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シタダイル丘の戦い⑪

 夕飯の時間も終わり、夜となる。

 結局ギヨウ達の入った百兵隊には、100人どころか、まだ50人程しか集まっていなかった。

 更に、最後の部隊であるため、やはり訳ありのような顔をした者ばかりが集まっていた。


(まあ、天幕を広く使えていいけどな)


 ギヨウはそんな事を考える。

 もう夜であり、四人は固まって横になって眠ろうとしていた。


「ギヨウ、お腹を触らないようにね」


 ギヨウの前で、背中を向けて横になっているミュエネがそんな事を注意してくる。

 隙間風が、と言っていたミュエネだったが、ミュエネが先頭でその後ろにギヨウ、ダククガ、シンザの順番で並んで眠ろうとしていた。


「ギヨウお前……」

「触ったのか?」


 ギヨウの後ろから、疑う声が聞こえて来る。


「いや……」


 否定しようとしたギヨウだったが、同じ馬に乗った時に触ったは触ったので、故意ではないとはいえ否定しづらかった。


「おい!触ったんだな!」

「うるせぇぞ!」


 興奮するダククガの大きくなった声に、どこからか声が上がる。


「す、すいません……」


 ダククガはビビッて小声で謝るしかなかった。


「別に触ったりしないから、もう寝ろよ。明日は訓練だろ」


 ギヨウの言葉に、ミュエネは笑いだけで返した。

 そもそも、本当に信頼していないのなら、後ろで寝ることも許さないはずである。

 ただ、ギヨウをからかっただけなのだ。

 


     ♦



 更に夜は更け、全員が寝静まったころにギヨウは目を覚ました。

 目を覚ましたことに理由はある。

 気配を感じたからだ。

 

 ギヨウが横になったまま耳を澄ますと、複数の小さな声が聞こえて来る。


「お、おい。本当にここなんだろうな?」

「ちゃんと確認したさ」

「俺、あの、でけーおっぱいをどうにか出来ると思うと、もう我慢できねーよ!」

「静かにしろ……」


 そんな声が聞こえて来る。


(明らかにそういう話だな……)


 ギヨウは呆れながら立ち上がると、天幕から外へと出て行く。


 それを、実のところ起きていたミュエネは見ていた。

 ミュエネも、一人旅で自分を守るために常に気を張っているのだ。


「うお!なんだお前は!」

「うわあ!」

「いてぇ!」


 天幕の中で、ミュエネは横になったまま、そんなやり取りと、争う音を聞いていた。

 そして、少しするとギヨウが戻って来る。

 ミュエネは、再び眠った振りをした。


「なんだ、起きてたのか」


 それをギヨウは、あっさりと見破った。


「よく気が付いたわね」


 特に隠す理由もなく、ミュエネはあっさりと白状する。


「寝てるときは、でかいいびきをかいてたからな」

「そんなはずはないでしょ」


 ミュエネは即答する。焦っているわけではないが、少し声は大きかった。


「冗談だよ」


 ギヨウの仕返しである。


「一応礼は言っておくわ。ありがとう。でも、お腹は触らせないからね」


 一言余計である。


「別に腹を触るのが好きってわけじゃないからな」


 ギヨウは否定しておく。


「別の所はもっと駄目だからね」

「俺を何だと思ってるんだ」

「男はどれだけ澄ましていても狼だって、ばあやが言ってたのよ」

「まあ、それくらい警戒してた方がいいかもな」


 別にギヨウ自身がそうではないが、それくらい警戒心を持つのは大事なのだとはギヨウだって思う。


「ほら、やっぱりそうじゃない」


 だが、まるでギヨウもそうだと取られてしまったが、終わりが見えないのでギヨウはそれ以上突っ込むのはやめた。


「まあ、今日くらいは気を張らなくていいんじゃないか?俺以外にもこいつらだっているしよ」


 ギヨウはシンザとダククガを指さす。

 と言っても、今起きてこなかったのだから、この二人は頼りには出来ないのだが。


「そうね」


 それがわかっていながら、そう答えたミュエネの顔は優しげだった。


「じゃあ寝るぞ。おやすみ」

「ええ、おやすみ」


 その夜、ミュエネは久しぶりに里にいた頃のように、深い眠りについたのだった。

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