シタダイル丘の戦い⑭
「動かねえな」
ギヨウは待ちくたびれて呟く。
将軍に激励されてから、かなりの時間が過ぎていた。
しかし、敵は離れた距離で立ち止まり、攻めては来ない。
上がった士気は冷め、動かない敵に、味方は落ち着きだしていた。
「なんでだろうな」
ギヨウの隣にいるシンザが答える。
ギヨウとシンザは前線で大盾を構えていた。
更に、ギヨウとシンザの前には、木で作られた柵もある。
防衛戦とはこういった用意も出来るのだ。
逆に、ミュエネと小柄なダククガは弓を撃つために、後ろで待機していた。
「このまま、一生来なくても構わないんだが」
ギヨウの隣で、同じく大盾を構えたダンレンがそう呟く。
「そうはいかないみたいだな」
しかし、そんなはずはなく、ついにギヨウ達の見ている先で、エルエ国は侵攻を始めたのであった。
「ひ、ひい!ついに来た!」
シンザがビビッて大盾に隠れる。
「ビビるな!相手は歩兵だ!絶対に盾を離すなよ!俺が何とかしてやる」
ギヨウが叫ぶ。
ギヨウの言った通り、迫りくる敵軍は全て歩兵であった。
正直に言えば、ギヨウからすれば、それは助かる。
騎馬兵の突撃では、ギヨウ自身はともかく、シンザ達まで面倒を見いるのは難しかった。
「放てぇ!」
その時、ギヨウ達の後ろから号令がかかり、一斉に矢が放たれた。
それは、丘の上からも放たれており、矢の嵐となって迫りくるエルエ軍へと降り注いだ。
その矢の嵐により、多くのエルエ兵はなすすべもなく絶命する。
しかし、それでも歩兵の突撃は止まることはなかった。
仲間の屍を踏みつぶしながら、ついには敵の歩兵隊はギヨウ達の元へと辿り着き、柵をなぎ倒し、槍や剣など、その手に持った武器を振りかぶり、攻撃を開始した。
「うおおおお!」
その時に合わせて、ギヨウは大盾を振るって、自分の目前へと迫る兵達を逆に吹き飛ばしたのだ。
「な、なんだ、こいつ!」
「盾で人を吹き飛ばしやがった」
ギヨウはそれだけで止まることはなかった。
盾を敵へと投げ捨てると、次から次へと剣で斬り殺しだしたのだ。
そして、十人も斬れば、敵も警戒してギヨウを囲んで様子見をしだす。
そこに矢が撃ち込まれ、更にギヨウ付近のエルエ国の敵兵の被害は広がった。
「はぁ、はぁ……」
(見渡す限り敵か……これが戦場だよな……)
最初の攻撃をしのぎ、余裕が出来たギヨウは辺りを見渡すが、そこから見渡す景色は乱戦である。
ギヨウ一人で斬り返したので、ギヨウの後ろへの被害は少なかったが、既にそこら中に死体は転がり、それは味方のものでもあり敵のものでもあった。
「って、うお!」
ギヨウの元へと矢が飛んできて、ギヨウはそれを器用に躱す。
それは、味方側から飛んできた矢である。
「あぶねえな!」
ギヨウが叫ぶと、それに反応したのは部隊長のジェスであった。
ジェスは何かを叫び返しているようだが、ギヨウには聞こえないかった。
戦場ではそこら中で叫び声や断末魔が上がり、鉄の弾き合う音や、ただ人が動く音で溢れていたからである。
ジェスの方までは敵は迫ってこそいるが、なんとか食い止めているようであった。ミュエネとダククガも後方から弓を撃っているので同じである。
しかし、シンザは敵に襲われていた。
シンザは、ダンレンと共に盾で敵の攻撃をしのぎながら必死に槍で突き返しているが、その攻撃は空を切るばかりであった。
「仕方ないな」
一度は敵陣へと突っ込んだギヨウだったが、味方の元へと戻り、その敵を斬り殺してシンザ達を助ける。
「ギヨウ!ありがとよ」
「もうわけがわからねえな。生き残る事だけ考えろ!」
敵の歩兵の突撃は成功してしまい、戦場は乱戦となっている。
そんな中でギヨウが出来ることは、仲間を守りながら敵を倒していく事だけであった。




