二人の知将⑧
フェズ軍が本陣を築いたころ、エルエ国四傑将、知の将ニトは渓谷からその本陣を見下ろしていた。
「驚いたね。本当に攻めて来たよ」
ニトは椅子に座り、周囲には、数人の年齢も様々な男女がいた。
「フェズ王は噂通りの愚か者なんだろ、母ちゃん」
ニトの隣にいる大柄な男が大きな声で笑った。
ニトの息子の一人、デイリゥである。
「だといいけどね。いつだって最悪の状況を考えるように、あたしは口を酸っぱくして言って来たよね?」
「だははは!そうだっけ?」
デイリゥは笑って誤魔化す。
「だから、ロヤを王都へ送ったのですよね?」
そう言ったのは、ニトの孫、ミヤリチヤが言う。
彼女はロヤの叔母である。
ロヤの母親は、ロヤを無理矢理説得し、共に王都へと向かっていた。
「そうだね。もちろん負けるはずもないけどね。あたし一人でも大丈夫さ」
「一人だなんてそんなことないだろ、ひいばあちゃん。僕達がいるさ」
更に、ニトの曾孫、ロヤの従兄弟にあたる、ガダスラが得意気に言う。
他にも、ニトから見て息子や娘、孫に曾孫がこの場にいた。
ニトの領地は、家族で統治しているのである。
「……そうだね」
曾孫の頼もしい台詞を、ニトは静かに受け止めた。
「それで、相手の総大将の名前はわかったのかい?」
「はい、ゼルバという者だそうです」
「聞いたことない名だね」
(最も、名だたる将のほとんどは、20年前に殺したから当たり前だけどね)
エルエ国の四傑将が生き残っていることは、逆にフェズ国の将軍の多くは四傑将に殺されてしまっているという事である。
フェズ国には、名だたる古い将はほとんど残っていないのである。
「それが、リルボスト・シセナ・ゼルバというそうですよ」
「リルボスト・シセナ……覚えているよ、あの地の領主の名前だね」
「あの地って?」
デイリゥが能天気に聞いてくる。
「あんたには、教えても仕方ないね」
ニトは諦めたようにそう言う。
「そりゃないよ、母ちゃん」
デイリゥのその言葉を無視すると、ニトは椅子から立ち上がった。
ニトは、渓谷から敵ではなく森を見つめる。ここからなら、少しくらいは味方の配置の確認も出来た。
「兵の配置は済んでるね。決められた通り、あたしの言う通りにやれば負けはないよ」
「「「はい!」」」
ニトの家族は、それぞれ返事をする。
「それじゃあ各自、配置に戻りな。直に戦が始まるよ」
「「「はい!」」」
ニトの号令に、それぞれが、やはり同じように返事をすると、慌ただしく自分の持ち場へと戻っていった。
そして、ニトの言った通りに、それからすぐにフェズ軍の進軍が始まったのである。




