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シタダイル丘の戦い⑧

 他の兵達から少し離れた場所に来ると、ギヨウはすぐにミュエネへと問いかける。


「色々言いたいことはあるんだけどよ。まず、なんで馬がいるんだ?」

「なんでって……私の馬だけど……あなたも乗ったでしょう?」


(いや、見分けつかねーよ)


 そんなこと言われても、ギヨウには馬の見分けなどつかなかった。


「いや、お前な……馬なんかで乗り込んだらやっかまれるぞ?知らないのか?」


 ギヨウも最初は自分の馬に乗って来ようとしていたのだが、そんなことは棚に上げて言う。


「そうなの?じゃあ……」


 ミュエネはあっさりと馬の繋ぎを解くと、馬の尻を叩く。そうすると、馬はどこかへと走って行ってしまった。


「お、おい!いいのか?」


 それにギヨウは驚いてしまう。


「あの子はあなたよりも賢いから、森に戻るだけよ」

「ならいいけどよ……って流石に言いすぎだ!」

「ふふっ」


 ずっと険しい顔だったミュエネだが、楽しそうに上品に笑った。


(やっぱちょっと変だよな)


 イメージとしてだが、ギヨウの中では森の民は女であっても、族長のように豪快に笑っていたと思う。少なくとも、こんなに上品に笑っている女は宴の時には見かけなかったはずである。


「それに、なんで一人でここに来たんだ?」

「それは……戦争に参加するため以外にあると思う?」


 それはそうなんだが、ギヨウが聞いているのは戦争に参加しに来た理由である。

 だが、それがわかっていながらミュエネははぐらかしているのだ。


「いや、やっぱりいいや」


 隠しているのであれば無理に聞き出すことはない。ギヨウはそう考え直した。


「さっきの奴等は?」

「俺達の隊に入らないかって聞いてきたのよ。目を見ればわかるけど、どう考えても下種な事を考えていたけどね。大方、寝込みを襲うつもりだったのでしょう」


 そう言う事があるのがわかっているのなら、やはり一人で戦場に来るなと言いたいところだが、ギヨウはやはり黙っていた。人それぞれ事情があるのはわかるからだ。

 その沈黙をどう受け止めたのか、ミュエネは言葉を続けた。


「ああ、大丈夫。寝込みを襲われても逆に斬り落としてやるわ」


(何をだよ……)


 それは、怖くて聞けなかった。

 


     ♦



「ああ、いたいた。なんか揉めてこっちに来たのは見えたんだけどさ。見つかんなくて困ったよ」


 しばらく二人が話して待っていると、シンザとダククガがやって来る。


「ああ、紹介するよ。こいつはミュエネ。ええと――」

「森の民よ。あなたたちが外の国と呼んでいる場所のね」


 ギヨウはどう説明しようか迷ったのだが、ミュエネはあっさりと言ってしまう。


「え……」

「あ、ああ。そうか。俺はシンザ、こっちは弟のダククガだ」


 ダククガは子供らしく反応してしまったが、シンザは少し戸惑いこそしたがしっかりと返す。


「よろしく」


 そんな様子に気にもせず、ミュエネは手を差し出すと、シンザはその手を取り、入れ替わりにダククガも気まずそうに握手をした。


「それで、これからどうするんだ?」


 そう言ったのはギヨウである。


「そう言うと思って、ある程度話は聞いてきたんだ」

「まずは、百兵隊に入るんだってよ」


 二人が口々に話す。


「百兵隊って?」

「名前の通り、百人で構成された部隊だよ」

「戦争中は、この百人が一蓮托生ってわけさ」


(多いと言えば多いけど、全体の人数で考えたらそれくらいで、まとめるのがいいのか?)


 そして、その百兵隊にミュエネは誘われていたというわけである。


「ただ、さっき少し見て来たんだが、皆固まっちまっててな」

「俺達はここに来るまで時間がかかったから、残った部隊に入るしかなさそうだぜ」


 ギヨウ達の住む街から、このシタダイルまでは遠かった。そのため、時間がかかってしまったのだ。


「俺はどこでもいいけどな」

「私もどこでもいいわ」


 ギヨウとミュエネは同じ事を言う。

 それに対して、シンザとダククガはため息をついた。


「苦労するなこれは」

「まさかの……」


 似た者同士なのか、と言おうとして口を噤む。

 見た目からしてガサツなギヨウと、見た目は麗しく優しそうなミュエネなのだが、変な所で気が合うのだった。


「まあ、とりあえず見に行こう」

「どの部隊に入るかはそれからでいいだろ」


 シンザとダククガは、指を差して二人を誘導する。


「ああ」

「行きましょうか」


 厳密には、ミュエネはギヨウについて行くとは言ってはいない。

 だけど、それはミュエネは嫌ではなかったのだから、何か言ったりはしなかった。

 自然な流れで四人で部隊へと入る。

 それで良いと思ったのだ。

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