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二人の知将⑦

 ギヨウはシルルの後を追って歩いて行く。

 そんな中で、本陣に近づいて行くにつれ、騎兵が増え、高価そうな甲冑を着た兵士達が増えていくのを感じた。

 そして、ギヨウ達歩兵は野宿であるのだが、本陣の方には、いくつかのしっかりとした天幕が張ってあるのであった。

 そこは、明らかに空気が張り詰めており、警備の人間が、怪しい人間は絶対に見落とさないという風な目つきで、そこら中で鋭く睨みつけていた。

 そんな中でギヨウは、鋭い目つきを向けられることはあっても、呼び止められることはなかった。


(シルルがついているからだよな?)


 そう考えると、ギヨウの顔は知られておらず、シルルの顔は知られているという事となる。

 当然と言えば当然であるし、ギヨウはそんな事は気にしないが、それでもギヨウは自分一人でも本陣を歩ける姿を少しだけ想像してしまった。


「ここだ」


 そんな中で、一際警備の厚い天幕で、シルルが足を止めた。

 しかし、そこも咎められることなく、中へと入って行ってしまう。

 ギヨウも、警備の事など気にせずに中へと入った。


「良く来ましたねギヨウ」


 中に入ると、ゼルバと、その他にゼルバの城で見知った顔の者達が、大きな机の上に乗った地図の周りに集まっていた。

 その誰もが険しい顔をしており、ゼルバの顔も、ぱっと見はいつも通りなのだが、鈍いギヨウからしても疲れが見て取れた。それは行軍の疲れではなく、今回の戦での総大将としての責務によるものである。


「大変そうだな」

「そうですね。ですが、大変なのはこれからですよ」


(それもそうか)


 そもそも、まだ戦が始まる前である。

 ゼルバの言う通り、これからが本番なのだ。


「それで、用があるんだよな?」


 どう考えても談笑する雰囲気ではなく、ギヨウはすぐに本題へと入る。


「ええ、もちろんです。時にギヨウ。もうこれから攻める先は見ましたね」

「ああ、なんつーか……森だな」


 ギヨウは、少し馬鹿っぽく話す。

 だが、それ以外に形容できなかったのだ。


「そうですね。では、あなたならどう攻めますか?」


 ギヨウはその質問に戸惑った。

 そんなことを聞かれるとは思ってもいなかったからだ。


「え?うーん……森を焼いちまうとか?」


 ギヨウが言った意見に、その場がざわめいた。


「え?駄目か?」


 その様子に、ギヨウは戸惑う。

 ゼルバの補佐、ベルベンがギヨウの問いに答えた。


「駄目ではありません。焼き討ちも立派な戦略ですからね。しかし、焼き討ちは上手くいくかわかりません。火を放っても上手く燃え広がらない事もあります。それに、あまり褒められた戦術ではありません。特に森などの自然に火を放つ行為は、他の国から非難の声があがるかもしれません」

「まあ、フェズ国には下がる評判なんてないかもしれないがな」


 シルルが、ギヨウの近くでぼそりと付け足した。


「そ、そうか。すまん」


 なんにせよ、あまり良い策ではなかったようなので、ギヨウは素直に謝るしかなかった。


「じゃ、じゃあ!どう攻めるつもりなんだ?」


 しかし、それ以外の考えが思い浮かばず、ギヨウはゼルバへと聞くしかなくなる。


「もちろん正面から攻めます。道があるでしょう。そこを通るのです」

「え?いや、だってよ!あからさまな罠だってミュエネが言ってたぞ!」


 あまりにも予想外なゼルバの言葉に、ギヨウは声を荒げる。


「そもそも、実のところ森よりも、渓谷の方が問題なのです」

「どういうことだ?」

「ニトの作った国は、渓谷の上にあるのです。つまり、我々は渓谷を登らなければなりません」

「それで?」

「森は伏兵まみれでしょう。その森を苦労して抜けた先の渓谷から、下に向かって大きめの岩でも転がすだけで、こちらの兵を殺せてしまいます。その猛攻をかいくぐった先に、敵は待ち受けているのです。勝ち目はありません」


 聞いてから、ギヨウは少し考える。


「駄目ってことじゃねえか」


 そして、ゼルバが正面から行ったら勝てないと言ったことに気が付いた。

 だが、ゼルバは正面から行くと言ったのだ。


「ええ。ですから、攻めるのは一か所だけです。他の所は攻める振りをしながら、その一か所が渓谷を登り、敵を崩すのを待つのです」


 ゼルバは簡単に言うが、それをするのが難しい事を先程自分自身で説明したばかりである。

 だが、ギヨウはゼルバの言おうとしたことを理解した。


「つまり、俺の部隊がその一か所になればいいってことだな?」


 そう言う事なのだと。


「違います」


(違うのかよ)


 予想が外れて、ギヨウは心の中で突っ込みをいれる。


「じゃ、じゃあ、その重要なところはゼルバが指揮するんだな!」

「それも違います」


(なんでだよ!)


 やはり、予想は外れる。


「私自身が囮になる事で、他の場所の攻めが嘘ではない事を示します。渓谷を抜ける場所の指揮はベルベンに任せます。そして、あなたの部隊は、その一か所が渓谷へ入る手助けをするのです」


 それを聞いても、ギヨウはまるで理解できなかった。


「色々話してくれて悪いんだけどよゼルバ。俺は何をすればいいんだ?」


 だから、ギヨウは結論だけを聞くことにした。


「あなたの部隊は森へと入り、渓谷に一番早く登って、渓谷の上にいる敵を倒すのです。これは、あなたの部隊にしか出来ません」

「俺の部隊にしか出来ない?」

「ええ、ただ森を進むのではありません。森の中は伏兵まみれでしょう。そして、その伏兵からニトへとあなた達の存在が伝えられれば、あなた達を潰すためにニトが兵を動かします。つまり、敵に気付かれずに、味方が渓谷に着くよりも早く、森の中を行軍しないといけません」


 言うのは簡単であるが、ゼルバは、かなり滅茶苦茶な事を言っている。


「これは、かつて、森の中で伏兵を見破ったあなた、それに森の民であるミュエネがいる、あなたの部隊にしか出来ない事です」


 だが、ゼルバは本気であり、ギヨウに期待しているのだ。


「おう!任せときな!」


 だからギヨウは、その期待に応えたのである。


「良い返事です。では、シルルもギヨウについて行ってあげてください」

「え?わ、私もですか?」


 ギヨウは納得したが、シルルは驚き困惑した。


「ギヨウの部隊は新設の部隊ですからね、登ってからが心配です。指揮はあなたが手伝ってあげてください」

「で、ですが、私にも部隊が……」


 シルルは食い下がる。


「あなたの部隊は、私の部隊に入れます」

「わ、私はゼルバ様を守らなければならないのですが……」


 シルルは、なおも食い下がる。


「この戦に勝つ事こそが、私を守ることになるでしょう」


 だが、ゼルバはそれを許さなかった。


「は、はい。わかりました」


 シルルは普段の威勢の良さなどいざ知らず、しおらしく承諾するしかなかったのだった。


「あと、ギヨウ。あなたの部隊に名前を付けなさい。でないと、活躍した部隊がどこかわかりづらいですからね」


 最後に、ゼルバがギヨウに言った。


「名前?どんなのがいいんだ?」

「何でもよいですが、シルルは自分の名前の部隊ですよ。クエナ隊と言います」

「じゃあ、俺もアカツキ隊でいいよ」


 ギヨウは、あっさりと自分の部隊の名前を決めてしまう。

 暁というのは、ギヨウが地球にいた頃の名前である。


「そうですか、いずれは旗も作らないといけませんね」


 それは、今回の戦を勝ってからの話である。


「ああ、そうだな」


 当然、ギヨウも勝つ前提でそう答えたのだ。

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