新天地⑧
ギヨウは二日の時間をかけて、再びゼルバの城へとやってきた。
初めて来た時は、珍しさでそこら中をキョロキョロとしたものだったが、ギヨウの住む街とそう変わらない城下町で、もうそういった事をすることはない。
ギヨウとシルルは、寄り道することなくゼルバの城へと入っていく。
「久しぶりですね。良く来ました、ギヨウよ」
そんな事を言ってギヨウを、ゼルバは快く迎い入れた。
前回とは違い、ゼルバは職務を行っておらず、周囲には誰も居ない部屋でギヨウと会った。
ただし、部屋の中央には大きいテーブルと地図があり、その机を囲むように椅子が三つ用意されていた。
そして、そのうちの一つに当然既にゼルバは座り込んでいた。
「久しぶり。待たせて悪かったな」
ギヨウはそう言いながら椅子へと座る。
椅子の位置は、ゼルバとは向かい合っている形となる。
「私もよろしいのですか?」
シルルは、ギヨウに対してとは全く違う態度、声色で、ゼルバへと問う。
「もちろんです」
ゼルバからの許可を得ると、シルルは椅子に座ろうとしたのだが、椅子の位置はギヨウの隣である。
椅子に手をかけて、少し迷った後シルルはそのまま座ることにした。
(ゼルバ様の隣が良かったのだが)
迷った理由は単純にそれだけであり、椅子を動かそうかと思ったのだ。
「さて、それでは始めましょうか。何の話か覚えていますよね?」
それは、どちらかと言えばギヨウがゼルバに聞こう思った言葉だ。
自分の事ではないし、少し聞いただけの話なので、ギヨウはゼルバが忘れている可能性もあると思っていた。
「ああ、俺が将軍にはなれないと、シルルから言われた話だな」
ギヨウにとっては大事な事である。
「まず、先に言ってしまうと、貴方が将軍になるのは可能――だと私は思っています」
ゼルバにしては、どうにも歯切れの悪い言い方である。
(つまり、可能でも障害は多いって事だ)
「でもシルルは無理って言ってたぞ」
どうにも意地が悪い感じで、ギヨウは突っかかっていく。
「おい貴様――」
シルルは、ギヨウから責任を押し付けられたような形になり、抗議の言葉を上げようとした。
「そうですね。その内容も聞きました。ですから、それらを一つ一つ解決していきましょう」
だが、その言葉をゼルバは遮る。不毛な言い争いを避けるためである。
「まず一つ目は、貴方の身分ですね」
「俺の身分ってどうなってるんだ?」
そもそも、この国に戸籍も何もないギヨウは、自分がどんな身分になっているのか知ってすらいなかった。
「私が平民として処理しておきました。この国の者ではない者を、貴族にするのは難しいですからね」
この国に人を管理するシステムがあるのかはわからないが、それは仕方がない事なのだろうと、ギヨウは納得する。
しかし――
「でも貴族じゃないと将軍になれないんだろ?」
そういう話であった。
「正確には、今この国にいる将軍は、皆貴族の出というだけですね」
「それって、ほとんど変わらないんじゃないか?」
シルルが、貴族以外は将軍にはなれないと言っていた事も納得は出来る。
「前例がないというだけで、戦で大きな手柄を立てれば、将軍になることは可能だと思いますよ。私の推薦もつけれますし」
(ただの予想じゃねーか)
しかし、ゼルバが言うと妙な説得力があるので、ギヨウは黙った。
「他の国では平民あがりの将軍どころか、野盗あがりの将軍までいるところもあるそうです。この国にも、平民あがりの城主ならいますしね」
ゼルバが補足するが、正直に言うとギヨウからすればここはそれほど問題ではない。
「だけどよ、その戦がないって――」
「ええ、それは一番大事な話なので最後にしましょう」
ギヨウの言葉を、ゼルバは途中で止める。
「ああ、わかったよ」
ギヨウは焦ることはない。時間はたくさんあるのだから。
「それでは次ですね」
「この国の王が愚王ってやつな」
「お前、打ち首だぞ」
シルルが楽しそうに口を挟んでくる。
「お前だって前言ってたじゃないか」
「そうだな。外では言うなよ」
もちろん外で言っていない。
というか、ギヨウは言う機会がないのだ。
「フェズ国の現王は愚王です。これで、私も打ち首ですね」
ゼルバは楽しそうに笑う。
「それで、その話は俺にはピンとこないんだけどよ。そんなに関係あるのか?」
らちが明かないので、ギヨウは強引に話を進める。
「もちろんあります。将軍と言うのは、王の次に軍事の権力を持っている者ですからね。王の任命がないとなれません」
「でも、その王が愚王だから平民の将軍は認めないってことか……」
「そうなりますね」
ギヨウは、その話を聞いてずっと気になっていたことがあった。
「関係ない事なんだけどいいか?」
「どうぞ」
「前も聞いたかもしれないけどよ。なんでゼルバは、そんな愚王に従ってるんだ?」
ゼルバの領土の人間達を見れば、ゼルバが自領地内でまともな政治を行っているのは明白である。
そんなゼルバが、愚王に仕える理由がギヨウには全くわからなかった。
「まあ、そうなりますよね……あなたもこの国で将軍を目指すのなら、愚王に仕えるという事になるのですから……」
「そうだな」
ギヨウは、最強を目指している。
それが、愚王の元でも構わないと言えば構わない。
だが、それでも上に立つ者が愚王では、嫌になる事はあるだろう。
「まず最初に一般論からすれば、私がこの国で生まれたからですね。やはり、生まれた国を愛し、生まれた国で生きるという人は多いでしょう」
(それは、まあそうかもな……)
ギヨウも、日本にいた頃に戦争になったとして、日本人として日本の為に戦っただろう。普通の事だと思う。
「そして、これは私個人の話になりますが、前王に大きな恩があるからです」
現王がいれば前王もいる。
だが、ギヨウからすればどちらも全く知らない人間である。
「前に、私の故郷が滅んだという話はしましたね」
ギヨウは黙って頷く。
「そんな私を保護してくれたのが前王です。もちろん私が有力な貴族だったということもあります。しかし家族も、領土も失い、子供しかいなくなった貴族など無くそうと思えば無くせたはずです」
(というか、現王ならそういうのは無くしてしまうって話なんだろうな)
ギヨウは思ったことは口に出さずに、黙ってゼルバの話を聞く。
「全王は賢王でした。彼の元、国は豊かになり、争いの少ない平穏な日々が続いていました。もちろん、私を将軍に任命したのも前王です」
ゼルバの若さを考えれば、最近までは前王が存命だったのは簡単に予想できた。
「しかし、全王は病で死んでしまいました。その時、私は言われたのです。この国を頼む……と」
ゼルバはとても寂しそうな顔をする。それだけ、悲しい出来事であったのは話からも、表情からもうかがえた。
「まあ、つまり最初に言った通り私は前王の恩に報いる為に、この国の為に力を尽くしているわけですね」
「そうだったんだな」
ギヨウは当たり障りのない返事をする。
気軽に聞いてしまったが、思ったよりも重い話だったからである。
「少し外れてしまいましたが、現王の話でしたね」
「あ、ああ」
ゼルバの方から話を修正してくれて、ギヨウは正直助かる。
「現王は、政治などは丸投げで、自分が楽しめさえすればなんでもいいという愚王ですが、どうしようもない馬鹿ではありません。私の首が落ちていないのが、その証拠です」
(つまり、ゼルバは現王から見ても邪魔なんだな)
その理由は定かではないが、ゼルバかまともな政治をしているからであろう。
「ここで話を戻しますが、つまり馬鹿ではないので、無視できない程の戦功をあげてしまえば、現王とその取り巻きも、あなたを認めざる負えない事になるという事ですよ。私も功績を認めているからこそ、将軍の地位でいられるというわけですから」
「なるほどな」
だが、そうなると、やはり最後の話へと繋がって行ってしまう。
「で、だ。どうやって戦功をあげるんだよ。戦がないんだろ?」
もういいだろうと考え、ギヨウは最後の話へと切り込む。
「そうですね。今は平和な世ですから」
ゼルバは一呼吸置いてから、更に続けた。
「ですが戦は起こります。それも近いうちに」




