シタダイル丘の戦い⑨
「え?もう部隊が一つしか残っていない?」
四人は、百兵隊に加わるために人気の多い場所へと戻ったのだが、その辺を歩いていた正規の兵へと聞くと、そう言われてしまった。
「当たり前だ。もう徴兵を始めてから何日経ったと思ってるんだ。これから来る奴は少ないから、とりあえず残りの奴等はその部隊に入れる事になったんだ。人数が多すぎたらその時考えるとさ」
あれだけの人数が並んでいたというのに、それでも終わり際だったという事にギヨウ達は驚いた。
どちらにしろ、ギヨウ達の住む街からは遠い場所なのだから、終わり際になってしまい、余った部隊に入れられてしまうのも仕方がない事であった。
「案内してやる。着いて来い」
ギヨウ達は、案内されるがままに兵へとついて行くと、余りものという通り、一番端の天幕まで案内された。
「ここだ」
ついでに天幕も他の所よりもボロいようである。
それに、百兵隊という事は百人入る天幕のはずだが、他の所よりも小さい天幕であり、とても百人も入るようには思えない。
ギヨウとミュエネはそれを気にしないが、シンザとダククガは露骨に戸惑っていた。
「ありがとうございます」
それでも、シンザは感謝の言葉を伝える。
「中に百兵隊長がいるから、挨拶するんだぞ」
案内してくれた兵は、そう言うと去っていった。
「とりあえず入るか」
ギヨウはあっさりとそう言って、閉ざされた入り口から天幕へと入ろうとする。
「お、おい!」
「ちょっと待ってくれよ」
それを兄弟が止める。
「なんだよ?」
「いや、ちょっと心の準備が……」
「入るわよ」
そんなやり取りをする三人を放っておいて、ミュエネはさっさと中へと入ってしまう。
「俺も入るわ」
ギヨウも一緒になって中に入っていく。
その様子を見て、急いで兄弟も後ろから続くのだった。
天幕の中は、端的に言えば広かった。
物理的に広いわけではない。人が少ないから広いのだ。
つまるところ、百人入る予定の天幕の中には、ギヨウ達が入った時には十人程の人間しかいなかった。
(余った奴はここに入るって言ってたからな……これから集まって来るって事だな)
それにしたって、ここまで少ないのはギヨウ達にとっても予想外である。
「ん?入隊希望者か?」
その少ない人数の中でも一際異彩を放つ格好をしている者が、ギヨウ達へと話しかけて来た。
そいつは、とても派手な赤い色の鎧を着ているのである。
それに、偉そうな態度からギヨウ達が見ても、すぐにこの派手な奴が百兵隊長なのだと分かった。
「そうなんです」
「百兵隊長様でしょうか?」
後ろから入って来たくせに、シンザとダククガはギヨウ達を押しのけて前へと出てこびへつらう。
ただ、もちろんその行為は、ギヨウ達が揉め事を起こさないための行為であった。
「そうだ。ん~女か?僕は女でも特別扱いはしないからな。覚悟しとけよ」
(僕って……大丈夫かよこいつ……)
誰でもいいと言ったギヨウだが、せめて武人ぽい人間が隊長であってほしかったと今更ながら思った。
この百兵隊長は、言うなれば金持ちのボンボンのようである。
「私も特別扱いなどされたくはないわ。でも変な気を起こしたら斬り落とすから」
また斬り落とすである。何をとは言わないが、斬り落としたことがありそうだとギヨウは思った。
「失礼な女だ。僕は女には困っていないんだ」
隊長は怒っているという感じではないが、揉め事が起きそうな空気を感じて、シンザは必死になって割って入った。
「私はシンザです。こちらは弟のダククガ。それにギヨウとミュエネです。失礼ですが、隊長殿のお名前は?」
「シフトフ・シタダイル・ジェスルリイドだ」
(この世界の住人の名前は長いよな……)
覚えようのないほど長い名前に、ギヨウは溜め息をつく。
しかし、名前にシタダイルが入っている事から、隊長はシタダイルの人間という事はわかる。
「ジェス隊長と呼んでいいぞ」
ジェスは、ふんぞり返りながらわざわざ追加で言ってくる。
それは、ギヨウからすればありがたいことであった。
「ああ、よろしく。ジェス隊長」
ギヨウは、気さくにジェスへと手を差し出す。
「僕と握手できるなんて、お前は幸せ者だな」
ジェスはそう言うと、その手を取って普通に握手をした。
(案外良い奴かもしれないんだが……)
握手をしていて、ギヨウは不安になる。
何故なら腕が細いからである。もっと言うなら全体的にヒョロヒョロである。
こういったところもボンボンぽさに拍車をかけているのだろう。
少なくとも、戦う人間には、やはり見えなかった。
「それでジェス隊長。我々四人はあなたの部隊に入るのですが、何をすれば良いのでしょうか?」
シンザが畏まって横から尋ねる。
「今日は遅いから何もないよ。好きな所で待って、夜になったら寝るといい。明日から訓練に参加するように言われたんだ」
「はい!わかりました。ありがとうございます!」
「それじゃあね」
そう言って、ジェスは奥へと戻っていった。
天幕の中で、ジェスの戻る先のみが仕切られているようである。
しかし、それでも天幕の大きさから考えるに、隊長にもあまり広い場所を与えられているわけではなさそうである。
「どこに陣取る?」
ギヨウが聞くが、どこでも変わらない。天幕の中には何もないのだ。そもそも即席の天幕であり、下は草の生えた地面である。ただ、いくつか棒を建てて布を張っただけのものである。
そして、まだ兵が十人も集まっていないその中で、場所は選びたい放題であった。
「じゃあ……この辺でいいかしら?」
ミュエネが勝手に歩いて行って、人がまだいない適当な場所を陣取る。
「端じゃなくていいのか?」
そこは、中途半端な場所であった。端でもなければ、中央の方でもない。
ギヨウはミュエネを端にして、自分がその隣に眠るつもりだった。
「こんな薄い布じゃあってもなくても変わらないわ。むしろ端だと隙間風が寒いくらいよ」
かなりに理にかなった理由である。
「なるほど」
「ギヨウとは違うな」
それに兄弟も感心する。
「っておい、お前らな……」
そんなやり取りをするギヨウ達の元へ、声がかけられた。
「なあ、お前ら、ちょっといいか?」




