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二人の知将⑮

 陽がくれた頃に戦いは一旦静まりだし、フェズ軍は渓谷の上へと陣営を移していた。

 ギヨウは、ゼルバに呼ばれ、移された本陣へと来ていた。

 また、呼ばれたわけではないが、シルルは勝手にギヨウについてきて、ミュエネはギヨウが無理矢理連れて来ていた。


「よくやってくれましたね。ギヨウにミュエネ、シルル、それにアカツキ隊も」


 本陣には既に、他の将も集まっており、それでもギヨウ達はその中央でゼルバからの賞賛を受けることとなる。


「ああ」


 周囲の将たちの視線を集めている状況であり、ギヨウは少し居心地を悪く感じていた。

 それはミュエネも同じで、こちらも黙ってギヨウの後ろに隠れるようにして立っている。


「ありがとうございます」


 だが、シルルだけはこんな状況に慣れているのか、堂々とゼルバの賛辞を受け止めた。


「我々からも礼を言わせていただきたい。あなた達のおかげで、被害が少なく渓谷へ上がることができました。ありがとうございました」


 右翼を任されていた、ゼルバの補佐ベルベンが、更に重ねて礼を言ってくる。


「やめてくれよ。まだ戦は終わっちゃいないだろ」


 ギヨウはそんな事を言う。照れているのだ。


「そうですね。ですが、すぐに終わります」

「え?」


 ゼルバの言葉に、ギヨウ達三人だけが驚いたような顔をする。


「この渓谷には、街が作られています。ですが、城はないのです。渓谷の上に城を築くのは難しいですからね。なので、このまま街まで攻め入ります」

「このまま?もう夜になるぞ?」

「無理は承知です。夜戦をしかけないとニトに逃げられてしまいます」

「なに?ニトは逃げるのか?」


 どんどんと出てくる情報に、ギヨウは困惑するしかなかった。

 しかし、やはり周囲の将達がざわつくことはなかった。


「間違いなく逃げる準備をしているでしょう。ですが、全ては予想通りであり、予定通りです」

「な、なんだって!いつからだ?」

「出陣する前からです」


 だからこそ、この場にいる将は誰も驚いていないのである。


「あなたに教えなかったのは、余計な事を考えずに、一つの事に集中して欲しかったのです」


 ゼルバが続けて補足をする。


「まあそれは気にしないけどよ」


 ゼルバが気を遣ったことくらいはギヨウにもわかる。

 だから、そう返しておいた。


「というわけで、少しですが、休みは取れたはずです。予定通り、進軍を始めましょうか」

「「「はっ!」」」


 ゼルバが指示を出すと、その場にいる将達は自分の部隊へと戻っていった。


「ギヨウ」


 ギヨウ達も同じように戻ろうとしたのだが、ゼルバに呼び止められる。


「なんだ?」

「あなたの部隊は満身創痍でしょう。それに今回の戦で、あなた達は十分に功を立ててくれました。アカツキ隊は私と共に来てください」

「ああ」


 特に断る理由はなく、ギヨウは頷く。

 そんなギヨウに、ゼルバは笑いかけた。


「ニトに会いに行きましょう」

 


     ♦



 一方その頃、ニトは戦況の報告を受けていた。


「おばあ様。デイリゥ様と、ガダスラが討ち死にしたと……他にも……」


 親族の死を、ミヤリチヤが悲しそうに報告する。


「いいよ、ミヤリチヤ。少しずつ軍を下げな。撤退だよ」


 ニトは一瞬だけ悲しそうな顔をし、しかしすぐに凛々しい顔を取り戻すと指示を出し始めた。


「え?そ、そんな!兵だってまだ残っていますし、街に入られた時の備えもあります!」


 大勢が決したとは言い難い状況である。


「一体どんな手を使ったのかはわからないけど、本来なら渓谷まで上がられるはずもなかった。相手は相当研究して来たね。どっちにしろ、この勢いのまま戦ったら負けるさね。それも計算済みなんだろうさ。恐ろしい敵だよ。それなら、とっとと逃げるに限るよ」


 しかし、ニトの決断は速かった。

 この決断の速さが、この年齢までニトを生き残らせてきたと言える。


「は、はい!」


 ニトの話を聞き、ミヤリチヤは反論を辞めた。


「殿はあたしがやるよ」

「そ、そんな!それは私が!」


 しかし、やはりミヤリチヤは反論をする。


「あたしがやらなきゃ死者が増えるからね」


 それともう一つ、ニトには殿を務める理由があった。

 しかし、それを口に出す事はなかった。


「ほら!早く行くんだよ!」


 ニトは、ミヤリチヤを追い出すと、撤退用の作戦を練り直す。

 減った兵を考慮した動きをしないといけないからである。


(夜に攻撃さえされなければ問題はない)


 相手が普通の指揮官であるなら、行軍からの戦闘による兵の疲労。そして戦力差を考えて、夜戦を挑んではこないと言えるだろう。


(でも、そんなに甘い相手ではないね)


 相手の若い指揮官の事を、ニトは知らない。

 侮ったつもりもない。

 負けるつもりもなかった。

 だが負けたのだ。

 並みの指揮官ではないのは明白である。

 つまり、考えるまでもなく、夜戦で一気に終わらせに来るのは間違いないのだ。


(その場合、あの子に殿を任せたら最悪全滅まであるからね……)


 そして、それがニトが殿を務める理由であった。


 間もなくして、ゼルバの予定通りに、ニトの予想通りに、フェズ軍の進軍が始まった。

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