ミュエネの過去①
ギヨウ達が逃げ延びた先は、ヨライという街であった。
当然と言えば当然だが、そこはシタダイル地方のすぐ近くの街であり、シタダイルから撤退したフェズ国の兵士達が街の外で施しを受けていた。
「じゃあ、俺達は帰るか」
街に着いてすぐに、ギヨウがそう言った。
「え?もう帰るのか?」
ダンレンがそう聞く。
「どうせ何日も馬車に乗るからな。休憩なら馬車ですればいい」
ギヨウはそのつもりだが、それに反論をしたのはダククガである。
「ええ……少しは休ませてくれよ……」
「もう動けねえよ」
文字通り、死ぬ気でエルエ国から逃げたのである。
シンザもダククガも、座り込むどころか寝転がって空を眺めていた。
「いいから立てよ。もう少しの辛抱だ」
ギヨウは二人を無理やり立たせる。
「お前がいなかった生き残れなかったよ」
「ありがとうな!」
「次の戦にも来るんだろ、よろしくな!」
その場を去ろうとしたギヨウへと、生き残った奴等から声がかけられる。
「お、おう」
素直な賞賛をうけて、ギヨウは少し戸惑ってしまった。
「みんな本当に感謝してるんだ。ありがとうな」
ダンレンが前に出て来てそう言ってくる。
「お前達は同じ場所に住んでるのか?どこだ?」
更に、ジェスもそう尋ねて来た。
「ロシスってとこだ」
「ああ、ゼルバ様の……お前もか?」
ジェスは、ミュエネへと視線を移した。
しかし、それにミュエネは少し困ってしまう。
「ああ、そうだ」
とりあえず、勝手にギヨウはそう答えてしまった。
「そうか、またな」
ジェスはそれだけ言うと、疲れでか、下を向いてしまう。
「それじゃあ、またな!」
ギヨウもそう言うと、四人で帰路についたのだった。
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そして、それから何事もなく、ギヨウはやっとロシスへと帰って来たのだ。
ロシスへと着くと、シンザとダククガは一目散に自分の家へと帰って行った。
そのため、ギヨウとミュエネは二人だけとなる。
「これからどうするんだ?やっぱ族長たちの村に戻るのか?」
「いや……」
ミュエネは何かを言おうとしたが、言い淀み、黙ってしまった。
「なんかよくわからないけど、戻らないんだな」
「そうね」
「じゃあ俺の家に来いよ。どうせ報酬もらうまではこの街にいないといけないんだろ」
あっけらかんというギヨウに、ミュエネは驚く。
「あなたね……はぁ、いいわ」
(ただ、なんとなく言っただけでしょうね)
ミュエネには、ギヨウに下心がないのはわかっている。
だから、諦めてギヨウの提案を受け入れることにした。
それから、しばらく歩いてギヨウの家へと着いた。
「信じられないほどボロボロね」
ギヨウの家を見た、ミュエネが発した言葉はそれだった。
「これでも綺麗になったんだけどな。まあ入れよ」
ギヨウに言われるままに、ミュエネは家へと入って行く。
「中は思ったより綺麗ね」
「流石に住んでるからな」
そう言いながらも、ギヨウは少しホッとする。
大事なものはシンザ達の家に預かってもらったものの、戦に行っている長い間家を放置していたので、空き巣が入っていてもおかしくなかったからである。
「もう夕飯の時間だし、何か作るぞ」
そう言って、ギヨウは調理をするために食材を用意しだす。
芋など、日持ちしそうな食材は、シンザ達に教えてもらって少し置きっぱなしにしてあった。
「え、あなたが作るの?」
それに対して、ミュエネは不安そうに聞き返した。
「なんでだよ、一人で暮らしてるんだし、今まで自炊だってしてたさ」
(それに、現代でも案外料理は出来たんだ)
「私がやりましょうか?」
それでも不安そうにしているミュエネに対して、ギヨウは更に言葉を続ける。
「心配しすぎだろ、大丈夫だよ!シルルも俺の作る飯は上手いって言ってたぞ」
それからしばらくして、ギヨウの作った飯が出来上がる。
「え……美味しい……」
食事を、恐る恐る口に運んだミュエネだったが、実際に食べてみると、その意外な美味しさに驚いた。
「だろ?全く人を何だと思ってるんだか……」
ギヨウは不満に思いながらも、上品ながらも、美味しそうに食べるミュエネに気を良くして、自分も食事へとがっついた。
そして、すぐに食べ終わってしまったのだ。
「久しぶりに落ち着いて食べた気分だぜ」
厳密には、戦が終わってここに来るまでの街で、何度か普通に食事を取ったのだが、家に帰って落ち着いてというのは、他の何物にも代えられない安心感があったのだ。
「そうね。でも、これだけ料理が出来るなら、森でも手伝ってくれて良かったじゃない」
逃亡中の食事は、ほぼ全てミュエネが作っていた。
「いや、森のもんの食べ方はわかんねえよ」
しかし、それは実際にミュエネにしかこなせないものだったのである。
「今度教えてあげるわ」
ミュエネは楽しそうにそう言ったのだ。
「はぁ~、なんか飯食ったら眠くなってきちまったな」
ギヨウが、大きくあくびをしながら突然そう言った。
もう夜に近い事、満腹によるもの、家に帰ってこれた安心感から眠くなることは自然な事であった。
「一応聞くけど、布団は二つあるのよね?」
ミュエネが警戒しながら聞く。
「ああ、シルルが使ってた奴があるんだ」
そう言いながら、ギヨウは布団を敷きだした。
「シルル?」
「いただろ?ゼルバのところのさ」
「ああ、そう言えば……」
「ほら、敷けたぞ」
話しているうちに、ギヨウは布団を敷き終わり、自分は先に布団へと入り込んでしまう。
「ありがとう」
ミュエネも礼を言うと、敷かれた布団へと潜り込んだ。




