シタダイル丘の戦い⑦
ギヨウ達がシタダイルの街へと着くと、その外で再び参戦の確認を取るために並ばされていた。
「しかし、凄い人だな」
何故、外に集められているかと言われれば、理由は単純である。街の中に入り切れないほどの従軍希望者が、フェズ国各地から集まってきているからである。
「おい、列から外れるなよ。並び直しとか嫌だからな」
ギヨウのすぐそばにはシンザとダククガの兄弟も当然おり、一緒に列へと並んでいた。
現地での確認のし直しは、街から多く申請させないためと、登録した後に逃亡することを防ぐために行われている。
列は、地方ごとに分けられているが、それでも人は多く。長い時間を待たされてしまっていた。
「ああ、どいつもこいつもならず者みたいな顔してるからな、難癖付けられたらたまらねえ」
ギヨウがそう言うと、周りの人間がギヨウ達の方をギロリと睨む。
「お、おい!やめろよ。すいません!すいません!」
シンザは急いで周囲へと頭を下げる。
そのシンザの様子を見てか、ギヨウ達を睨んだ者達は鼻で笑うと、再び列の前の方を向いた。
その時だった。
「おい!貴様!帳簿に名前がないぞ!どこから来たのだ!?」
ギヨウ達の並ぶ列の前の方で大きな声があがったのは。
「なんだ?なんだ?」
周囲がざわめき、ギヨウも釣られて列から顔を出して前を見る。
「あ!」
そして驚いたような声を出すと、ギヨウは列を抜けて前へと走っていった。
「お、おい!ギヨウ!」
シンザ達は止めようとしたが、列を抜ける気は起きず、ギヨウが走っていくのを見送る事しかできない。
「おい!」
そしてギヨウは、揉め事が起きている先頭に着くと、後ろからその揉め事が起きている人物の肩を掴んだ。
「誰?」
「俺だよ!待てって!」
その人物は、振り向きざまに剣を抜こうとしたが、それをギヨウは手首を逃げってやんわりと止める。
「あなた……ギヨウ……だったかしら?」
その人物は、かつてギヨウが森の民と共に戦った時に、一緒に馬に乗ったミュエネという少女であった。
「ああ、久しぶりだな」
実のところ、それほど久しぶりではない。数か月ぶりといったところだろうか。
「ええ、久しぶり」
急にほんわかとした空気になるが、目の前の帳簿を開いている兵が二人に対して怒鳴りつけてくる。
「おい!お前の知り合いか?」
「あ、ああ。どうしたんだ?」
「この女、帳簿に名前もないのに参戦させろと言ってくるんだ。そもそも若い女の参戦自体あまりいないし、薦められた者でもないというのに――」
「あなた――」
何か言い出しそうなミュエネを止めて、ギヨウは無理矢理割って入る。
「お、おう。それは悪かったな。俺の知り合いなんだ。俺、ギヨウって名前で登録されてるだろ?」
兵は、訝しげな顔をしながら聞き返す。
「何、ギヨウだ?」
「えっと……ドヴィ・ロシス・ギヨウだ」
それは、シンザ達の名である。
受取人をドヴィにした関係で、面倒を避ける為に名前もドヴィで登録した。
「……ああ、あるな」
「それで、こいつも俺達と一緒に参戦したって事にしてくれねえかな?」
「なんでそんな――」
当然断ろうとした兵だが、その時、列の方から多くの抗議が上がった。
「おい!なんでもいいから早くしてくれよ!」
「戦力が増えるんならいいだろ!」
「それに女だしな。ヒヒヒ」
「ああ、随分良い体してやがる。ヒヒッ」
その抗議を聞いて、兵は諦めたように言う。
「ちっ!わかった。名前は?」
「ミュエネよ」
「ドヴィ・ロシス・ミュエネで登録しておく……早く行け!問題は起こすなよ!」
「俺の分の確認もしてくれたか?」
ギヨウは図々しくも念を押しておく。並び直しをする気がないからである。
「ギヨウだな?この際だ、やっておいてやる」
「話がわかる兵隊さんで助かったよ。ありがとよ」
そう言って、ギヨウとミュエネはその場を離れていった。
「助かったわ。ありがとう」
少し歩いた後に、ミュエネは素直に感謝の言葉を言った。
「ああ、ちょっと待っててくれ」
ギヨウはミュエネにそう言って、すぐ近くのシンザ達の元へと走っていく。
「悪い。終わったら合流しようぜ」
シンザ達はそう言われたが、そんなことはどうでもよかった。
「お前!シルルさんもいるのに、あんな美人とどこで知り合ったんだよ!」
「知り合いはいないって言ってたじゃないかよ!」
兄弟は、二人で口々にギヨウを攻め立てる。
「シルル?あいつが関係あるか?知り合いは本当に少ないんだよ。あとは族長くらいだぞ」
「族長?」
「まあ、とりあえず適当な所で待ってるからよ」
「あ、ああ」
あまり待たせるわけには行かないので、ギヨウはさっさと話を切り上げてミュエネの元へと戻ろうとする。
そのためにミュエネの方を見ると、男達が数人、ミュエネに熱心に話しかけているようだった。
そのミュエネの顔は、あまり芳しいようには見えず、明らかに迷惑をしているのは見て取れた。
だから、ギヨウは男達とミュエネに割って入る。
「どうかしたか?」
「ああ、ちょうどいい所に来たわ。私はこの男と行くので、失礼」
「え?お、おい……」
戸惑う男達を置いて、ミュエネはギヨウの手を取ってどんどんと歩いて行く。
そして、人気の少ない場所まで時間をかけて歩いて行った。
そこには、馬も繋いであった。




