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シタダイルの丘の戦い 戦後②

 エルエ王と知将ニト。

 二人が来たのは、見晴らしのいい王宮の城壁の一部分である。


「あんまり老人を歩かせるんじゃないよ。階段なんか特にね」


 そう言ったニトは、実際に短い距離を歩いただけで疲れているようであった。


「そうか、すまなかった」

「あんたもじじいになればわかるよ。まあ何十年後だって話だけどね」


 ニトは楽しそうに笑う。

 まだ10代のエルエ王には、想像もつかない程の年月である。


「それまで私が生きていればな」


 それはもちろん寿命や病気で、という話ではなく、戦争に勝利できるかどうかという話である。

 敗北すれば、ほぼ間違いなく死ぬのだから。


「生きてもらわなきゃ困るよ」


 そして、当然ニトからしても、それは勝ってくれなきゃ困るという話になる。


「それで、話と言うのはなんだ?」


 無駄な話をせずに、エルエ王はすぐさま本題へと入る。


「いやだね、今してるんだよ」 


 その言葉の意味が解らずに、エルエ王は困る。


「どういうことだ?」

「あたしがばばあだって話だよ。いつ死んでもおかしくないって事さ」


 その言葉を聞いて、エルエ王は神妙な顔をした。


「四傑将は一人でも欠けたら困るんだが……」

「無茶言うねぇ……少し階段を登れば息が上がり、戦場には馬車に乗っていくあたしにさ」


 実際に、ニトはもう70を超えており、いつ寿命で死んでもおかしくない老婆なのである。


「では、やはり……」

「ああ、もしあたしが死んだら、ロヤを知の将にしておくれ」


 それは、少しだけ事前に話していたことである。

 だからこそ、まだ実績のないロヤを将軍にし、総大将にすることを承諾したのだ。


「まあ、もちろん死ぬ気はないさね。出来れば曾孫の子まで見たいものだねぇ……」

「そう言われても、私には正妻すらいない。流石にロヤを娶ったら文句も出る」


 王の返事を聞いて、ニトは驚く。


「ロヤの好意に気付いておったのか?」

「私は鈍感ではないぞ。好意を寄せる女の目はよく見るしな……」


 エルエ王は疲れ切ったような顔をする。

 別に、エルエ王が女性に興味がないというわけではない。ただ王と言う立場上、相手は慎重に選ばなければならないのだ。

 

(それに、今は私は戦の事しか考えられないからな)


 さらに言うなら、エルエ王はまだ10代である。若いのだ。

 確かに、早いうちに結婚をする王は少なくない。

 だが、エルエ王は最初から王になる事を約束された者ではないのだから、結婚などの話は王になった最近になって話し出されたばかりである。


「まあ、ロヤには良くしてやってくれ。あの子は純粋なのさ。それとも年上は嫌かえ?」


 ロヤの方が、エルエ王より少しだけ年上である。

 もちろん、ニトはその事を本気で言っているわけではない。冗談である。


「私の好みで言うなら、年齢も容姿も出自も、そんなものはどうでもいいんだがな」


 それがわかった上で、エルエ王は真面目に答え、遠い目をした。


「王って言うのも大変だね。自由がなくてさ」


 その背中を、ニトは同情の目で見る。


「さて、話は終わりだよ。あたしはさっさと自分の領地に帰るさ」

「ああ、これからも頼むぞ」


 王のその言葉は、普通の言葉ではあるのだが、実質ニトに死ぬなと言っているのと変わらなかった。

 だがニトは、それに何も答えなかったのだ。

 


     ♦


 

 場所は代わり、フェズ国王都キエラ。

 その中にある王の部屋では、やはりフェズ王による女達への凌辱が絶え間なく行われていた。


 その部屋の前で、将軍ビルガンは一人立ち尽くしていた。

 部屋の扉は当然閉まっており、女達の奉仕を受けているフェズ王はそれに気が付いていない。

 ビルガンが部屋に入らない理由は言うまでもない。

 敗北の報告を、フェズ王にしなければいけないからである。

 

 それでも、いつかは知られてしまう事である。

 ビルガンは意を決して部屋の中へと入る。

 相も変わらず、部屋の中は多くの裸の女により生み出された異様な熱気に包まれていた。

 だが、今のビルガンにはそんな事を感じるほどの余裕はない。


「ん?ビルガンか。どうだった?」


 フェズ王は聞いてくる。

 軽い聞き方であるが、ビルガンが来た理由を、フェズ王自身はしっかりと理解して問いかけているのだ。

 

「そ、それが……」

「ああ、なんだ。負けたのか」


 言い淀んでいるビルガンの様子を見て、あっさりとフェズ王は答えを出す。

 そして、それはどうでも良さげなのである。


「はっ!申し訳ございません!」


 ビルガンは深く頭を下げるしかなかった。


「それで?連れてきたのだろうな?」


 しかし、そんなビルガンの様子に心底どうでも良さそうにしながら、フェズ王は尋ねた。


「は?」


 話が見えずに、ビルガンは間抜けな顔をしてしまう。


「何故そんな顔をする?負けたら美女百人と貴様の妻を一人献上しろと言っただろう?」

「そ、それは……まだ準備が出来ておらず……」

「ちっ!のろまが。年齢も出自もどうでもいいから、早く集めて献上するのだぞ」


 フェズ王は、自国が負け、領土が奪われた事などどうでもよいのだ。

 ただ、自分の快楽のことだけを考えていた。

 むしろ、負けて嬉しそうにしているくらいである。


「わかったら早く行け!」

「は、はい!」


 ビルガンは王に怒鳴られ、急いで部屋を出て行ったのであった。

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