二人の知将⑨
フェズ国の進軍は、歩兵からのみ始まった。
森に作られた細い道を、勢いのままに馬で駆けるのは危険だからである。
それでなくとも、戦は歩兵を前にして動かすのが基本である。
当然ギヨウ達の部隊も、第一軍へと入っており、他の味方と同じように森の直前まで移動をする。
野戦ではないため、森までは敵はおらず、ギヨウの部隊に限らず、侵攻を始めたフェズ軍の全てが無傷のまま森までたどり着くこととなる。
そこから多くの部隊は、整備された道へと入って行き、ギヨウ達を含む少しの部隊が、森の中へと入って行こうとしていた。
「なんだ?俺たち以外にも森に入って行く仲間がいるぞ?」
その様子に、ギヨウは驚き声を上げた。
「馬鹿だな。一部隊だけ入って行ったら怪しすぎるだろ。あと勝手に入ってる奴もいる」
シルルが呆れたように言った。
「そ、それもそうか」
ギヨウの様子は少しおかしい。
一人で戦うのならまだしも、隊を率いて戦うということが初めてだから、柄にもなく緊張しているのである。
「それより号令をしてやれ」
シルルはギヨウの様子がおかしなことを感じ、しなければいけないことを促す。
「あ、ああ」
ギヨウは言われて、100人いる部隊の方へと向き直った。
「みんな聞いてくれ!俺達アカツキ隊は、これから森の中を進軍する!敵の罠にかからないように、俺とミュエネが先行する。その後をついてきてくれ!絶対にはぐれるなよ!」
「「「おう!」」」
ギヨウは叫ぶと、仲間以上に自分の気持ちが晴れるのを感じた。
シルルも横でその様子を見て安心する。
「じゃあ行くぞ!」
ギヨウの号令で、百兵隊は森の中へと入って行く。
この百兵隊には、前回の戦で森を通って撤退した者が多く入っている。
ミュエネへの信頼から、誰も森に入る事へ怖気づくことはなかったのだった。
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「なあ、ミュエネ。渓谷までどれくらいかかる?」
森の中へと入り、少しの時間が経ったアカツキ隊だったが、まだ敵とは遭遇していなかった。
「どれくらいって……私一人なら誰にも見つからないし、一時間もかからないわ」
「部隊なら?」
ギヨウとミュエネの会話に、シルルが割り込む。
単純に興味があったからだ。
しかし、その質問にミュエネは首を振った。
「わからないわね。伏兵がいる森を部隊で動いたことなんてないし、どうやって渓谷を登るのよ?崖を登るわけにはいかないでしょう?」
「それが、ゼルバ様もどこかに登るところはあるはずだから探してくれとしか……」
それも込みで、ゼルバはアカツキ隊に期待をしているのだ。
「止まって!」
急にミュエネが叫んだ。
それを聞いて、先頭を歩くギヨウとシルルが止まり、後ろに続く98人の兵も止まる。
ミュエネが黙って剣を抜くと、草むらへと振るう。
すると、綱が切れて罠が発動した。
「良く気付いたな。気が付かなかったぜ」
賞賛するギヨウを、ミュエネはなおも制止する。
「まだよ、動かないで」
今度は罠があった場所から少し先へ歩いて行くと、地面を足で何回か叩いた。
すると、地面に穴があく。
「落とし穴ね」
そこは落とし穴である。
当然落ちるだけではなく、落ちたら死ぬように、鋭利な刃物が敷き詰められていた。
「こんなところにも罠が」
「近い場所に二個も罠を置くものなのか?」
「一個目を見つけやすくして置いて、一個目を解除して安心したところを狙っているのでしょうね」
「一個目も見つけられなかったんだが……」
ギヨウの最後の言葉にミュエネだけが笑った。
他の者は誰も見つけられなかったのだ。
「この分だと、他に森に入った部隊は厳しいだろうな」
「ああ、ゼルバが俺の部隊にしかできないった言った意味もわかるぜ」
(ゼルバは、俺もどうのこうの言っていたけど、ミュエネがいるからだな)
ギヨウはそんな事を考えながらミュエネの方を見たが、ミュエネの方は罠を見つけたことは鼻にかけた様子もなく、すたすたと歩いて行く。
「早く行きましょう。急ぐように言われてるんでしょう?」
「お、おう!そうだな!」
ギヨウ達がこうしている間にも、味方は戦っているのだ。
だから、ギヨウは急いでミュエネを追いかけるのだった。




