シタダイル丘の戦い④
ギヨウが帰った数日後、ゼルバは準備をすると王都キエラへと向かった。
当然、軍議へと参加するためである。
ゼルバはキエラの城へと入り、どんどん中へと進んでいく。
そして、王の間の扉を開けると、当然のように中へと入った。
王の間には、すでに数多くの人間が集まっており、その視線がゼルバの元へと集まる。その多くの視線は、ゼルバを疎ましく思うものである。
ここ、キエラにいる多くの政務官は、愚王に相応しい人間ばかりだからである。
まともな政務官は、良くて投獄、悪くて殺害されてしまった。
残った政務官からすれば、まともな将軍であるゼルバは、ただ邪魔なだけの存在である。
ただ、ゼルバと同じように、自領をまともに運営している城主や、前大戦を生き残った将軍などは、当然ゼルバの事は良く思っており、一目を置いていた。
しかし、そう言った者の多くは、愚王を嫌い、今ここにすら来ていない者も多かった。
「おお!ゼルバ殿!久しぶりですな!」
そんな中で、一人の高貴そうな服を着た男がゼルバへと笑顔で話しかけてくる。
「これはビルガン殿ではありませんか。なんでも王へ軍議の許可を頂いたそうで、ありがとうございます」
ビルガンは、ゼルバと話す顔こそ笑顔ではあるが、腹の中ではゼルバを邪魔だと思っている将軍の一人である。
「国の一大事ですからな。当然のことをしたまでです」
この言葉には、嘘偽りはない。
ビルガンとて、国が亡びるのは困るのだ。
「でしたら、私に指揮を任せていただければ、エルエ国など簡単に追い返してみせますぞ」
ゼルバとて、ビルガンが笑顔だからと言って、自分の味方だとは思っていない。
敵意を剥き出しにされた事こそないが、自分を嫌う人間の一人だという事は重々理解していた
「それは王が決めることですから私にはわかりかねますなあ」
ビルガンはとぼけて見せる。
実際には、ビルガンがゼルバを押せば、ゼルバが指揮を取る可能性はある。しかし、そんなことをして、ゼルバに功を上げさせることを、ビルガンは許す気はなかった。
「王はいつ頃おいでになられるのでしょうか?」
「先程、使いの者を出したので、直に来られるでしょう」
その言葉が合図になったわけではないが、奥の扉が開き、フェズ王が姿を現した。
しかし、その光景は異様であった。
裸の女がフェズ王へと群がり、その巨体を持ち上げているのだ。
女達は、その重さに顔をゆがめながらも、フェズ王をゆっくりと玉座へと運んでいくのだ。
そして、ゆっくりと、フェズ王は玉座へと座らされる。
女達は、それで終わりではなく、当然フェズ王へと身を寄せるのだ。
その光景は、異様ではあったが、ここ王の間に置いては、普通の光景なのである。
だから、誰もそれに対して口を出したりはしない。
「フェズ王様、よくぞおいでになられました」
ビルガンがそう言って頭を下げると、その場にいる全員が同じように深々と頭を下げた。
当然、ゼルバもその例に漏れない。
フェズ王の振るまいを、ゼルバは是としないが、それでも仕方がない事はあるのだ。
「頭をあげていいぞ」
フェズ王がそう言うと、全員が頭を上げる。
「それでは、軍議を始めさせていただきます」
ビルガンが王の方を向いたまま、話を始める。
王は、軍議には興味なさそうに、裸の女達を弄っていた。
「メオ国は、エルエ国により落ちました」
家臣一同がざわめく。
「は、早いぞ……」
「だが、まだメナ国が……」
「我々より先にア国の可能性だってあるだろう……」
この場にいる政務官、全員が不安そうな言葉を放つ。
しかし、ゼルバを始めとする将軍は、毅然とした態度を崩さなかった。
「メナ国はすでに王族は逃げ出し、ベザ国へと亡命したそうです」
その報告を聞き、更に政務官たちはざわついた。
「楽観的な思考をしても仕方がありません。間違いなくエルエ国は、フェズ国へ攻めて来るでしょう」
ビルガンはひとまずの報告を終え、一度話を止める。
「それで、どうするんだ?」
フェズ王が興味なさそうに聞いた。
「迎撃いたします。その際に、戦争をする許可と、民を徴兵する許可を王に頂きたく思い、軍議を開かせていただきました」
「好きにしろ」
王からは予想通りの言葉が返って来る。
しかし、例えそれが予定通りでも、形式上のみでも行わなければならない事なのだ。
「ありがとうございます」
実のところ、この場にいる誰もが、この儀式が終わったのならフェズ王には退出してもらいたい。そう考えていた。
「それで、どこに攻めてくるんだ?」
だが、フェズ王は気まぐれでそんなことを聞いてきた。
「いえ、そこまでは……相手が攻めてこない事には……」
「わからんのか?」
フェズ王が戸惑うビルガンを睨みつける。
「そ、それは……」
「失礼ながら申し上げます」
ゼルバは、フェズ王の前へと踏み出しながら頭を下げる。
「ゼルバか、久しいな」
「お久しぶりです、フェズ王様」
「それで、なんだ?」
「エルエ国が攻めてくるのは、シタダイルでしょう」
ゼルバがもったいぶらずに結論だけ言うと、フェズ王は少し考えるような素振りをとった。
「どこかはわからんが、エルエ国は攻めてくるのだな?」
自国内の事ではあるが、フェズ王はそこがどこかわからないのだ。
「間違いありません」
それは、ゼルバの予測である。
(私なら、間違いなくシタダイルから攻めますからね)
そして、その予測の根拠は、自分が攻める場合というだけである。
「なるほど……ゼルバよ。お前は嫁か娘はいたか?」
「申し訳ありませんが、おりません」
「そうか、残念だ。次までに娘でも作っとくといい。俺は何歳でも構わないからな」
「……了解しました」
ゼルバはそう答えたが、そんな気はさらさらなかった。
「では、防衛はシタダイルでしろ。指揮はゼルバに取らせる」
ゼルバは、その言葉に驚く。
「ただしゼルバ。失敗したらお前の領地から美女を百人、私に捧げろ」
「は、はい!」
意外な展開に、ゼルバは頭を下げながら、小さく笑った。
「お待ちくださいフェズ王様!」
しかし、ビルガンが大きな声を上げる。
「なんだ?」
話に割り込まれ、フェズ王はあからさまに機嫌の悪そうな声を出した。
「お言葉ですが、ゼルバを出すまでもないでしょう。シタダイルは国境にある国。故に、歴戦の戦士であるバイダンが治める領地であります。指揮を取るのはバイダンでよろしいかと」
「ふむ、まあいいだろう」
意外にも、フェズ王は軽く承諾する。
頭を下げたままのゼルバは残念に思いながら、仕方がない事だと諦める。
「ビルガン。お前には妻が何人かいたな」
「はい」
ビルガンは冷や汗をかきながら答える。
「我が軍が敗北した場合は、お前の妻を俺に差し出せ、そして俺の子種がお前の妻に注がれる様をお前は横で見続けろ。いいな?」
「はい」
ビルガンは承諾するしかなかった。
「当然、美女も百人差し出せよ?」
「仰せのままに」
やはり、ビルガンは頭を下げて承諾する。
手痛い代償となったが、これくらい安いものだとビルガンは考える。
(妻に愛などない。領民にもな)
「疲れたな。これで軍議は終わりだ。あとは好きにしろ」
フェズ王がそう言うと、来た時と同じようにその巨体を、裸の女達が必死に持ち上げて部屋へと運んで行った。
「では、全領地へ、徴兵令を出せ。集まる先はシタダイルだ」
ビルガンが偉そうに命令を出すと、集まった政務官達は、せかせかと部屋から出て行くのであった。
(残念ながら、やはり私がやれることはありませんでしたね)
そしてゼルバも、用が済んだのでさっさと自分の城へと帰るのであった。
こんな場所には、いつまでも居たくないのだから。




