エルエ国滅亡の日③
ゼルバの軍は、特に問題もなく行軍をしていく。
それは、かつてのエルエ国の領土、現在フェズ国の領土となった場所でも同じであった。
その途中のある村を通る時に、ギヨウは周りの様子に気を取られる。
「なんか普通だな」
その村の様子は、なんというか、とても普通だったのだ。
家には戦火の跡などなく、住民は普通に畑仕事をしている。
村を通る軍を見はするものの、それほど気にしている様子もなかった。
つまり、普通としか言い表せなかったのである。
「この辺りは、戦わずに終わったところですからね」
ギヨウの言葉に、ゼルバが答える。
余りにも道中に障害がなかったため、ギヨウはアカツキ隊をシルル達に任せて、自分はゼルバの近くで馬を歩かせていた。
「そう言うところも多いんだよな?」
もはや兵力の少ないエルエ国は、自領地に割くほどの兵力はなく、抵抗することが出来ない領地も多かった。
「でなければ、こんなに早く侵攻が出来ませんからね。それよりも――」
「ん?」
「あまり油断はしないようにしてください」
ゼルバは、鋭い眼光で村を見回す。
「どうしたんだよ?」
ギヨウには、ただの平和な村にしか見えない。
「この村が戦火に包まれていなくても、家族を戦争で失ったものや、エルエ国への愛国心があるものは、我々を目の敵にしてるかもしれません」
「そうだな」
ゼルバの心配も杞憂で、軍は何の問題もなく進軍をしていった。
そしてついには、エルエ国王都の前、戦場となっている元ズェガェの主城であるタハルニオ城へと着く。
障害もなく行われたその進軍は、前に行われた進軍の半分で済んだのだった。
♦
戦場では、まだ戦が行われていた。
ゼルバは、主要な人物を連れてすぐさま本陣へと向かった。
当然、その中にギヨウは入っていた。
「おお!英雄が来おったぞ!」
本陣でゼルバ達を迎え、そんな言葉を放ったのは、意外にも、この戦の総大将マチェバナン将軍であった。
「英雄って……ゼルバの事か?」
ギヨウはその言葉の意味が分からず、また緊張感のなさに呆れたように言う。
「馬鹿を言うな、お主じゃよ」
「俺?って、お、おい」
そう言ってマチェバナン将軍は、自らギヨウの元へと歩いて行くと、ギヨウを連れて総大将の席へと戻って行った。
「よくやったぞ!」
「おかげでついに勝てそうだ」
「ゼルバ様も凄いが、お前も凄いよ」
すると、その場にいる者が拍手と、歓声をあげる。
「な、なんだよ、急に」
その扱いに、ギヨウは戸惑ってしまう。
「お主はズェガェとオグルブ、エルエ国の四傑将を二人も倒したんじゃ。特にオグルブめには痛い目を見せられたことが多かったからのう……なっ、ガエロオよ」
「ふんっ」
話を振られて、ガエロオは鼻を鳴らした。
「いつか、俺が叩き切る予定だったのよ」
ギヨウを褒める流れではあるが、ガエロオ将軍だけは素直ではなかった。
ズェガェやジアヒスに比べると、オグルブは勇猛であり、戦争に出た回数は突出して多かった。
そのため、マチェバナンなどは、オグルブに煮え湯を飲まされた事が多かったのだ。
さらに言うなら、四傑将を二人も倒したともなれば、ギヨウを英雄扱いするのも当たり前の事である。
「へへへ……」
あまり知らない将達に褒められ、戸惑っていたギヨウだが、段々といい気分になって来て、照れ笑いをする。
「そろそろ、よろしいですか?」
空気を読んでいたゼルバだが、流石に話を進めるために口を開いた。
「おお、そうじゃな。座ってくれ、ゼルバ」
そう言って、マチェバナンは中央奥にある総大将の席を明け渡す。
「いえ……我々は援軍ですので、そこにはあなたが座っていてください」
「むっ……そうか」
だが、ゼルバは否定し、マチェバナンはギヨウを解放して自分が席へと座った。
「戦況はどうでしょうか?」
「ゆっくりと進めておるよ。敵総大将グモジジット将軍は別に恐れる事はないが、ズェガェの城は流石に堅い。これほどの堅城は見たことがないわい」
実の所、マチェバナンには急いで城を落とす理由はなかった。
兵糧は近隣から運ぶことができ、兵糧切れの心配はない。
更に、ゼルバの援軍も来る予定であったのだ。
元々兵も少なかったので、マチェバナンは無理に攻める気はなかったのである。
唯一心配があるとすれば、王都からのエルエ王の逃亡であるが、急ごうが急ぎまいが、エルエ王がその気ならこの戦が始まる前に逃亡しているはずである。
「ですが、やはりあったでしょう?」
そして、兵を無駄にしない戦いは、ゼルバの指示でもあったのだ。
それと同時に、ゼルバはある指示を出していたのだ。
「おお、あったわい。どの城でもあるがの……こんなに遠くにあるのは始めて見たわ。本当に守りには入念な男じゃよ。だが、使えるかの?」
「急ぐ戦でもありませんからね。行くだけ行ってみましょう」
「うむ、これが地図じゃよ」
ゼルバは、マチェバナンから地図を受け取る。
ある場所に丸で印がつけられた地図である。
「ベルベンには、マチェバナン将軍の命令を聞くように言ってあります」
「そうか。って、まさかお主も行くのか?」
ギヨウには何の話かわからないが、マチェバナンは何故かひどく驚いている。
「まあ、ギヨウがいれば大丈夫でしょう」
「え?お、おう」
急に話を振られたギヨウだが、よくわからないままに返事をした。
「ベルベンには、マチェバナン将軍の命令に従うように言っておきます。うまく使ってください」
「うむ、任せておけ」
マチェバナン将軍が頷くと、ゼルバはギヨウの方を向く。
「では、行きますよ、ギヨウ」
そして、ギヨウを連れて本陣を出たのだった。
「行くって、どこにだよ!」
全く話が読めないギヨウは、ゼルバへと聞く。
「まずは、アカツキ隊ですね」
だが、ゼルバはまともには答える気はないようであった。




