二人の知将⑫
巨体のボズルを先頭にして、ギヨウ達の百兵隊は渓谷の上へと続く坂道へと入って行った。
緩やかな坂である。
もちろんそれは、敵兵を通すためではなく、味方の兵を森へと放つために隠された坂だから緩やかに作られたのだろう。
だからこそ登りやすいのだが、だからこそ長い道だった。
「ん?」
「な、なんだ!?」
「て、敵だ!敵襲だ!」
だからこそ、坂を登り切る前に、当然敵に気づかれてしまう。
「やべぇ!」
「どっちにしろ、もう昇るしかないぞ!」
しかし、勢いよく進軍していたアカツキ隊は、敵に気づかれた時には、もう道の半分を進んでいたのだ。
引き返すことも出来なければ、引き返す気もなかった。
「矢を放て!投石もするんだ!」
敵軍からそんな声が上がり、攻撃が開始される。
矢はもちろんの事、石は、その辺に落ちている石である。大きさもまちまちであり、人の拳ほどのものが多かった。それでも、高い所から勢いよく放られた石は、十分凶器になりえた。
そんな、上から降って来る攻撃はどうしようもなく、アカツキ隊は盾で頭を守りながら、必死に走る事しか出来なかった。
「くっそ!おい、ボズル!大丈夫か!」
そんな中でギヨウやミュエネ、シルルは盾自体持っていなかったが、上からの攻撃を器用に躱したり剣で斬り払ったりしてやり過ごしていた。
しかし、先頭を走るボズルは、その巨体と先頭に立っていることから、必然的に攻撃を多く受けてしまう。
「だ、大丈夫だ!俺の甲冑は特別固くしてもらってるんだ」
その代わり重いのだが、街一番の怪力であるボズルには、そんな事は関係がなかった。
「それより、やばいぞ!」
敵の攻撃に耐えながら、道を7割ほどまで進んだところで、道の上の所に巨大な岩が現れる。
人一人分の大きさがありそうな巨大な丸い岩である。
それは、当然敵が最初から用意していたものである。
「お、おい!まさかあれを転がしてくるんじゃ……」
後続から不安な声が上がる。
ギヨウだって驚き、身の毛がよだつのを感じた。
「隊長!大丈夫だ!このまま走ってくれ!」
しかし、ボズルだけが走る速度を緩めずに、そう叫んだ。
「おう!お前ら!ボズルを信じろ!足を止めるな!」
ギヨウは腹をくくり、自信も走りを緩めずに叫んだ。
「馬鹿が、この岩に引かれちまえ」
敵はそんな事を言いながら、無慈悲にも岩を転がす。
まだギヨウ達まで距離はあり、転がされた岩は勢いづいて、ギヨウ達まで転がっていく。
だが、その岩は、先頭のボズルに到達すると、止まった。
止まったのではなく、止めたのだ。
自分とそう変わらないと思われる巨大な転がる岩を、ボズルはその怪力で止めたのだ。
「お、おおおおおお!」
それだけではなく、ボズルは持ち前の怪力で、岩を持ち上げると、そのまま走って逆に岩を坂の上へ投げ飛ばしてしまったのだ。
その時にはもう、坂の上は目と鼻の先であった。
「そんな馬鹿な!」
「うわああああああ!」
そして、坂道の上には、敵がアカツキ隊を止めるべく布陣していたのだが、その敵は投げ飛ばされた岩に吹き飛ばされ、道が開ける。
「うおおおお!」
さらに、ボズルが巨体に身を任せて、これまた巨大なこん棒で斬り込み、敵が完全に崩れる。
そこから、一気にアカツキ隊が渓谷の上へと乗り込んでいった。
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「何!側面の道から敵が登って来ただと!」
エルエ国将軍、ニトの息子であるデイリゥは、正面から見て一番右側の道の上を守る将であった。
つまり、ギヨウ達の部隊が登って来た渓谷の近くの指揮をしていたのである。
「いったいどうやったかは知らんが、そんなものは俺が叩き潰してやろう」
デイリゥは、自ら戦うべく立ち上がった。
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同じように、ニトにもその報告はすぐさま到達する。
「なんだって!すぐに援軍を向かわせるんだよ!デイリゥには援軍が来るまで守るように言うんだ!」
だが、ニトの指示もむなしく、この伝令が着いた頃にはデイリゥは戦いを始めていたし、この伝令が着くころには戦いは終わっていたのである。




