シタダイル丘の戦い⑲
一方、ギヨウ達は森へと入っていた。
追跡してくる敵は騎馬兵であり、荒野では歩兵は逃げ切れるはずもない。
その際に、ミュエネが森へと逃げるしかないと提案したため、ギヨウ達は森へと入ったのだ。
元々丘にいた味方は騎兵であり、その時に別れる事となったため、ギヨウ達は結局丘へと向かった時と同じ部隊での撤退となっていた。
そんな中で、ギヨウはもちろん、ミュエネにシンザ、ダククガ、それにジェスルリイド、ダンレン、イイルダの全員が生き残ることが出来ていたのは、まさに奇跡と言えるだろう。
「お、おい女。本当にこっちで大丈夫なんだろうな?」
すっかりと百兵隊長の威厳を無くしたジェスが、戦闘を歩いているミュエネへと聞いてくる。
同じ質問がこれで何度目かわからないほどであった。
「大丈夫だから黙ってついて来なさい」
ミュエネはうんざりとしながらも、律儀に答えてやる。
ギヨウはミュエネが森の民だと知っているから、森の中を歩くのはお手の物だとわかっているので不安はないが、他の者は知らないから不安になっても仕方がないと思っているからである。
「な、なあ、もう歩けねえよ。そろそろ休まねえか?」
そう言ったのは、ダククガであった。
しかし、ギヨウですら疲れているのだ、ダククガだけでなく、部隊全員が疲れ、今にも足を止めたがっているのは間違いなかった。
「死にたいなら休んでいいわよ」
しかし、ミュエネは冷たく突き放す。
その言葉に全員は、落胆こそしたが悪態などをつくこともなく、ただ歩くことで答える。
それが事実なのがわかっているからである。
「とはいえ、このままじゃまずいんじゃないか?」
弱音を吐くわけではないが、流石のギヨウもそう言うしかなかった。
「この森を抜ければ、もう追撃は来ないと思うわ」
仕方がなくミュエネは答えた。
その言葉に、全員が縋るように希望を見出す。
「なんでそんな事が言えるんだよ?」
ギヨウにはその理由がわからない。
「それは――」
「防衛戦だからだね」
ミュエネが答えようとしたところに、ジェスが割り込んで来る。
それに、ミュエネは迷惑そうにしながら話しを続けた。
「そうね。ギヨウ。ここがどこだかわかるかしら?」
「どこって森だろ?」
そう答えるギヨウを、ミュエネは呆れたような目で見る。
「そうだけど、ここはまだフェズ国よ。と言っても、これからエルエ国になるのだけど」
「それがどうかしたのか?」
まだ頭の悪いギヨウには、話の内容がピンとこなかった。
「僕達はフェズ国の土地を通って逃げるってことさ。だから相手は追いづらいし、一定の場所までしか追ってこないってわけだよ。深追いして、撤退している兵と別の部隊とぶつかってしまうのは、向こうも困るだろうからね」
やはり、ジェスが割って入って来て得意気に答える。
ジェスは単純に喋りたがりなのだ。
「なるほど」
ギヨウは素直に感心する。
「というわけで、あと少しだから全員死ぬ気で歩くんだよ。帰って報酬を受け取らないと」
先頭を歩いているジェスは、本人は死にそうな顔をしているくせに部隊を鼓舞した。
その甲斐があってか、それから仲間が欠けることなく、ギヨウ達はその数日後に、戦の撤退者が集る街まで辿り着いたのであった。
こうして、シタダイルの戦いは、フェズ国の大敗という形で終わったのである。




