シタダイル丘の戦い⑪
夕飯の時間も終わり、夜となる。
結局ギヨウ達の入った百兵隊には、100人どころか、まだ50人程しか集まっていなかった。
更に、最後の部隊であるため、やはり訳ありのような顔をした者ばかりが集まっていた。
(まあ、天幕を広く使えていいけどな)
ギヨウはそんな事を考える。
もう夜であり、四人は固まって横になって眠ろうとしていた。
「ギヨウ、お腹を触らないようにね」
ギヨウの前で、背中を向けて横になっているミュエネがそんな事を注意してくる。
隙間風が、と言っていたミュエネだったが、ミュエネが先頭でその後ろにギヨウ、ダククガ、シンザの順番で並んで眠ろうとしていた。
「ギヨウお前……」
「触ったのか?」
ギヨウの後ろから、疑う声が聞こえて来る。
「いや……」
否定しようとしたギヨウだったが、同じ馬に乗った時に触ったは触ったので、故意ではないとはいえ否定しづらかった。
「おい!触ったんだな!」
「うるせぇぞ!」
興奮するダククガの大きくなった声に、どこからか声が上がる。
「す、すいません……」
ダククガはビビッて小声で謝るしかなかった。
「別に触ったりしないから、もう寝ろよ。明日は訓練だろ」
ギヨウの言葉に、ミュエネは笑いだけで返した。
そもそも、本当に信頼していないのなら、後ろで寝ることも許さないはずである。
ただ、ギヨウをからかっただけなのだ。
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更に夜は更け、全員が寝静まったころにギヨウは目を覚ました。
目を覚ましたことに理由はある。
気配を感じたからだ。
ギヨウが横になったまま耳を澄ますと、複数の小さな声が聞こえて来る。
「お、おい。本当にここなんだろうな?」
「ちゃんと確認したさ」
「俺、あの、でけーおっぱいをどうにか出来ると思うと、もう我慢できねーよ!」
「静かにしろ……」
そんな声が聞こえて来る。
(明らかにそういう話だな……)
ギヨウは呆れながら立ち上がると、天幕から外へと出て行く。
それを、実のところ起きていたミュエネは見ていた。
ミュエネも、一人旅で自分を守るために常に気を張っているのだ。
「うお!なんだお前は!」
「うわあ!」
「いてぇ!」
天幕の中で、ミュエネは横になったまま、そんなやり取りと、争う音を聞いていた。
そして、少しするとギヨウが戻って来る。
ミュエネは、再び眠った振りをした。
「なんだ、起きてたのか」
それをギヨウは、あっさりと見破った。
「よく気が付いたわね」
特に隠す理由もなく、ミュエネはあっさりと白状する。
「寝てるときは、でかいいびきをかいてたからな」
「そんなはずはないでしょ」
ミュエネは即答する。焦っているわけではないが、少し声は大きかった。
「冗談だよ」
ギヨウの仕返しである。
「一応礼は言っておくわ。ありがとう。でも、お腹は触らせないからね」
一言余計である。
「別に腹を触るのが好きってわけじゃないからな」
ギヨウは否定しておく。
「別の所はもっと駄目だからね」
「俺を何だと思ってるんだ」
「男はどれだけ澄ましていても狼だって、ばあやが言ってたのよ」
「まあ、それくらい警戒してた方がいいかもな」
別にギヨウ自身がそうではないが、それくらい警戒心を持つのは大事なのだとはギヨウだって思う。
「ほら、やっぱりそうじゃない」
だが、まるでギヨウもそうだと取られてしまったが、終わりが見えないのでギヨウはそれ以上突っ込むのはやめた。
「まあ、今日くらいは気を張らなくていいんじゃないか?俺以外にもこいつらだっているしよ」
ギヨウはシンザとダククガを指さす。
と言っても、今起きてこなかったのだから、この二人は頼りには出来ないのだが。
「そうね」
それがわかっていながら、そう答えたミュエネの顔は優しげだった。
「じゃあ寝るぞ。おやすみ」
「ええ、おやすみ」
その夜、ミュエネは久しぶりに里にいた頃のように、深い眠りについたのだった。




