線がギヨウへと集まってしまい、ギヨウは凄く気まずくなる。


「なんだい小僧?」


 意外にもそう言ったのはニトであった。


「いや……結局弱点ってのはなんだったのかな……って」


 とても気まずそうにギヨウが言う。


「それは、ニトが賢すぎる事です」


 ゼルバがそれに答えた。


「え?それっていい所だろ?弱点か?」


 ゼルバはギヨウの言葉に首を振る。


「そのため、誰もニトの考えに着いて来れないのですよ。資料を見ていて気が付きました。予想外の事が起きると、必ず一手遅れるのです。これがニトの弱点です。と言っても、今までそこを明確に狙う者がいなかったから、致命傷になる事はなかった」


 ゼルバは答え合わせを求めるように、ニトの方を見る。


「合ってるよ」


 ニトは嬉しそうに笑みを浮かべながら答え、更に言葉を続ける。


「それを補う為に子供をたくさん産んだのさ。だけど、どの子も出来が悪くてね。中々上手く行かないもんだね」

「ロヤを除いてですか?」


 その言葉に、やはりニトは嬉しそうだった。


「あんたみたいな子がいれば、あたしは今頃隠居してたんだけどね……」


 自分を理解してくれている者がいるのが嬉しいのだ。


「調べさせていただきました。ロヤと言うのはあなたの曾孫だそうですね。彼女がいれば、戦は厳しいものとなったでしょう」


 ゼルバは、ニトならロヤを逃がすと踏んでいた。

 それは、万が一に備えての安全策である。

 そこがゼルバの賭けではあった。

 しかし、例えロヤがいたとしても、ゼルバは勝つ気で戦に臨んでいたのだ。


「そうさね。あの子は、ロヤだけは他の子とは違った。あの子はあたし以上の才能を持っているよ、あの子に全てを託して、あたしは隠居するつもりだったのさ……少し間に合わなかったけどね」


 そう言ったニトの顔は、悔いがある者の顔ではなかった。


(いつ死んでもいいと思っていたのでしょうね。それが少し早まっただけだと)


 その顔を見て、ゼルバはそう考える。


「さて、最後の交渉をさせておくれ。あたしの首は差し出す代わりに、兵が逃げるのを見逃しちゃくれないかね」


 ニトは立ち上がると、深く頭を下げる。

 本来であれば、そんな事を言える立場ではないのだ。

 そもそも、火を放って逃げたのだし、このまま追撃をされても文句など言えないのだ。

 それを承知の上で、ニトは頼み込むように頭を深く下げたのだ。


「私は無益な殺生は好みません。元よりそのつもりです」


 ゼルバの返事を聞いて、ようやくニトは頭を上げる。


「恩に着るよ。と言っても、あたしゃこれから死ぬんだがね。フェフェフェッ」


 何が楽しいのか、ニトは笑う。

 これから死ぬというのに。


「少し待ってな」


 ニトは仲間の元まで歩くと、


「話は聞いてたね。こちらからの攻撃は一切なしで撤退するんだよ」

「は、はい!」


 部下に最後の命令を下した。


「さて」


 そして、再びゼルバの元へと戻って来ると、再び頭を垂れた。

 それは、先ほどまでのお願いとは違い、ただ首を差し出しただけである。


「じゃあ、さっさとやっておくれ」


 それを聞いてゼルバは、剣を振り上げた。

 そしてすぐさま、その剣をすぐに振り下ろした。

 ニトの首が綺麗に落ち、ニトは苦しむことなく絶命した。

 周囲に歓声が沸き起こり、勝鬨があがる。

 ここに、フェズ国の勝利が確定したのだ。

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