二人の知将⑪
「おおおお!」
ギヨウの剣が敵兵の体を斬り飛ばし、ミュエネが矢を射って敵兵を貫いた。
「はぁはぁ……伏兵が多いな……」
最初に伏兵を倒してから、更に森を進み続けたアカツキ隊だったが、何度も伏兵と戦い続けていた。
戦う事が増え、シンザがぼやいた。
「ミュエネのお陰で奇襲を受けないとは言ってもよ、限度があるぜ」
同じように、弟のダククガもぼやく。
「当たり前よ。罠と敵がいる方に進んでるんだから」
ミュエネがとんでもない事をサラッと言い、
「ええ!なんでだ!」
その言葉に、全員が驚いた。
「どういうことだ、ミュエネ?」
更に、ギヨウも続けて冷静に聞く。
ミュエネが意味もなくそんな事をするとは思っておらず、信頼しているからである。
「この森、かなり考えて作られているのよ、罠や敵を発見出来ても、そこを避けていくと中の道へ戻されるようになっているの。でも、普通の人にはそれがわからない。ジェス、北はどっちだと思う?」
ミュエネに突然言われて、ジェスは少し考えてから答えた。
「こっちだね!」
ジェスは何が根拠か自信満々である。
「そっちは東ね。こういう風に、深い木々で空も見えないし、方角もわからない。気が付いたら森の中で迷うか、罠か伏兵に殺されるか、元の道に戻されてしまうってわけね」
「だけど、うちにはミュエネがいる。方角はあってるってことだよな?」
ギヨウが腕を組んで、何故か得意気に割り込んでくる。
「そうね。結果的に、それが罠や敵がいる方ってことね。遠目で正面から見たときは、渓谷に登れそうな道は見当たらなかったから、側面に向かって真っすぐ歩いているわ」
「それで、渓谷にはどれくらいの時間で登れそうだ?」
シルルが焦ったように聞いた。
それもそうである。アカツキ隊が着くまで、味方は危険にさらされ続けるのだ。
「そうね……この調子ならもうすぐ、渓谷の下には着くはずよ。でも、そこから登る道を探さなきゃいけないから……わからないわ」
「なに!」
シルルが驚く。
「もうそんなに来ているのか!」
その驚きは、逆である。
本当の所、まだまだ時間がかかると思っていたからである。
「じゃあ休憩している場合じゃねぇな!」
特に休憩と言ったわけではないが、ミュエネが話している間、全員は座り込んで休憩をしていた。
軍として考えたら勝手な事ではあるが、ギヨウはそんな事は気にしないし、むしろ各自の判断で休んでくれたことが良かったとさえ思う。
そして、ギヨウが勢いよく立ち上がると、99人の仲間は同じように立ち上がった。
ギヨウの部隊は、奇跡的な事にまだ一人として欠けていないのだ。
「行くぞ!」
「おう!」
さらに言うなら、鬱々とした森の中を歩き続けているのに、士気も落ちていなかった。
誰よりも前にギヨウ自身が立ち、敵を屠る姿は、部隊を勢いづけていたのだ。
(ギヨウ隊長はすげぇ、これなら、俺達の部隊が英雄にだってなれる)
部隊の誰もに、そう思わせる程なのだ。
そして、アカツキ隊は勢いよく進軍を再開した。
♦
ミュエネが言った通りに、アカツキ隊はすぐに渓谷の下へと辿り着いた。
しかも、渓谷へと上がる道も見つけたのだ。
おかしなことに、その道の下には、守りの兵士がいなかった。
それでも、ギヨウ達は森に隠れて誰も居ない道を見ていた。
「おいおいミュエネ。凄いじゃねえか」
森の中に隠れながら、ギヨウが小さい声でミュエネを褒める。
森に入ってから、ギヨウはミュエネの事を褒めてばかりである。
「ぐ、偶然よ。怪しい方向を選んでたから……たまたまよ」
ミュエネは涼しい顔をしているのだが、褒められて内心喜んでいるのをギヨウは知っていた。
「それより、なんで兵がいないんだ?」
ダンレンが不思議そうに聞く。
「上にいるのだろう。それほど広い道ではない。精々横に三人くらいしか並べない長い坂道だ。登っているうちに敵に気づかれるし、上の出る場所を抑えられたらどうしようもない」
シルルが冷静に分析した。
「じゃあどうすればいいのかな?」
イイルダが不安そうに聞く。
「そんなん決まってる。俺が一気に登って、上の奴等をぶっ飛ばして道を作ってやるよ」
ギヨウが意気込んでそう言ったが、それを止める者が出てくる。
「隊長。ちょっと待ってくれ」
今回の戦から加わった、ボズルである。
ボズルはその巨体から、隠れる為に屈むどころか這って動いていた。
「先陣は俺に任せてくれ」
今ここで割り込んできたという事は、そう言うのだろうと誰もが予想出来た。
その決意に満ちた目を、ギヨウは無言で見つめた。
「わかった。頼んだぜボズル」
そして、その肩を掴み、先陣を託した。
「隊長。ありがとう。俺、意外と足が速いんだ。任せてくれ」
「おう。ジェス、みんなに伝えてくれ、上に登ったらもう隠れる所はねえ、登ったら一気に渓谷を制圧するぞ。足を止めるなよと」
「わかったよ」
ジェスが小声で周りへと伝えていく。
それから、少し待ってからギヨウは言った。
「よし、じゃあ、アカツキ隊。行くぞ!」
そして、アカツキ隊の進軍が始まった。




