二人の知将⑬
渓谷へと駆け上がったアカツキ隊だったが、敵に囲まれていた。
そもそもが、百では兵の数が少ないのだ。
渓谷の上は崖際であり、配置できる兵は限られる。
それでも、敵兵は千はいたのだ。
アカツキ隊が包囲されてしまうのは仕方がない事である。
「らあっ!」
「なんだこのガキ!滅茶苦茶強いぞ!」
それでも耐えているのは、ギヨウにミュエネ、それにシルルが奮戦しているからに他ならない。
そんな中で、シルルがギヨウに近づき、戦いながら背中合わせに語り掛ける。
「ギヨウ見えるか?」
その短い言葉だけで、ギヨウはシルルが言わんとすることをすぐに理解する。
「ああ、あのデカいやつだな?」
大柄なデイリゥは、戦場において目立っていた。
「何故こんな前線まで来ているのかわからないが、あれが指揮官だろう。この劣勢をどうにかするなら、あいつを倒すしかない」
「でも、流石に護衛が多いぞ!」
「私達がどうにかする!」
そう言うとシルルが飛び出していく。
それと同時に、事前に口裏を合わせていたのか、ミュエネも前に出てシルルと二人でデイリゥの元へ突っ込んでいった。
二人の剣技は、それぞれ似てはいない。
シルルは愚直だが、素早い剣技であり、ミュエネは変則的だが、思いの外力強い剣技であった。
だが、双方強く、美しい剣技なのは間違いがなかったのだ。
「うわ!なんだこいつら」
「女だと!」
「子供じゃないか!」
「ギャアッ」
その二人が敵を何人も屠り、道を斬り開く。
そして、その後ろからギヨウが飛び出す。
その目前には、デイリゥが悠然と立っていた。
(時間はかけられねぇ!)
たったの三人で突出したギヨウ達は、敵の部隊の指揮官であるデイリゥとの戦いに時間をかけるわけにはいかなかった。
流石のギヨウも、包囲されてしまっては厳しい戦いになるからだ。
「ふんっ!なんだ!子供か!手は抜かんぞ!」
だが、その渾身の一撃はデイリゥに受け止められてしまう。
「まだだ!」
ギヨウは剣を受け止められたまま、デイリゥを強引に押し込む。
(な、なんだ!この子供、どんな怪力だ!)
デイリゥは大柄な男である。
歳を取ったとはいえ、若い頃は怪力で鳴らした将だ。
しかし、そんなデイリゥをギヨウは強引に押していったのだ。
「押してどうするというのだ!」
デイリゥはそう叫ぶと、ギヨウの剣を強引に外して、自分の矛を振りかぶった。
「こうするんだよ!」
ギヨウは、大きく振りかぶっているデイリゥの腹の部分の甲冑を蹴り飛ばす。
つまり、更に押し込んだのだ。
「え?」
デイリゥは態勢を崩し、後ろに足を出して踏ん張ろうとする。
しかし、そこにあるはずの地面がなかったのだ。
戦っていたのは、渓谷の崖際である。
デイリゥが気が付かないうちに、崖のぎりぎりの場所まで、ギヨウが怪力で押し込んでいたのである。
「か、母ちゃん。ごめんよ」
デイリゥは何かを掴もうとするが、掴めるものなどなく、なすすべもなく崖下へと落ちていく。
大柄な体に重い甲冑、万に一つも助かるはずもなく、デイリゥは崖を落ちて、地面に叩きつけられて絶命した。
「ウオオオオオ!」
ギヨウが勝鬨を上げ、
「なっ……!」
「で、デイリゥ様が!」
逆に、敵には動揺が広まった。
「アカツキ隊!一気に行くぞ!」
敵将を討ったからと言って、数の差が埋まるわけではない。
だが、将が討たれて士気が下がり、逃亡するものまで出る部隊に勝利するのは容易であった。
アカツキ隊は戦い続け、やがて戦いは終わる。
「俺達の勝ちだ!」
渓谷の上での戦いは、アカツキ隊の勝利で終わったのである。
だが、そこで問題が起きる。
「お、おいギヨウ!」
「ん?なんだダククガ」
「敵の援軍だ!」
ニトが打った手が、アカツキ隊へと襲い掛かったのである。
(戦えるか?)
森での戦いと、渓谷での戦い。この二つだけで、明らかにアカツキ隊は限界であった。
とてもではないが、敵の援軍と戦う力など残されてはいない。
(俺が一人でやるしかないか……)
ギヨウは覚悟を決めて、剣を握る。
「何人でもかかってきやがれ!」
そして、仲間の前に立って、そう叫んだ。




