シタダイル丘の戦い⑬
シタダイルに敵が迫ったころ、ゼルバの元へ密偵が帰ってきていた。
「ゼルバ様!今、密偵からの報告が!」
その密偵からの報告を受けたシルルが、慌ててゼルバの元へと転がり込んでくる。
「落ち着きなさいシルル。密偵からの密書にはなんと?」
「は、はい。エルエ国の侵攻は予定よりも早いと。また敵軍の指揮を取る総大将の名前がわかったそうです」
「四傑将の誰かでしょう?私の予想では知の将、ニトだと思うのですが……」
「いえ、ロヤという者だそうです」
それを聞いて、ゼルバは眉間に皺を寄せた。
「私の記憶によれば、そのような名前の将はエルエ王国にはいなかったはずですが……それに、その名前女性ですか?」
ゼルバとて、他国の全ての将軍を把握できているわけではない。
だが、最初の戦と言うのは、言うまでもなく重大な戦である。
その戦に名も知れていない将が出てくるなど、いかにゼルバとて読めはしなかった。
「だと思いますが、密偵も名前以外はわからなかったようです」
「そうですか、それが良い方向に転ぶか、悪い方向に転ぶか……」
どちらにせよ、出陣しない様に王命を受けたゼルバには、ただ待つことしかできない。
(必ず生きて返るのですよギヨウ)
ゼルバは窓の外を眺めて、ギヨウの武運を祈った。
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そして、エルエ王国陣営では、兵を止めた後に簡素な本陣を築いて、そこに戦の重要人物は集まっていた。
その中でも、特別重要な人物は、当然将軍である。
その場に将軍は四人いた。
そのうちの三人は、エルエ王国にとって、更に特別な将軍であった。
武の将オグルブ、守の将ズェガェ、知の将ニトである。
「敵は動かずに迎撃するようですね。私好みではありますがねぇ」
そう言ったのは、守の将ズェガェである。
彼は巨体であり、不敵に笑っていた。
「愚策だね。相手はすぐにでもこちらを攻めるべきだったのさ。あたし達の進軍が早いという事は、あたし達が無理をしているということなんだから、駄目な指揮官だね」
そう言ったのはニトである。
ニトは老婆であった。
四傑将は、古くから戦い続けている将軍である。
歳を取ったものであるのは当たり前の事なのだが、その中でもニトだけは特別年寄りであった。
「それで、いつになったら攻めるのだ?俺の軍はいつでも行けるし、あの程度の手勢、俺の軍だけでも蹴散らしてくれるわ」
武の将オグルブは、ズェガェ以上の巨体である。
その身長は2メートル近くあり、さらに筋骨隆々であった。
「まだ歩兵が到着したばかりです。もう少しだけお待ちください、おじさま」
そう言って制したのは、この場にいる最後の将軍ロヤである。
ロヤは若い女性であった。まだ20歳になったばかりである。
そしてまた、将軍にもなったばかりであった。
彼女が、総大将として異例の抜擢をされたのには理由がある。
「むぅ……そうか」
ロヤにおじさまと呼ばれたオグルブは素直に黙り込んだ。
「ははっ、こいつは面白い!まるで猛獣を手懐ける調教師だ!流石私の曾孫だよ」
そう、ロヤは知の将軍ニトの曾孫であったのだ。
と言っても、もちろん普通はそれだけで将軍になり、総大将を任されることはない。
しかし、エルエ王は柔軟な考えの持ち主であった。
ニトは老婆であり、いつ寿命で死んでもおかしくない状態である。
その際に、四傑将が欠ける。その状態をエルエ王は危惧したのだ。
そのエルエ王の考えにつけこみ、ニトは自分の子の中で一番優秀な人間を薦めたのだ。
「でもねロヤ。あまりこいつと話たら駄目だよ。女と見りゃ誰でも襲い掛かるからね。今でも戦場に女を持ち込んでるんだろう?全く歳を考えろってんだよ」
ニトは楽しそうに話す。曾孫と戦場に出れることが、とても嬉しいのだ。
「確かにそうだが、妾を五人しか連れてきておらんわ」
「十分多いですがね、昔は10人以上連れ込んでいたと考えれば、少しは落ち着いたのでしょうが……」
「戦が終わった後には、女を抱かんと収まりが着かんのだ」
「ほらね、こういうやつだ。絶対に近づいたら駄目だよ、ロヤ」
「そうですね。私の体は王様に捧げる予定なので、傷物にされるのだけは困ります。王様の為にだけ磨き上げて来たこの体、いくらおじさまとはいえ汚されるわけにはいきません」
ロヤが急に饒舌に語りだす。
その様子に、ニトは呆れたような顔をする。
「これさえなければ、いい子なんだけどね」
「ふふっ、いいではありませんか。我々だって変人の集まりですからね」
「そうさね。あんたは男色家だしね。でも、子供くらいは作って欲しかったね」
「ふふふっ、すいませんねぇ……どうしても女性は友人としてしか見れないもので」
四人はまるで戦場とは関係のない話しかしない。
それは、確信をしているからなのだ。
この戦場で、必ず勝つ確信を。
そして、しばらくして戦場は動き出す。
エルエ国が侵攻を始めたからである。




