新天地⑨
「どういうことですか!?ゼルバ様?」
戦が起こるというゼルバの言葉に、過剰に反応したのはシルルであった。
「なんでお前が驚くんだよ」
ギヨウはそう言うが、知らないからこそ、ギヨウに対して戦は起こらないと言ったとも言える。
「なんでってお前な――それがどういう意味かわかってないから――」
シルルは、どうにも歯切れの悪い言い方をする。
どう説明していいのか考えがまとまらないからだ。
「私が全て説明しますから、無理をしなくていいですよシルル」
「は、はい!」
説明できなかったことが恥ずかしかったからか、シルルは顔を赤くして再び黙る。
ギヨウも同じように、出来るだけ口を挟まずに聞こうと決める。
「まずは、この地図を見てください」
ゼルバは地図へと手を伸ばす。
最初から机に並べられていた地図であり、考えるまでもなく、ユガルア大陸の地図だという事はギヨウにだってわかる。
「これは、この大陸の地図です。戦とは、国の間で起こるものであり、国の話は切って話せるものではありません。なので、軽くですが国の話から始めさせていただきます」
最初に前置きしてから、ゼルバは説明を始めた。
「言ったと思いますが、この大陸には七つの国があります。まずは一番大事な国であるメオです」
ゼルバは、地図の中央にある二国の内の一つを指さした。
「この国じゃないのか?」
ゼルバ達の住む国はフェズ国である。
中央にあるメオ国は確かに重要そうではあるが、国としてみたら小さいように見えた。
「ええ、メオ国は全ての国の頂点に立つ国ですから。メオ国には総王がいて、総王こそが、このユガルア大陸の王なのです」
「この小さい国が全ての国を統治してるってことか?」
(アメリカみたいなものか?)
いまいちギヨウにはピンとこなかったが、そう考える。
「そうとも言えますし、そうではないとも言えます。総王は――そうですね。この大陸の象徴のようなものですね」
(ああ違う、天皇ってことか)
ギヨウは先程までの自分の考えを否定し、考え直した。
「血筋がいいのか?」
ギヨウがそう言うと、ゼルバもシルルもとても驚いたような顔をした。
「ほう。よくわかりましたね。まさにその通りです。メオ国はずっと昔からユガルア大陸を治めて来た王の血筋が流れていると言われています」
「何かわるいものでも食べたのか?」
酷い言われようである。
しかし、ギヨウはそんなことは気にせずに、自分の中で考えをまとめる。
(天皇で、昔の――朝廷みたいなもんってことだな多分)
歴史というのは、どこも似たようなものなのだなとギヨウは思う。
「続けますね――二十年程前まで、ユガルア大陸では激しい戦いの日々が行われていました。それを止めたのがメオ国なのです」
戦乱の世を見かねて、朝廷が争いを止めたということなのだろう。
「でも、そんなに簡単に止まるものなのか?」
どれだけの間争っていたのかもわからないし、協議を重ねた結果なのかもしれない。
だが、平和な世の中になったのは間違いないのだろう。
「その疑問はもっともですね。ただ、都合が良かったのですよ。どの国も、戦で疲れていましたからね。一度仕切り直しにしたかったのでしょう。それでも、国同士の小さい小競り合いは続いていましたし、争いの火は絶えることはありません」
「だから、戦始まるってことか?」
「違います――が、その話は少し後にしましょう。先に国の説明をさせてください」
「あ、ああ。悪いな」
ギヨウは口を挟みすぎたことを詫びる。
だが、話が長く、脱線しやすくなってしまうとわかっていても、どうにもギヨウは口を挟みたくなってしまうのだ。
「次に、メオ国と並んで中央にある国。これは、メナ国となります。メオ国とメナ国は、かつて一つの国だったと言います」
「本家と分家みたいなもんか?」
ギヨウの言葉に、やはりゼルバとシルルは驚く。
「先程から鋭いですね」
何気なく口を挟んでいたギヨウだが、しまったという感じでどうにか誤魔化そうとする。
「あ、ああ。俺の住んでた国でもそんな感じの国があるんだ」
ギヨウは嘘は言っていない。
「なるほど、どこも似たようなものですね」
ゼルバも、ギヨウに対して聞きたいことは山ほどあるのだろうが、敢えて聞かずに聞き流す。
「まさに、メナ国はメオ国の分家から作られた国です。私が生まれるよりもずっと前に、戦争が起こり、二つの国に別れたと言われています」
(とりあえず、両国ともお偉い朝廷ってわけだ)
まとめてしまえばそう事である。
「見ての通り、この二つの国を中心に、5つの国が囲っているのが、このユガルア大陸となります」
更に、その外は海や、森や山だったりで、地図には大雑把にし書かれていない。
これより外は、つまり外の世界なのだろう、とギヨウは納得する。
「そして、ここが我々の住むフェズ国です」
それは、ギヨウから見て地図の左上にある国であった。
国の大きさで言うなら上から4番目となる。
「更に、フェズ国から右周りに、ベザ国、ギラグ国、ア国、エルエ国、で七つの国となります」
ゼルバは、順に指さしながら説明をしていく。
地図に書き記された国の大きさで言うなら、大きい順に、ア国、ベザ国、エルエ国、フェズ国、ギラグ国、メオ国、メナ国となる。
「これで、国の説明はひとまず終わりです」
「え?終わりなのか?」
ギヨウは驚く。もっと長い説明があると思ったからである。
「今、国ごとの説明を全部言っても覚えられないでしょう。とりあえず、これから戦を起こすであろう国の話だけをします」
ギヨウは頭が悪い。
だが、それは現代日本の話であり、一応まともな教育を受けてきているのだ。
それに、中央の国を朝廷と例え、周りはそれに従ずる国と感がれば、ギヨウの中ではまだわかりやすい図式になっていた。
だから、実のところ、ギヨウにはまだ余裕はある。
(でも、まあいいか)
しかし、ゼルバがいらないというのなら、わざわざ詳しい説明を追加で受ける事はないと判断した。
「ここまでは大丈夫だ。続きを頼む」
「そのようですね。思ったよりすんなりと受け入れてもらって助かります」
ゼルバは、実のところギヨウは話の中身を理解できないのではないかと思っていた。
だが、様子を見た限り、しっかりと理解できているようで、ゼルバは心の中では安堵していた。
「それでは、シルルに聞きましょう。この中で、戦を起こすとしたらどの国ですか?」
「それは――」
シルルが迷うことなく指を動かして、地図のある場所を指す。
それは、フェズ国の左隣にある、エルエ国であった。
「正解です」
「なんでわかったんだ?」
ギヨウはシルルへと聞く。あまりにも迷いがなかったので、何か理由があるはずである。
「エルエ国は好戦的だからだ。20年前も暴れに暴れて、領土が隣接している我々と、ア国の土地を奪い取って自分のものとしてしまった。元はこの半分くらいしか領土は持ってない国だったのだぞ」
「そして、ちょうどよく停戦の命令が下り、エルエ国は奪った領土を整える機会を得ました」
「それから、20年……再奮起するには十分すぎる時間って事か……」
「それなら良いのですが、私の考えでは恐らく違います」
「え?」
ギヨウとシルルは、驚きゼルバの顔を見た。
「ただの戦争なら良いのですが、恐らくエルエ国は、今度は全てを取りに来ます」
「どういうことだよ?」
ギヨウにはよくわからなかった。
(全てって事は、フェズ国を落とすって事か?でもそれって、攻め入るのなら同じなんじゃ?)
「よくわからないという顔をしていますね。少し話は逸れますが、今エルエ国では王位継承の争いをしています。前王が病でいつ死んでもおかしくないからです」
突然の話に、ギヨウは戸惑う。
そんなギヨウを置いて、ゼルバは話し続けた。
「そして、私の予想では、ある者がエルエ国の王となると思っています」
「なんでそんな事が言えるんだ?」
「私がその者を何度か見た事があるからです。その時私は思ったのです。その者が私に似ているな、と」
それはもちろん、顔が似ているとかそういう類の話ではない。
「もし私が、エルエ国を手に入れたのであれば、目指しますからね」
不敵に笑うゼルバに、ギヨウは聞く。
「何をだよ」
「ユガルア大陸の統一をです」
「ええ!」
シルルが大きな声を上げ驚く。
戦が起こる起きないとは、話のスケールが一段階違うのだ。
「つまり、その誰だかわからない奴が王になったら、そいつもユガルア大陸の統一を目指すって事か?」
「間違いありませんね」
ゼルバは言い切った。
「そして、それが出来るだけの強さがエルエ国にはあります。でなければ、こんな大それたことは考えませんからね」
「ですが、メオ国はそれを許さないでしょう!」
シルルは叫ぶ。
朝廷があるのであれば、今現在この大陸を統一しているのは朝廷のようなものなのだろう。
「ええ、だからエルエ国は、まずメオ国とメナ国を滅ぼすでしょう」
「なっ!そんな事がっ!」
シルルは驚き、声すら出ない。
だが、反対に、ギヨウはそんな事を言われても、この国の歴史には詳しくないし驚くというようなことはない。また同じような話があったのを思い出す。
(よく覚えてないけど、授業で足利の朝廷かなんかが滅ぼされて、織田信長が新しい将軍を担ぎ上げたとか言ってた気がするな。そんな感じの事がこれから起こるのか?)
「大陸の統一を目指すというのはそう言う事ですよ。あの者なら間違いなくやります」
「あの者、あの者、っていうけど、そいつの名前はなんて言うんだ?」
「その者の――未来のエルエ王の名は――ギャジィルと言います」




