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エルエ国滅亡の日⑥

 ギヨウは、さっそく壁へと手を添えて、壁を持ち上げようとする。

 

「ん、んんんん!!!」


 どれだけの力が入っているか想像できない程、ギヨウの腕の筋肉が盛り上がる。


「どうです?」

「駄目だ」


 だが、ギヨウは壁から手を離すと、首を横に振ったのだった。


「やはり、開きませんか」


 ゼルバは、困ったように顎に手を当てる。

 そもそも、外からは開かないような仕掛けになっている可能性も高い。


「いや、動きそうな感じはしたな。ただ重いだけかもしれねえ」


 だが、ギヨウはそう感じたのだ。


「では、人数を増やしてもう一度……」


 ゼルバはそう言っている途中で、あるものに気が付き、それを見る。

 それは、イズエラの方向であった。


「どうしたんだよ……ああ」


 そして、ギヨウも気が付いたのだ、


「え?なんだよ?」


 視線を向けられたイズエラは、訳が分からず困惑する。


「わりい、イズエラ。ちょっと貸してくれ」


 そう言ってギヨウが手に取ったのは、イズエラの槍である。


「え?……お前、まさか……」


 そこで、イズエラも槍を何に使うつもりか気が付く。


「ああ、こう使うんだよ」


 それは、てこの原理である。

 槍の穂を逆に向け、柄を階段の段差へと置き、底の石突の部分を壁へと向けたのだ。


「ちょっ!待ってくれよ!俺の愛槍なんだぞ!折れたらどうするんだよ!」

「大丈夫だ。お前の愛槍なんだから、頑丈だろ」


 全く根拠がない。


「まあまあ、我々の槍も使いましょう」


 兵達も槍を差しだすが、その槍を見てイズエラは断る。


「いや、いい」


 はっきりと言うと、イズエラの槍とは質が違いすぎる。

 すぐに折れるのは明白である。

 対するイズエラの槍は、高級品である。

 槍の名手イズエラは、槍にだけは妥協しなかったのだ。


「その代わり、俺にやらせろ」


 自分の槍である。折れるにしても、自分の手でという気持ちがあった。


「じゃあ、俺が真ん中で、力自慢の奴等は手伝ってくれ」

「はい!」


 狭い通路に密集して、兵達は準備をした。


「よし!じゃあいくぞ!」

「はい!」


 ギヨウの号令で、全員で力を入れて壁を押す。

 

「折れるなよ……折れるなよ……」


 イズエラは槍をてこの原理で使って、そこに参加しており、その槍は鉄製であるのにかなりしなっていた。

 そのため、イズエラは呪文のように呟き続けたのだ。


「動くぞ!」


 はたして、槍のてこの原理が聞いたのか、人数を増やしたのが良かったのか、ギヨウは確かな手ごたえを感じて叫ぶ。

 その声に呼応したわけではないが、壁は持ち上がり、入り口となったのだ。


「うおおおお!」


 一度持ち上がってしまえばと、ギヨウは雄たけびを上げて壁を無理矢理押し込んだ。

 壁はそのまま持ち上がると、垂直に立ち、反対側へと倒れたのだった。


 だが、それで終わりではない。

 待ち伏せがある可能性もあるのだ。

 入り口が開いた途端に、シルルとミュエネが飛び出し、周囲を警戒した。


「誰もいないわね……」

「ああ」


 しかし、そこには誰もいなかったのだ。


「なんだここ、浴場か?」


 安全を確認すると、ギヨウ達もそこへと上がってくる。

 そこは、浴場としか言い表せない場所であった。

 変わっているところと言えば、とにかく広いと言うところくらいである。


「湯が沸いてますね」


 ゼルバが言う。

 浴場は湯気で満ちており、沸きたての湯が張っているようであった。


「折れてない……折れてないよな……?」


 皆が浴場に気を取られている中、イズエラは唯一、自分の槍の心配をしていた。 


「だ、大丈夫そうだな」


 パッと見て、無事な槍を確認し、イズエラはホッとする。

 そのイズエラの見ていないところで、槍に小さな亀裂が入った。


「誰か使うと言う事でしょうか?」


 全員が部屋へと上がると、兵の一人が言った。


「そうかもしれませんね。早いうちに移動した方がいいでしょう」


 ゼルバがそう言った……その時だった。


「おい!誰かいるのか?全く……準備が終わったら全員出て行けと言っておいたのに……」


 浴場の入り口から、声が聞こえてきたのである。

 全員が焦り、身構える。

 中でもギヨウは、すぐさま浴場の入り口の扉へと近づこうとしたのだが、それよりも早く扉が開く。

 入ってきたのは、裸の、大柄な男であった。


「しかし、ズェガェもいいものをのこし……ん?なっ!だ!」


 次の瞬間、男の口に槍が突き刺さっていた。

 イズエラの槍である。

 大柄な男は、ギヨウ達を確認した瞬間、異変を感じ、叫ぼうとしたのだ。

 しかし、それを防ぐために、イズエラが槍を投擲しその口を塞いだというわけである。

 最も、塞がれたのは口だけではなく、命もであったのだが。


「やるじゃねえか。槍投げた方が強いんじゃないのか?」


 その見事な投擲を、ギヨウは褒める。

 

「馬鹿野郎、戦場で得物を手放す馬鹿がどこにいるんだよ」


 イズエラは槍へと近づくと、その槍を抜こうとした。


「あ……」


 しかし、槍はその瞬間、折れてしまったのだ。


「お、俺の愛槍が……」


 イズエラは折れた穂先も抜き取ると、真ん中で真っ二つになってしまった槍を地面に置いて、その場に崩れ落ちた。


「わ、わりぃ……」


 謝り、慰めに行ったのはギヨウである。

 大丈夫と言った事に責任を感じたからである。


「なんとも間抜けな奴だな。素っ裸で死ぬなんて……しかし――」


 シルルがそう言いながら、男のある場所を見る。


「体がでかいくせに、ギヨウの半分くらいしかないな……」


 そして、とんでもない事をぽつりと呟いた。


「えっ!」


 それに、兵達は驚き。


「ああ、なるほど」


 ゼルバが納得したように頷いた。

 別にゼルバが純粋なわけではなく、奥手なギヨウがそこまで進んでいるとは思いも寄らなかっただけである。


「あ……い、いや違う。違うぞ」


 シルルは、本当に何気なく言っただけのようで、顔を赤くして謎の否定を始める。


「それよりも……もしかしたらこの男……」


 その妙な空気をゼルバは気にもせず、神妙な顔つきで死んだ大柄な男を見る。


「グモジジット将軍ではありませんかね?」

「えっ!」


 その発言に、誰もが驚く。


「なんでわかるんだ?顔か?」


 ギヨウが、イズエラから離れてゼルバへと聞く。


「いえ、流石にエルエ国の将軍の顔までは知りません。しかし、ここはズェガェ将軍が使っていた浴場でしょう。そこに一人で入れる者と言うのは、恐らく今の城主くらいしかいません」


 城主と言うのはつまり、グモジジット将軍というわけである。


「えーっと、つまり……この裸で死んでる間抜け野郎が敵総大将だと言う事だよな?」

「そうですね」

「じゃあ、もう帰っていいってことか?」


 ギヨウに言われて、ゼルバは考え込む。

 いや、元からゼルバは考えていたのだ。


「いえ――」


 この後の動きの事を。


「まだ兵が来ないと言う事は気付かれていないのでしょう。例え城主がいなくても、この城が堅城である事には変わりありません。城門を開きに行きましょう」

「まあ、これで帰っちゃつまらねえからな」


 ゼルバの結論に、ギヨウが楽しそうに答える。

 そして、ここにいる精鋭兵は、誰一人として反対する者はいなかったのだ。

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