シタダイル丘の戦い②
「ギヨウ。あなたが呼ばれた理由がわかりますか?」
ゼルバの元に着くなり、ギヨウに対してゼルバはそう言った。
(そんなの簡単だな)
聞かれるまでもない話である。
「ゼルバの軍に入れて戦わせてくれるんだろ?」
「違います」
「え?」
意外な答えに、ギヨウは困ってしまう。
しかし、いくら考えてもその理由がわからなかった
「なんでだ?」
「理由は単純です。私の軍は、初めの戦には徴収されないからです」
戦に出ないのなら、ギヨウどころかゼルバ軍は誰だって参加できないのだ。
「じゃあ、俺はどうすればいいんだ?」
「それを教える為に、戦が始まる前の今日、あなたを呼んだのですよ」
ギヨウからすれば、ゼルバが道を示してくれるのはありがたい。
敷かれた道ばかり進むのも問題かもしれないが、今はそれでもいいとギヨウは考えていた。
「結論から言いましょう。あなたは、私の軍の一員としてはではなく、フェズ国の歩兵として参戦するのです」
最初の戦に参戦するには、それしかないという事なのだろう。
「でも、どうすればいいんだ?」
勝手に戦列に加わるわけにもいかないだろう。
「まだ戦は起こっていませんからね。国の軍議すら行われてないのです。私は今からでも憂鬱ですよ。愚王が軍議に参加しないと楽なのですが……おっと話が逸れましたね。軍議が済めば、国中で徴兵が始まります。あなたの住む街から参加すればいいだけですよ」
やけに簡単な話である。
「それだけでいいのか?」
「ええ、ですが、今日呼んだのは、当然そんなことを言う為ではありません。ギヨウ、落ち着いて聞いてくださいね」
ゼルバは一呼吸おいてから、言った。
「最初の戦、フェズ国は負けます」
「なんだって!」
「本当ですか?ゼルバ様!」
落ち着いて聞いてと言われたものの、ギヨウだけでなく、シルルも驚き、大きな声を出した。
「私の予測ですが、残念ながら……」
今まで、ゼルバの予測は全て当たってきている。
それならば、この予測も当たるという確信を、ギヨウとシルルは感じた。
「でも、それがわかってるならどうにかできないのか?」
「私が、全軍の指揮を取れば間違いなく勝てます」
ゼルバは自信満々に言い放つ。
その言葉には、不思議な説得力があった。
だが、ゼルバは戦場へは行かないと先程言ったのだ。
「そもそも、なんであんたの軍は戦場にいけないんだよ」
「王が許さないからです。軍議はこれからですが、王だけではなく、王都には私が功績をあげることを良く思わない者が多すぎます。私が戦に出れるようになるには、一度か二度、フェズ国が負けて、王都にいる者達が焦りだしてからになります」
ゼルバは言わなかったが、それも、確信に近い予測なのだろう。
ギヨウは少し考えたが、考えても仕方がない事だとすぐに思い直す。
「わかった。それでも俺に参戦しろって事は、俺が何かすれば勝てるってことだよな?」
だから、結論だけを求めた。
「それはありません」
しかし、ゼルバは否定する。
「なっ!俺は強いぞ!100人でも1000人でも斬ってやるよ!」
「100人1000人斬ったところで戦況は変わりませんよギヨウ。私の予想では、エルエ国は10万の兵でフェズ国を攻めてきます。あなたが1000人斬ったとして、残りの9万9千人はどうするのですか?」
「そ、それは……」
予想よりも大きい規模の話に、ギヨウは戸惑ってしまう。
「もちろん、戦局を左右するほどの力があなたにはあります。ですが、今回はそれでも負けるという事です」
「な、なら!俺にどうしろって言うんだよ」
「生きて帰ってきてください」
それは簡単な事のようで、簡単な事ではない。
言うまでもない事だが、敗戦というのは、多くの人間が命を落とすものなのである。
「ああ、なんだったら戦功も上げて帰って来てやるよ」
ギヨウはそれを理解しながらも、そう言って見せた。
敗戦だと言われた事に対する不安はない。
それよりも、やはり戦える喜びの方が上なのだ。
「それは頼もしい事ですね。期待して待っていましょう」
そして、そんなギヨウの様子に、ゼルバは嬉しそうに笑った。
「安心しろ、お前が野垂れ死んだら、その辺に墓くらいは立ててやる」
いい感じの話になっていたが、シルルは意地悪くそんなことを最後に言った。
「なんだ。シルルは来ないのか?」
それに対して、ギヨウは素で返す。
「なっ……来ると思ってたのか?私はれっきとしたゼルバ軍だぞ!」
「いや、戦場の事教えてくれるかと思ってな」
ギヨウは戦争に出るのは初めてである。
戦いに対する不安はないが、やはり初めての事には不安もつきまとう。
「まあ、教えてやってもいいが――」
「ギヨウ。戦場の事は、戦場で知るといいでしょう」
ゼルバが口を挟む。
「それもそうだな。言われてもわからなそうだしな」
そんな能天気なギヨウの言葉に、話を遮られたシルルは不機嫌そうに、
「なら、とっとと準備をして待ってろ」
そう言って、さっさと出て行くように示唆する。
「はいはい、わかったよ」
ギヨウは少しゼルバの方を見たが、ゼルバが無言で頷いたので、話は終わりだとして、立ち上がった。
「じゃあ、またな」
そして、別れの挨拶をする、
軽い挨拶ではあるが、次に戻って来るのは戦場からという事になる。
「ええ、また」
「またな」
もちろん、ゼルバもシルルも、それをわかっていて、ギヨウを軽い挨拶で送り出したのだった。




