シタダイル丘の戦い⑥
ギヨウの関係のない所で軍議は終わり、それから一週間ほどが経つと、ギヨウの住む街ロシスに徴兵のお触れが出る。
街中に看板や張り紙が出され、それは当然ギヨウの目にも止まった。
「ギヨウはどうするんだ?」
そして、ギヨウの家にシンザとダククガの兄弟がその話をしにきていた。
「どうするって、兵役の事か?そりゃあ行くさ」
今のギヨウにとって一番大事な事なのだから。
「じゅあ一緒だな」
しかし、それを聞いてギヨウは焦る。
「まさか、お前らも行く気か?」
「もちろん!俺達だっていつまでも農民でいたくないんだ!」
意気揚々と言うのは弟の方のダククガだ。
(死体見て腰抜かしてたくせに……)
威勢の良さとは反して、戦えるとは思えない。
「やめといたほうがいいんじゃないか?」
だからギヨウは止める。
「うちだって家計が楽じゃないからな。親父達に楽させてやりたいんだよ」
「でもよ……」
負け戦に行くことはない、と言いかけて、ギヨウは止める。
(まだ始まってもない戦に、そんなことを言ったら駄目か……)
ゼルバに止められたわけではないが、流石のギヨウにもそれくらいはわかった。
「なんだよ?」
シンザが不思議そうな顔で、ギヨウを見る。
「本気で行く気かよ?戦争だぞ?」
「俺達だって話し合って決めたんだ。それに国を守るために戦うんだから悪い事じゃないだろ?」
そうまで言われてしまっては、ギヨウにも言う事はなかった。
「わかった。じゃあ一緒に行くか」
ならば、せめて帰ってこれるよう、ギヨウが見ているしかないと考えた。
「おう!ってどこ行くのかわかってるのか?」
「どこって?シタダイルってとこだろ?」
ギヨウには、そこがどこかはわからないが、兵が集まる先なら簡単にたどり着けると考えていた。
「いや、まずは村長のとこだよ」
「俺達がいないと駄目だなあ、ギヨウは」
ギヨウが世話をしてやるつもりが、逆に世話になってしまう。
「なんで村長所に行くんだ?」
「兵役の登録だよ。登録しないと褒章はもらえないぞ」
ギヨウからすれば、褒章が目的と言うわけでもないが、生活の為に金が必要なのはわかるし、もらえるものはもらっておくに越したことはない。
「わかったよ。じゃあすぐに行こうぜ」
♦
「ドヴィの息子二人とギヨウだな。わかった」
兵役への登録はあっさりと受理された。
この国の人間ではないギヨウは、何か言われるかとも思ったが、ギヨウがゼルバのお墨付きがある人間だというのはこの街では有名らしい。
「して、受取人は?」
「親父で」
「なんだそれ?」
しかし、すぐに躓いてしまう。
「金を受け取る人間じゃよ。戦が終わった後に金が住む街の村長に払われる。それを分配するんじゃ」
「金だけもらって逃げ出す奴が出ない様にそうなってるんだ。それに死んでも支払われるようにな……」
「へぇ~、つっても知り合いなんていないしな。ゼルバかシルルでいいか?」
「なっ!領主様を受取人になどできるわけがないだろ!」
適当に決めたことだが、ギヨウは怒られてしまう。
「そう言われてもな……じゃあ俺もドヴィの親父でいいよ。世話になってるしな」
「軽いな、お前。死んだらお前の墓を作るのに金を使ってやるよ」
「死なねーよ」
それに、墓ならシルルが作ると言っていたし、ギヨウの墓が二個建ってしまうことになる。
「では、そう言う事でいいか?」
「ああ、頼む」
「生きて返るのだぞ」
最後にそう言った村長の顔は悲しそうだった。
善人なのだろう。
もちろんギヨウは死ぬつもりはないし、二人だって帰らすつもりである。
最初は、ゼルバの言う通りに自分だけが帰ればいいと思っていたギヨウだが、早々と重い荷物を背負ってしまったものである。
♦
家へと戻ると、すぐにギヨウは馬に乗る。
そんなギヨウに、シンザが話しかけて来る。
「どこに行くんだ?」
「え?決まってるだろ。今度こそシタダイルに行くんだよ。お前らも早くしろよ」
それを聞いて、ダククガは呆れたように言った。
「自分の馬で行く気かよ?そんなことしたらやっかまれるぞ」
「え?じゃあどうやって行くんだよ」
「兵役用の馬車が出てるから無料で乗れるぞ、準備だってしたいから明日にしようぜ」
「仕方ないな」
そして、翌日になると、三人は馬車に乗り込み、シタダイルへと向かったのであった。




