エルエ国滅亡の日⑤
ゼルバ達一行は準備をしてから、隠し通路へと入る。
薄暗いその通路を、松明の光だけを頼りに進んでいく。
と言っても、迷うようなことはない。ただの一本道であった。
「なあ、俺が来たら駄目だったんじゃないか?」
その途中で、イズエラがそんな事を言った。
「なんでだ?」
「これだよ、これ」
ギヨウが聞くと、イズエラは自分の得物である槍を持ち上げて見せた。
と言っても、少し持ち上げただけで、天井に届いてしまう。
「見りゃあわかるだろ、こんな狭い通路じゃ戦えないぞ」
「そんなこと言われても、俺は知らなかったしよ」
ギヨウは、ただ精鋭を集めろとしか言われなかったのだ。
「ここで戦いになる事は無いと思いますよ」
「まあ、それって敵の大将が逃げ出す時ってことだもんな」
まだ戦は、そこまでいってないはずである。
「それもありますが……私の考えでは、もう一つ理由があります」
ゼルバが意味深な言葉を言うので、ギヨウは聞き返す。
「それってなんだよ?」
「それは、後でにしましょうか」
だがゼルバは、笑ってそう答えたのだ。
「なんだよ」
もったいぶったゼルバの言葉に、ギヨウは拗ねる。
そんな軽いやり取りをしながら、ギヨウ達は隠し通路をどんどんと歩いて行ったのだ。
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「ふわぁ」
ある程度歩いた辺りで、イズエラがあくびをした。
「おい、緊張感がないぞ」
ギヨウが注意するが、そもそも誰も彼も緊張感がない。
「いや、多分、もう夜なんだよ。俺はお前達と違って、夜は一人で寂しく早くに寝てるから、もう眠くなっちまってよ……」
イズエラが意味ありげな視線をシルルとミュエネに送り、二人は少し顔を赤くした。
「どういうことだ?」
ただ、ギヨウはよく意味が分からなかったらしく聞き返してしまう。
「わざわざ聞き返すなよ……」
イズエラは、気まずそうにそう言う。
ゼルバはそのやりとりを見て、顎に手を当てたが、何も言わなかった。
「おっ、見えてきましたよ」
代わりに、あるものが見えてきたため、話の方向を変えた。
それは、石造りの階段である。
「やっと着いたって感じか」
「まだこの長い階段を登らなければいけませんがね」
その階段は長く、急で、狭かった。
ギヨウ達は、それを慎重に登っていく。
「それでは、先ほどの理由の話をしましょうか」
ゼルバが急にそう言ったが、ギヨウは驚いてしまう。
「喋って大丈夫かよ?もう城の中なんだろ」
音が漏れるかもしれない。
「音が漏れるようでは、隠し通路にはなりませんよ」
だが、ゼルバがそう言ったため、そういうものかとギヨウは納得する。
「そもそも、どの城にも、要人が城から脱出するための隠し通路というのはあるものです」
「それはそうだろうな」
それが生死を分ける事もあるのだ。
「それがわかっているなら、攻城戦をするなら、誰もがその隠し通路から城に侵入しようとするでしょう」
ギヨウは納得したように頷く。
「ですから、城を守っている側が、その弱点を放置するはずがありません。必ず何かしらの対策をしてくるはずです」
「それが、さっきの廃村に隠してあると言う事じゃないのかよ?」
「それも一つですね」
対策方法はいくつもある。
「例えば、内側からは絶対に開かない様にしたり、入り口に兵を配置したりですね」
「なるほど……って!」
やはりギヨウは頷いたのだが、それに気が付いて声を荒げた。
「駄目じゃねえか!」
それはつまり、この隠し通路も対策されていると言う話になる。
「ただ、今この通路だけは違うのですよ」
「ん?どういうことだよ?」
ギヨウには、まるで理解できずに考え込む。
それは、他の兵も同様であった。
「ここの城主はだれですか?」
「ん?あれだろ…えっと……グ……グモットとか言う奴だろ?」
「グモジジットだ」
「そうそう、それそれ」
ギヨウはが適当に答え、シルルに訂正をされた。
「そうですね。ですが、それは今のです。元はズェガェ将軍の城です。そしてズェガェ将軍は死にました」
ゼルバは、はっきりと言う。
「なるほど、そういうことですか。流石はゼルバ様です」
シルルが何かに気づき、ゼルバを褒めた。
「どういうことだよ?」
相変わらず、ギヨウには意味が分からずに、聞き返す事しか出来ない。
「つまり、グモジジット将軍は、正式にこの城を引き継いだわけではないと言う事ですよ」
「隠し通路を知らないと言うことですか?」
イズエラがギヨウより先に気付いて、得意気に言った。
「かもしれないですがね」
あくまで予測でしかなく、そのためゼルバもここに来る前に使えるかどうかを危惧していたのである。
「あの戦ではズェガェ将軍だけでなく、ズェガェ将軍の主要な部下も全員討ち取りました。ズェガェ将軍は、自信家ですし、自分自身以外だと、エルエ王にしか隠し通路の場所を教えていなかったかもしれませんし」
「なるほど……」
勝算のある予測という事である。
「まあ、最悪中に入れなくても、戻ればいいだけですしね」
「いや、もう戻りたくねえよ……」
ここに来るまでかなりの時間を費やした。
無駄足だったとなれば、辟易してしまう。
「それもすぐにわかりますよ。ほら、行き止まりです」
ゼルバの言う通り、階段はついには、上の壁に行きあたってしまったのだ。
しかし、階段は壁のギリギリまで続いており、明らかにこの壁が開くと言う感じであった。




