シタダイル丘の戦い⑱
フェズ国が敗走してから少しの時間が経った頃に、エルエ国の本陣へと帰還して来た大男がいた。
武の将オグルブである。
「おじさま、お帰りなさい。きゃっ!」
それを迎えた総大将ロヤは、その姿に驚き、顔を覆った。
オグルブの手に、複数の生首が握られていた――からではなく。
その横の股間が、甲冑越しでもわかるほどに大きく盛り上がっていたからである。
「近づくんじゃあないよロヤ。襲われるよ」
オグルブはそんな事を言うニトや、顔を覆っているロヤを気にせずに、生首をその場に放り投げた。
「とてつもない雑魚だったな。俺が出るまでもなかったわ」
オグルブは不機嫌そうにそう言うと、さっさとその場を去って行ってしまった。
「あっ、おじさま」
勝手に帰ろうとするオグルブを止めようとしたロヤを、ニトが止める。
「いいんだよロヤ。興奮を鎮める為に、女を抱きに行ったのさ。いつもこうさ。話は落ち着いてから聞きな」
「そっか……ところでひいおばあちゃん」
「なんだい?」
「王様のもあんなに大きいのかしら?私困っちゃうわ」
それをきいたニトは、呆れて頭を抱えた。
「はぁ……そんな事あたしは知らんけどねぇ、あの男より大きいものを持ってる男はいないだろうよ」
「え?」
それを聞いたロヤは、驚いた口を手で塞いでいた。
「どうしたんだい?」
そのよくわからない反応を見て、ニトは困惑したが、すぐにその理由に気が付く。
「一応言っておくけどね。見たことあるわけじゃないからね……」
「そうだよね」
安心したように、にこやかにロヤは笑った。
その時、本陣に二人目の将軍が入って来る。
守の将ズェガェである。
「ん?どうかしましたか?」
ズェガェは、本陣に流れる妙な雰囲気を感じ取る。
「いや、なんでもないよ。それよりもあんた、勝手に動きおって」
「ふふっ、良いではありませんか。実際に丘は占領出来てませんでしたし、千兵隊長の首も取ってきましたよ」
ズェガェも、オグルブのようにどうでも良さそうに生首を放り投げる。
「ちゃんとロヤは援軍を送っていたんだよ。それにあんた、敵兵を逃がしただろう?」
「おっと、流石は知の将。なんでもお見通しですね」
ズェガェはおどけたような態度を取るが、悪びれた様子はない。
「私好みの威勢のいい少年がいたので、ついつい逃がしてしまいましたよ」
「これが本気だからあんたはねぇ……あたしの今まで苦労がわかるだろう?ロヤ」
急に話を振られたロヤは、何故だか締まりのない顔をしていた。
「え?そ、そうですね……おじさま、どんな少年だったのですか?」
ニトは再び頭を抱えた。
「ふふっ!随分と屈服させがいのありそうな少年でしたよ!」
「なるほど……」
楽しそうに答えるズェガェと、神妙に頷くロヤ。
そしてニトは、蚊帳の外である。
「是非とも逃げ延びてくれると、私は嬉しいのですがねぇ……」
ズェガェは遠い目で上を見上げる。
上は天幕の天井しかないというのに。
「もう好きにしとくれ……」
ニトは諦めたように、そう呟くしかなかったのだ。




