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シタダイル丘の戦い⑬

 シタダイルに敵が迫ったころ、ゼルバの元へ密偵が帰ってきていた。


「ゼルバ様!今、密偵からの報告が!」


 その密偵からの報告を受けたシルルが、慌ててゼルバの元へと転がり込んでくる。


「落ち着きなさいシルル。密偵からの密書にはなんと?」

「は、はい。エルエ国の侵攻は予定よりも早いと。また敵軍の指揮を取る総大将の名前がわかったそうです」

「四傑将の誰かでしょう?私の予想では知の将、ニトだと思うのですが……」

「いえ、ロヤという者だそうです」


 それを聞いて、ゼルバは眉間に皺を寄せた。


「私の記憶によれば、そのような名前の将はエルエ王国にはいなかったはずですが……それに、その名前女性ですか?」


 ゼルバとて、他国の全ての将軍を把握できているわけではない。

 だが、最初の戦と言うのは、言うまでもなく重大な戦である。

 その戦に名も知れていない将が出てくるなど、いかにゼルバとて読めはしなかった。


「だと思いますが、密偵も名前以外はわからなかったようです」

「そうですか、それが良い方向に転ぶか、悪い方向に転ぶか……」


 どちらにせよ、出陣しない様に王命を受けたゼルバには、ただ待つことしかできない。


(必ず生きて返るのですよギヨウ)


 ゼルバは窓の外を眺めて、ギヨウの武運を祈った。

 


     ♦



 そして、エルエ王国陣営では、兵を止めた後に簡素な本陣を築いて、そこに戦の重要人物は集まっていた。

 その中でも、特別重要な人物は、当然将軍である。

 その場に将軍は四人いた。

 そのうちの三人は、エルエ王国にとって、更に特別な将軍であった。

 武の将オグルブ、守の将ズェガェ、知の将ニトである。

 

「敵は動かずに迎撃するようですね。私好みではありますがねぇ」


 そう言ったのは、守の将ズェガェである。

 彼は巨体であり、不敵に笑っていた。


「愚策だね。相手はすぐにでもこちらを攻めるべきだったのさ。あたし達の進軍が早いという事は、あたし達が無理をしているということなんだから、駄目な指揮官だね」


 そう言ったのはニトである。

 ニトは老婆であった。

 四傑将は、古くから戦い続けている将軍である。

 歳を取ったものであるのは当たり前の事なのだが、その中でもニトだけは特別年寄りであった。


「それで、いつになったら攻めるのだ?俺の軍はいつでも行けるし、あの程度の手勢、俺の軍だけでも蹴散らしてくれるわ」


 武の将オグルブは、ズェガェ以上の巨体である。

 その身長は2メートル近くあり、さらに筋骨隆々であった。


「まだ歩兵が到着したばかりです。もう少しだけお待ちください、おじさま」


 そう言って制したのは、この場にいる最後の将軍ロヤである。

 ロヤは若い女性であった。まだ20歳になったばかりである。

 そしてまた、将軍にもなったばかりであった。

 彼女が、総大将として異例の抜擢をされたのには理由がある。

 

「むぅ……そうか」


 ロヤにおじさまと呼ばれたオグルブは素直に黙り込んだ。


「ははっ、こいつは面白い!まるで猛獣を手懐ける調教師だ!流石私の曾孫だよ」


 そう、ロヤは知の将軍ニトの曾孫であったのだ。

 と言っても、もちろん普通はそれだけで将軍になり、総大将を任されることはない。

 しかし、エルエ王は柔軟な考えの持ち主であった。

 ニトは老婆であり、いつ寿命で死んでもおかしくない状態である。

 その際に、四傑将が欠ける。その状態をエルエ王は危惧したのだ。

 そのエルエ王の考えにつけこみ、ニトは自分の子の中で一番優秀な人間を薦めたのだ。

 

「でもねロヤ。あまりこいつと話たら駄目だよ。女と見りゃ誰でも襲い掛かるからね。今でも戦場に女を持ち込んでるんだろう?全く歳を考えろってんだよ」


 ニトは楽しそうに話す。曾孫と戦場に出れることが、とても嬉しいのだ。


「確かにそうだが、妾を五人しか連れてきておらんわ」

「十分多いですがね、昔は10人以上連れ込んでいたと考えれば、少しは落ち着いたのでしょうが……」

「戦が終わった後には、女を抱かんと収まりが着かんのだ」

「ほらね、こういうやつだ。絶対に近づいたら駄目だよ、ロヤ」

「そうですね。私の体は王様に捧げる予定なので、傷物にされるのだけは困ります。王様の為にだけ磨き上げて来たこの体、いくらおじさまとはいえ汚されるわけにはいきません」


 ロヤが急に饒舌に語りだす。

 その様子に、ニトは呆れたような顔をする。


「これさえなければ、いい子なんだけどね」

「ふふっ、いいではありませんか。我々だって変人の集まりですからね」

「そうさね。あんたは男色家だしね。でも、子供くらいは作って欲しかったね」

「ふふふっ、すいませんねぇ……どうしても女性は友人としてしか見れないもので」


 四人はまるで戦場とは関係のない話しかしない。

 それは、確信をしているからなのだ。

 この戦場で、必ず勝つ確信を。


 そして、しばらくして戦場は動き出す。

 エルエ国が侵攻を始めたからである。

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