シタダイルの丘の戦い 戦後①
エルエ王国の王都ルト。
シタダイルでの勝利は、当然急使で既に報告が為されている。
それに遅れて、本体が戻って来る。
つまり、この戦いで活躍した総大将ロヤや、四傑将の三人が今、王都ルトへと着いたのである。
そして、王の間へと人が集まりそれを迎えた。
「エルエ王様。総大将ロヤが、今戻って参りました」
今回の戦いで総大将を務めたロヤが正面に立ち、エルエ王の前に優雅に跪いた。
その後ろには、武の将、守の将、知の将が並んでおり、ロヤに続いて跪く。
「もちろん勝利を手に入れてね」
知の将ニトが、曾孫の言葉を補足する。
「うむ、よくやってくれた」
その言葉を聞いただけで、ロヤは甘美の如き表情を密かに作る。
「そんな……私などにはもったいなきお言葉、四傑将の皆様のお力のおかげです」
「謙遜などしなくてもよい、総大将はそなたなのだ、ロヤよ。それでは――」
「ちょっといいさね」
エルエ王の言葉をニトが遮った。
あまり良くない事ではあるが、エルエ王は気分を害することはない。
「どうした、ニトよ」
「少し気になる事があって話して置きたくてね。シタダイルの街を占領したのだけど、もぬけの殻だったんだよ」
それに対して、王は怪訝な顔をする。
「逃げ出したからという事か?」
「そうさね。それに、相手の兵力も予想よりかなり多かった。今回は大勝ではあるけど、相手の指揮官がまともなら、こちらの被害も大きかったかもね」
「つまり、動きが早すぎるということか?」
すぐに正解を導き出した王に、ニトは嬉しそうな顔をする。
「そうだね。こちらだって向こうの予想より速く動いたはずなんだ」
「だが、先手を打たれていた」
エルエ王が、鋭くニトの言いたいことを言い当てる。
「つまり、フェズ国の誰かが、数ある戦場の中からシタダイルが戦場になることを正確に予測していたのさ」
それを聞いて、別の所から声があがった。
「間者から情報が漏れた可能性は?」
「それでも、もう少し動きは遅いだろうね」
更に続けて、その場にいた政官の一人が声を上げる。
「その誰かに心当たりがあるのですか?」
「ないから困っているのさ。20年前に、フェズ国の知略に長けた将のほとんどはあたしが殺したからね。まさか愚王と言われている、フェズ王が予測したとは思わないけどね」
「つまり、ニト様は何が言いたいのですか?」
痺れを切らした、また別の政官がニトに尋ねた。
「勝ったけど、油断はしちゃいけないってことだよ。フェズ国にも、有能な将がいるようだ」
それを聞いて、エルエ王は笑う。
何故なら、彼は油断などする気はないからだ。
「もちろんだ。だが、今は素直に勝利を喜ぼうではないか」
「そうさね。話の腰を折ってすまなかったね、エルエ王様」
「いや、よい。大事なことだからな」
そこまで話すと、ニトは再びロヤの後ろで跪いた。
「それでは先程の続きだが、今回の功労者であるそなた達には、何でも好きな褒美を取らせよう。もちろんオグルブ、ズェガェ、ニトにもだ」
(まずい!)
ニトは、王のその言葉に危機感を抱く。
当然、ロヤの異常なまでの王に対する愛に対してである。
「いえ褒美など、私は国の為に戦えただけで光栄なのです」
しかし、その考えに反して、ロヤはなんだか立派な事を言う。
その言葉に、その場にいたエルエ国の重鎮達は素直に感心する。
「総大将が何ももらわないのに、私達が何かもらうわけには行かないね」
ニトは、まともな事を言うロヤに対して不信感を抱きながら、自分の意見を言った。
「そうですね。私達はもう欲しいものは、大抵手に入れてしまいました。戦場さえ頂ければ、それでいいのです」
「うむ、再び戦場を与えてくれた王には感謝している」
オグルブも、ズェガェも、それに続いた。
「そうか。だが、それでは他の者に示しがつかない。相応の金品を、皆の領に送っておこう」
「ありがたき幸せ!」
四人は口を揃えてそう言い、礼をした。
「それでは、皆帰って来たばかりで疲れているだろう。これにて解散とする」
「はっ!」
今度は、その場にいる者全員が頭を下げた。
そして、王の言った通り解散となる。
そんな中で、ニトは曾孫のロヤに話しかける。
「ちょっとロヤや。随分まともな事を言ったね。あたしは心配してたんだよ」
「嫌ですわひいおばあさま。私にだって分別くらいはあります。それに、変な事を言って王様に警戒されてしまっても困りますし。私のお願いを断れないくらい功を建ててから出ないと、ふふっ……」
喋りながら、ロヤのキリッとした表情が崩れていく。
どうにも後半の方が本音らしい。
「はあ、やっぱり心配だよあたしは……それより、あたしは王様と話してくるからね、ロヤは外で待ってな」
「ええ!ひいおばあさまズルいですよ」
「ばばあの特権だよ」
「はぁい」
ロヤは、思ったよりもあっさりと引き下がっていった。
ニトは、それを見届けると、エルエ王の元へと向かう。
「エルエ王様。ちょっと人気のないところで話そうさね」
「わかった。少し出てくるぞ」
ニトの誘いを疑う事なく受け、エルエ王は人払いをして歩き出す。
四傑将の事を、信頼しているからである。




